第三章 婚約破棄令嬢は自由を求める
第33話 ちょちょいのちょいだよ
――――――
「おめでとうございます、モミジさん、リーシャーさん、セルさん。あなたたちは見事、Cランクに昇格しましたよ」
私たちが冒険者になってから数日。私たちは着々と依頼をこなしていき、その甲斐あってスムーズにCランクになることができた。
受付嬢のキャンちゃんさんに、祝われる。
私は冒険者モミジとして、パーティー『コメット』のメンバーとして、二人の仲間とともに戦っていた。
いや、なにと戦うってわけでもないんだけどさ。
Cランクになったことで、白色だった冒険者カードは赤褐色に変化する。すごい、本当に自然に色が変わっていくんだ。
「おぉ、やっべぇ……」
なんか、これまでにいろいろな魔法を見てきたけど……改めて感動するなぁ。
特に私は回復魔法"しか"使えないから、こういうのは新鮮。
そりゃ、回復魔法で感謝されることはあるし、私だって驚くほどにすごいと思っている。
だって、前世だと……人間の科学の発展はすごいけど、どれだけ医療が発達しても、どれだけ手を尽くしても深い傷は治るまでに数日から数週間かかる。
けれど、回復魔法だと一瞬……とまではいかないけど、本来なら数日以上かかるであろうことを思えば一瞬だ。
「あっ……えーん!」
「おっ?」
冒険者カードを掲げて眺めていると、外から女の子の泣き声がした。
私はリーシャーの「モミジさん!?」という声に止まることなくその場から走り、外に出た。
転んで膝を擦りむいてしまった女の子が、わんわんと泣いていた。私はその子の側に駆け寄り、擦りむいてしまった膝を見る。
そこからは血が流れ、結構強めに打ち付けたことがうかがえる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
安心させるように女の子の頭を撫でると、私は女の子の膝に逆の手をかざす。そして、集中する。
体内の魔力に意識を集中させ、魔力を活性化、働きかける。ぽわ……と手のひらから淡い光が漏れ出し、それを女の子の膝へ。
光に包まれた膝の傷は、みるみる血が止まり……傷が再生していく。そして光が消えた頃には、まるでそこに最初から傷なんてなかったかのようなきれいな膝に戻っていた。
「ほら、もう痛くないよ」
「あ……ほ、本当だ!」
ぴょん、と起き上がり、不思議そうに膝を撫でる女の子。その様子がおかしくて、思わず笑ってしまう。
今の一例がそうだ。膝を擦りむいただけ、とはいえ、治療には傷口を洗い消毒……そして絆創膏などを貼って日を置かないと治らない。
私たちができるのは傷が治りやすい環境を作り出すこと。傷を治すのは、あくまで自然治癒だ。
だけど、この回復魔法はその人の自然治癒能力を活発にするように働きかける力を持っている。さらに、消毒なども組み込まれているらしい。
自分の魔力を使い、対象の治癒能力に働きかける。それが、回復魔法というもの。
「ありがとーう! ばいばいおねえちゃーん!」
「もう転んじゃだめだぞー」
手を振り去っていく女の子。また走って転ばないといいけど。あんな子の笑顔を守れるなら、この力は嬉しいものだ。
それに……私はこれまで試す機会はなかったけど、どうやら回復魔法は人体の欠損部位にも作用するらしい。
言ってしまえば、千切れた腕を元に戻す……生やすことができるってことだ。そんなの、現代医療では不可抗なこと。
もっとも、傷の具合によって術者の魔力が大小必要になる。擦り傷程度なら少なくて済むし、欠損部位を生やそうと思ったらそれこそ大規模な魔力がいる。
「モミジさん。女の子を助けてあげたんですね」
「助けたなんて……大げさですよぉ」
セルティーア嬢に後ろから声をかけられ、つい照れてしまう。
……対象の自然治癒能力に働きかける。だけど、対象が自然治癒できないほどに弱っていたとしたら。
例えば四肢欠損、例えばインフルエンザみたいな病……免疫力が落ちれば、当然自然治癒能力も低下する。
だからこそ、私の魔力を使って治癒を手助けする。
「モミジさん、人助けもいいですがあまり回復魔法を使わないでください。以前も倒れたことをお忘れですか」
怒っているのか呆れているのか、リーシャーが目を吊り上げて私を注意する。
「はぁい、ごめんなさい。でも、あのくらいの怪我ならちょちょいのちょいだよ」
そう、彼女の言うように私は以前倒れたことがある。以前って言っても数年前のことだけど。
まだ回復魔法についてあまり知識のなかった私は、人々の怪我や病気を治していた。
だけど、魔力の枯渇は体力の低下に繋がる。連続使用は、心身ともに疲労を溜めていくのだ。
そして極めつけだったのが、そのタイミングで重病者を治癒したこと。
ただでさえ魔力と体力が低下しているところに、自然治癒できないほどに弱った患者。私は無意識に、自分の魔力を使って患者の自然治癒能力を手助けする形になっていた。
その結果として、病こそ治ったけど体内の魔力が尽きてしまった私は、倒れてしまったのだ。
「でも、今はもう魔力の使い方とかバッチリだから。もうあんなことは起きないよ!」
「不安」
大丈夫大丈夫、と言ってみせても、リーシャーは不安をあらわにする。
心配をかけてしまったのは確かなので、私も申し訳なさは感じている。
回復魔法。とても便利だけど、冒険者としてCランクに上がった以上、Dランクよりも危険な依頼は増えるだろう。
なので回復魔法の使い所は考えないとな。もしリーシャーやセルティーア嬢が怪我をして、でもそのとき魔力切れで魔法使えませんでした……となるとお話にならない。
「それで、早速Cランクの依頼見てみようよ!」
ワクワク、と私のテンションは上がりっぱなしだ。
リーシャーはため息を漏らし、セルティーア嬢は苦笑いを浮かべている。最近、よく笑ってくれるようになったと思う。
セルティーア嬢と言えば、あれ以来王子の動きはない。今もセルティーア嬢を探しているのか、それとも諦めたのかはわからないけど。
ちなみに今も、ウチに泊まっている。ウチじゃすっかり馴染んだよ。
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