彼氏は全裸配信者

ぬまのまぬる

咲夜side その1

第1話 全裸の世界は厳しい

「では今日は、全裸でピアノを弾きます!お尻が映ったら即終了!応援してね!」


カメラが回っているのを確認すると、僕―白崎咲夜(配信者名:全裸男)は仮面をかぶったまま元気よく声を張り上げた。


部屋の天井からは、裸が映らないように設置した黒い板がぶら下がっている。

椅子に座った僕のちょうど胸から尻くらいがぎりぎり隠れるサイズのものだ。


今日弾くのは一部では有名な深夜アニメの曲。

ちゃんとした楽譜がなかったから、練習には結構苦労した。


ひとつ深呼吸して弾き始める。

サビの部分のテンポが速いから黒い板からつい体がはみ出しそうになるけれど、即終了にならないように、手元の映像でも確認しながら注意深く進めていく。


「あ、尻人間さん、ありがとうございます!」


投げ銭で10000円入ったという通知があった。

尻人間は、結構前から応援してくれている視聴者で時々高額の投げ銭をくれる。


しかし、声を出したことで一瞬集中が途切れてしまった。

残念なことに尻の一部が一瞬映像に映っている。


僕はカメラを消した。



僕が動画配信を始めたのは大学の時だった。

最初はゲーム実況や料理の動画を撮っていたが、ほかにもっと人気のある人々が多かったため、僕の動画は全く伸びなかった。


大学で友達もできず、レポートも進まないというストレスのせいもあり、ある日やけになって

「全裸で裸が映らないように筋トレをする」

という動画を出したところ、今までにないほどの再生回数を記録。


それで調子に乗った僕は、全裸でトランポリンをする、全裸でギターを弾く、など様々な動画をアップした。

その中でもやはり人気があったのは筋トレの動画だったため、それを中心に撮っていったところ、体型も結構筋肉質な感じに変わっていった。

「全裸なのに筋肉は素晴らしい」

という謎のコメントも増えて、チャンネル登録者数も謎に30万人にもなってしまった。

何がうけるのかは本当に分からない。


途中からライブ配信もするようになったが、編集ができないので裸が映らないように細心の注意をはらいつつ、もしかしたら裸が映るかもしれない、というスリルも出さなければならないのでこれがなかなか難しい。


油断すると今回みたいに、始まったばかりなのに即終了というはめになってしまう。


ちなみにもうすぐ実際のステージで、他の配信者たちと一緒に行うイベントがある。

さすがに本当の全裸で挑むわけにはいかないので、タオルで下半身を隠しておき、タオルが落ちたら退場という流れにするつもりだ。


ふと、LINEの通知音が鳴った。

『もう仕事終わった?今日はどうする?』

最近できた彼女の葵だ。

もちろん、僕が全裸配信者であることを彼女は知らない。

それが、僕の目下の悩みであった。

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