三、
『
「あー!」
でれっでれの顔で、画面越しに
そうすると、朝也が益々張り切って美里をあやす。
画面越しだから、だっこなんて絶対無理なのに、朝也の両手がこっちに向かって伸ばされちゃっているのがまた面白い。
そんでもって、美里も、朝也に向かって手を伸ばして画面叩いちゃっているし。
あ、朝也と美里が、画面越しにハイタッチしてる。
・・・・・うん。
普通に、平和で幸せな親子関係って感じなんだけどさ。
「ねえ、
問題なのは今の時刻だと、私は、昼休憩には未だ早い時間を示す時計を見た。
『大丈夫だよ、まりも!今、小休憩中だから。さぼっているわけじゃないから、安心して』
「本当に?」
私の問いに対して朝也は即答するけど、私は思わず訝しい声を出してしまう。
『本当だよ。疑うなんて、ひどいな』
「だって。今まで、こんな時間に電話して来たことないじゃない」
仕事は大丈夫なのかと、どうしたって心配になると言えば、何故か朝也が嬉しそうに瞳を輝かせる。
加えて、なんか顔色まで明るくなった。
『嬉しいよ、まりも!俺の心配、してくれるんだね!』
「いや。当たり前だから」
そんなことで喜ばれても、反応に困るんだけどと言う私を、けれどやっぱり嬉しそうに朝也は見ていて、なんか、むずむずして、想像以上に冷たい声が出てしまった。
ちょっと後悔。
『まった、また。まりもってば、照れちゃって可愛いの』
あ、駄目だよ朝也。
それ、今の私に逆効果。
照れが増すだけ。
「じゃあ、またね」
そして、益々の塩対応。
『ああっ!?まっ・・・!』
揶揄われて、反射的に電話を切ってしまってから、私はばつ悪く美里を見る。
「ねえ、美里。今の『まっ』って、待っての『まっ』かな?それとも、まりもの『まっ』かな?」
いや。
そんなこと言われても、困るよね美里も。
「あー!ぱー!」
だけど美里は、そんな私の苦笑いを他所に、元気に両手をあげ、暗くなった画面を指さした。
「おお!美里、凄い!もしかして、ぱぱって言ったの!?今のってそうだよね!・・・お義母さん!美里が今、ぱぱって言ったんですよ!」
ぱたぱた両手を振りながら、得意げに私を見た美里を抱き締め、抱き上げて、私はお義母さんのもとへと走った。
「まあ!美里ちゃん。ぱぱって言ったの?まりもさん、ほんとに?」
「はい!今、電話を切った後で『あー!ぱー!』って、画面を指さして言ったんです・・・・ん?」
「『あー!ぱー!』ねえ。それって、朝也をぱぱって言ったのか、それとも」
くすくす笑うお義母さんと一緒に、気づいた私もくすくす笑う。
だって。
『あー!ぱー!』って、ちょっと小馬鹿にした言葉に聞こえなくもない。
まあ、美里はそんな言葉、未だ知らないだろうし、朝也に言ったら、絶対に『ぱぱ』って言ったの一択だろうけど。
「・・・あれ?まりもちゃん?」
「あっ、喜多くん!」
朝也の実家にお世話になって三日。
お義母さんの勧めもあって、私は自分の実家へ顔を出すことにした。
その途中で会ったのが、幼なじみの喜多くん。
因みに、喜多っていうのが下の名前で、喜多くんは、私の初恋のひとだったりもする。
「まりもちゃん。随分久しぶりだね。元気だった?」
「うん。喜多くんは?」
「俺も元気だよ」
「あー!」
甘酸っぱい思い出と共に、久しぶりの喜多くんはやっぱり格好いいなんて思っていると、だっこしている
「可愛いね。まりもちゃんの、娘ちゃん?」
「そう。
「美里ちゃんか。かわいいね」
「あー!」
喜多くんが少し膝を折り、美里の顔を覗き込んで言えば、美里がかつてないほどにはしゃいで笑顔を振りまく。
美里。
流石、私の子。
イケメン大好き。
まあ、無理もない。
喜多くん、中身も凛々しくて優しいからね。
「喜多くん、今日は・・・って。ああ、休診日か」
こんな、平日の昼間にって思ったけど、喜多くんは家の病院を継いだお医者さんなのだった。
「そういうこと」
そう、優しく肯定して笑う表情の凛々しいこと。
眼福と、私は心のなかで手を合わせた。
「喜多くんは、今も野球、やっているの?」
「やっているよ。今日もこれから向かうところ」
勉強が出来て、スポーツもなんでも熟す喜多くんは、いつもみんなの中心にいたなあ、なんて思い出し、私は凄く懐かしくなる。
「いいね、お休みの日に趣味のスポーツ。奥さんは?お留守番?」
「いや。後から弁当持って来てくれることになっている」
さらっと言うけど、その顔がすっごく嬉しそうで、私までなんか幸せな気持ちになった。
子どもの頃から変わらない喜多くん。
今も、ずっと会うのが普通だったころのように『またな』って去って行く後ろ姿に後光が見える。
いつまでも、素敵な初恋のひとでいてねと思いつつ、私も一歩を踏み出した。
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ありがとうございます。
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