レッスン1 飛鳥玲奈の日々

第9話 我経験者。任せろ

 先に言っておこう。

 俺の前に現れた男女5人。

 確実に飛鳥さん(今の俺の身体の人)が普段から仲良くしているであろう友人――ではないと直感が言っている。

 むしろ敵だと何故か身体が言っているような感覚。

 周りから今の光景を見れば、休んでいた彼女を心配している様子。

 たまたま見つけたから声をかけた。そんなように見えているかもしれない。

 しかしこちらとしては、そんな雰囲気は一切ないように思えた。

 俺は目の前の男女をもちろん知らない。

 けれどこの身体がやはり何か染み付いているのか。

 拒絶反応とまではいかないと思うが。でもそれに近い何かが自然と身体の奥底から警告を鳴らしているようだった。

 まあそれで俺は今怖がっているとか。逃げ出したいとかそんな気持ちには一切なっていないが。


 まず声をかけてきた不良――不良というと俺としてはまだ相手の事がわからないうちに見た目だけで判断することになるので――適当にチャラ男としておこうか。

 不良よりはチャラ男の方がマシじゃないか?わからんけど。

 ぱっと見はその容姿と声が大きく。無駄に目立っているだけ。

 それもあって、俺たちの周りを通過していく他の生徒は、関わりたくない雰囲気でそそくさに通過していくのだろう。

 ちなみに通過していく人を見ると、明らかにこちらと視線を合わせないようにしているようにも見えるが――今はそちらは気にしなくて良いだろう。

 変に視線を外して、さらに目の前の男女に絡まれてもそれはそれで対応が厄介になるかもしれないからだ。

 とにかく、チャラ男が正面に居る。

 声が大きく。少しだが圧も感じる男。

 でも――不思議と圧は感じるが駄々洩れの敵意。悪意はそこまで感じない。

 この男女明らかに俺。飛鳥さんに絡みに来たと思うのだが――変な感じだ。

 演技をしているようだ。

 心配しているという気持ちはチャラ男の表情からして一切ないだろうが。多分周りに対して『俺たちはこいつを心配して声をかけている』とかいうアピールをしているように見えた。

 まあでも周りはこちらの様子はあまり気にしていない様子で、そそくさと通過している。その効果は薄い気もするが。

 ちなみに俺には効果なし。こいつ裏がある。と、すでに確定済みだ。

 こういう表情。態度で周りを上手に味方に付けていくずる賢い言うのか。このタイプは経験済みだ。 


 次にこの男の周りに居る他の奴を確認。

 まず短髪男2人はチャラ男の横に付いている金魚の糞と見た。

 今もだがこちらを見て明らかにへらへら。馬鹿にしている様子なので、このチャラ男に常に付いている存在とかだろう。

 または――パシリ要因か。

 多分言われたことをするだけの奴と見た。

 そこまで警戒しなくていいだろう。

 2人同時に何かしてくると厄介だが。

 でもまあそこまで気にしなくていい存在だろう。

 警戒しなければいけないと思ったのは――女子2人の方だ。こちらの方があまり俺が知らないタイプで怖い。

 1人はモデルのような姿の女子。

 はっきり言って何故チャラ男と一緒に居るのか。ぱっと見はわからない。住む世界が違うようにも見えるのに――。

 ちなみに、今もこちらに興味がないのか自分の髪の毛をくるくる触ったり窓の方向を見ている。

 もう1人は、こちらも何故こいつらと一緒なのだろうか?と思うような人。存在。ぱっと見はほんわかしている様子。そして何を考えているか見ただけではわからない雰囲気がある。

 なお、こちらも明後日の方向を見ているため俺と視線が合うことはない。

 まあこの女子2人は単にこのチャラ男たち男3人に付いてきているだけなのかもしれないが。

 今わかることと言えば、女子同士。飛鳥さんとこの2人に接点はないということだろう。

 チャラ男が話しかけてきた以外他の男もだが。女子2人はこちらに声をかけてくる素振りが全くない。

 つまり――飛鳥さんとはほぼ接点がない。

 日常的に挨拶もすることがない関係性。

 話しかける価値すらないとでも思われているかだろう。

 ――何もしてこないならそれはそれでいいが。

 とにかく飛鳥さんの友人なのかはわからないが。

 飛鳥さんを知ってるであろう人とは会うことが出来た俺。

 だが雰囲気的に飛鳥さんが仲良くしているとは思えないグループ。集団5人に捕まった状況。

 明らかに陽と陰だ。

 普通ならこの場は俺の方が圧倒的に不利な状況だろう。

 すでに相手側からの圧(おもにチャラ男からだが)。何でもいいなりだろ?的な雰囲気が襲ってきている。

 もしかすると飛鳥さんはいつもこの雰囲気に襲われていたのかもしれない。

 これが日常的なのかもしれない。

 もしかすると、この圧に負けて何も言えないのがいつもの事かもしれない。

 けれど俺はこんな圧どうでもいい。というか気にしない。むしろかわいらしいレベルの圧だ。

 とりあえず俺がすべきことは――記憶喪失の演技。

 いや、演技ではなく本当に飛鳥さんの事は知らないので演技というとおかしいか。

 それに演技だと多分このチャラ男と被る。

 つまり俺は――思うがままを行動にすればいいのだろう。

「――どちら様ですか?」

 ということで、この聞き方が正しいのかは知らない。

 でもこのチャラ男たちが誰なのかは本当にわからないので、とりあえず初めに声をかけて来たチャラ男に聞き返した。

 俺の予想では『はぁ?何言ってんだお前。頭おかしいのか?』とでも言い返してくるかと思ったが。

「おい。出来島できじまたち。何しているんだ」

 チャラ男が言い返してくる前に新しい声が5人の後方から聞こえて来た。

 いやいやさらに人増えるのは予想外だ。

 あれ?まさかの飛鳥さんって有名人?そりゃ見た目は――だろうが。まさかの人がどんどん集まって来るのは予想していなかったぞ。

 ちなみに声の方を俺がちらりとチャラ男たち越しに見るとそこそこ身体がしっかりしており。また肌も良く焼けている。茶髪の何とかショート。髪型の名前忘れた。とりあえずハリネズミみたいな髪型にしておくか。 

 とにかくよく焦げたハリネズミが日誌片手にこちらへと近付いてきていた。

 そして、よく焦げたハリネズミは5人を通過。

 何故か俺と5人の間に入り込んだ。

 つまり俺の目の前は壁になった。

 大きな背中だ。

 制服の上からでもガタイがいいのはわかる。

 ちなみに今の飛鳥さんの身体ではすっぽり隠されたような状況だ。

 5人の様子がほとんど見えなくなってしまった。

「5人で何囲んでるんだよ」

 すると良く焦げたハリネズミが5人に向かってそんなことを言った。

 もしかしなくとも俺(飛鳥さん)守られている?らしい。

 いやいやまさかの展開だ。

 はてっきり飛鳥さん。飛鳥玲奈という女性は、言い方が悪いかもしれないが孤独な人かとなんとなく思ったのだが。そうではないのかもしれない。

 さすがに俺の勝手な予想通りに事が進むことはないらしい。

 まあそれはそれでいいだろう。思いどおりは面白くないし。

「なんだよ。千鳥橋ちどりばし。飛鳥となんかあるのか?急に出て来て」

 チャラ男が反応した。

 そして俺の目の前の壁。よく焦げたハリネズミは千鳥橋というらしい。

 あと、どうやらチャラ男にとってはあまり良い状況じゃないのか。嫌そうな雰囲気が漏れている声だった。

「どう見ても彼女。困っている様子だだったからな」

 そして本当に守られているらしい俺。

 飛鳥さん。ちゃんと助けてくれる人居るじゃん。

「わざわざ隣のクラスにもちょっかいかけてくるヒーロー様かよ。っかな。単に俺たちは記憶喪失になったクラスメイトが学校来た聞いたから心配して話しかけたんだよ。なあ?お前ら」

「ああ。隣のクラスは引っ込んでろ」

「そうそう」

「――記憶――喪失?」

 チャラ男の周りに居た男2人の声らしきものも聞こえてきたが。姿が見えないのでどっちがそれぞれ発言したのかわからない。わからなくてもいいのだが。

 にしても、マジで俺は背中しか見えない。デカいよ。

 とか思っていると、よく焦げたハリネズミ。千鳥橋と言われていた男子生徒がつぶやきながら俺の方を見てきた。

 再度。デカいわ。俺完全に千鳥橋とやらの顔を見るには見上げるしかない。

 ちなみに千鳥橋という男子生徒そこそこいい男だ。さわやか系ではないが。俺にはなかった男らしさ?があるような男子だった。

 身だしなみもよく見るとちゃんとしている。

 まあチャラ男たちが着崩したりしているから普通が良く見えているのかもしれないが。

 というか。不思議そう?に千鳥橋に見られてる居るんだが――俺はどう反応すればいいのだろうか?そもそもここで俺何か言うべきなのか。何も言わない方が良いのか。わからん。

「ねぇ。もう行かない?」

 俺が反応に困っていると今度は女子の声が聞こえて来た。

 声の方を見ると、ちょうど千鳥橋の横からちらっと見えていたモデルみたいな女子がこれまたモデルみたいにくるりと回り廊下を歩き出すところだった。

 それに合わせるかのようにもう1人の女子も『杏梨あんりちゃん待って』と、言いつつ歩き出し。

 あのモデルみたいな女子生徒は『杏梨』というらしい。

「だな。邪魔が入ったし」

 すると、杏梨という女子生徒が歩き出すとチャラ男も女子2人に付いて歩き出し。金魚の糞だろう2人も『だなだな』などと言いながら歩き出した。

 もしかすると、先ほど隣のクラスとチャラ男が言っていたので、他のクラス相手に変なところはチャラ男たち見せたくなかったのだろうか?

 5人の姿はすぐに廊下から消えた。

 ということで千鳥橋という男子生徒と2人になってしまった。

「……」

「……」

 もちろんの事ながら2人に会話はない。

 ちなみに俺としては相手が男なのでまだ女子相手をするよりは緊張とかはない。

 けれど、何を話したら。どうすればいいのかはわからない。

「あー、えっと、俺隣のクラス。1の2の――千鳥橋ちどりばし知恩ちおんだ。その――なんだ。まあよろしく」

 すると、普通に自己紹介された。

 どうやら千鳥橋とやら。記憶喪失とあのチャラ男が言っていたのでまずは名乗ろうと思ったようだ。

 自己紹介は大切だからな。真面目?な人なのかもしれない。

 にしても俺は隣のクラスの人といきなりの接点を作ったか。

 元の飛鳥さんがこおの千鳥橋とどのような関係だったかは知らないが。あれ?そもそも初めてなのか?それとも――って、聞けばいいのか。俺は記憶喪失なんだから。

「えっと――お……私は飛鳥玲奈。1の1です」

 俺。と言いたくなったが。さすがに俺――というと変な感じがするかと思うので頑張って私に変えたが――これ慣れないな。

「その私記憶がないんですが――千鳥橋――さん?とは元からの――」

 言葉選びに少し注意しながら千鳥橋に話かける俺。

 ここで千鳥橋とはもともと友達でした――という返事ならまあしばらくこいつを頼ればいいか。だったのだが。

「あー、いや、いや、その――なんて言うか。たまたまいうか。今も偶然――」

「――たまたま?偶然――?」

 千鳥橋が何やら言いにくそう?な感じを出しつつもそう答えてきた。

 つまり――あれ?今たまたま知り合った言うか。偶然の結果が今?らしい

 ちょっと千鳥橋の反応は気になるものもあるが。

「そう、その、今初めましてだな」

「――あっ、そうなんですか」

 千鳥橋に何故か少し慌てたような感じがあったが――まあこちらが急に記憶喪失とか聞けば、それで戸惑うこともあるだろう。

 もしかすると向こうも俺に対して言葉を選んで注意して話しかけてきているのかもしれない。

「そう、まあクラス違うけど――なんかあったら声かけてくれたら」

「あっはい。ありがとうございます」

 引っかかることはある。

 でもチャラ男よりかははるかにマシな感じだったので、こちらもなるべく丁寧に少しだけお辞儀しつつ返事をした。

(――よくしゃべる――子だった――――か)

「――えっ?」

 すると頭上から何か聞こえて気がした。

 はっと俺が顔をあげると千鳥橋があからさまな感じで両手、首を横に振った。

「あ、いやいや、なんでもないなんでもない」

 千鳥橋が何やらつぶやいた気がしたが――誤魔化された。

「おーい。千鳥橋。日直の仕事放置で良いのかー」

 何をつぶやいたのか聞いたやろうかと思ったが。その時。隣のクラスの入り口から男子生徒が千鳥橋に向かって声をかけた。

「あー、行く。悪い。じゃあ、俺はこれで」

「は、はい。あと、さっきはありがとうございました」

「いや、あれくらい――じゃ。あと――あ、いや、なんでもない。じゃ俺は」

 一応チャラ男たちの絡みから助けてもらったのでお礼を言うと千鳥橋は何故かまた何か言いかけたが止め。再度なんでもないといった素振りをしつつ隣の教室へと入っていった。

 千鳥橋という生徒――わからん。

 でも悪い人ではない様子だった。

 

 そして気が付けば廊下に1人立っている俺。

 飛鳥さんに関して何か情報が得られそうだったが――変な雰囲気と少し名前が判明したくらいで大きな収穫はなかった。

 でも何故か隣のクラスの人と知り合い?になった。

 まあとりあえずはいいか。


 そのあとは誰にも声をかけられることのなかった俺はそのまま来客用のスリッパを返してから下駄箱へと向かった。

 放課後になって少し時間が経ったからか。下駄箱には人がまばらという感じ。

 そんな中俺は飛鳥さんの下駄箱へ。そして下駄箱の蓋オープン。

 もちろん先ほどと同じでゴミがみっちり。

 改めてよく見るとパンの袋や紙くず。空き缶も奥に入っていた。

「まあ頑張って入れたな」

 さっと手を下駄箱内に突っ込みゴミを掴む。

 そして下駄箱近くにあったゴミ箱へと持って行く。

 その際数人の生徒が不思議そうにこちらを見ていた気がするが問題ない。

 ――昔も良くやったことだ。誰かに見られるのもよくあった。

 下駄箱内のごみは数日放置されていたからか。何やらべたつくものも。臭いがあるのもあったので、本当はまとめてとっとと捨ててやりたかったが。一応ゴミ箱には燃えるゴミ。空き缶――などと分別が促されていたので一応分けて捨てた。

「――ねちょねちょだな」

 真面目にごみを分別して捨てると当たり前と言えば当たり前だが手が何やらねちょった。

 不快なため。手を洗いに行くことにしたが――手洗い場。トイレの場所がわからない。

 俺の学校なら昇降口を出たところに水道があるのだが。この学園はない様子だった。

 その後校舎内をすこしウロウロする俺。その際に先ほど2階の教室近くにトイレがあったな。ということを思い出し。1階で探すより見覚えのある方が早いと考え2階へと戻ったのだった。

 

 少し時間が経ったからか。2階の教室がある階はがらーんとしていた。

 晴れていれば西日で廊下も明るくなっていそうな時間だが。俺が島に到着してから太陽はほとんど姿を現しておらず。廊下が薄暗く感じる。

 というか先ほどは廊下の電気が付いていた気がするが今は消えていた。

 生徒が居なくなったから最後の人が消したのだろうか?または先生の誰かが通って消したか――ちょっと暗い。

 そんな中トイレへと向かい。トイレへと入る際にその近くも窓からグラウンドの方を見ると雨は降っていないからか部活が始まっていた。

 体操をしている生徒や走っている生徒が見える。

「この身体ももう少し筋肉とか付けないとだな」

 外の様子を見た後。つぶやきながら俺はトイレにある洗面所で手を洗った。

 ちなみにトイレに1人で居たらまた絡まれました。

 ということはなかった。

 どうやらちょっと俺自分の事と重ねすぎている。無駄に警戒。予想しすぎているようだ。

 しかし手を洗った後下駄箱へと戻ると――何故か先ほどはあった靴が下手箱の中から消えていた。


「……絡んでくるのじゃなくて、まずは取られるか」

 つい先ほど無駄に考えすぎていると自分で思ったところだったが。

 考えすぎてもいいのかもしれない。かもしれない行動。大切かもな。

 ちなみになくなるとは予想していなかったが。でもなくなったからと言ってショックを受けたわけではない。

 あ、飛鳥さん的には物がなくなると――ショックかもだが。今は俺なのでね。

 とにかく手を洗い下駄箱まで戻り。再度下駄箱の蓋をオープンしたら靴がなかった。

 先ほどゴミを取り出したときはちゃんと靴と上履きはあった。

 しかし今はゴミで少し汚れた上履きしかない。

 俺が下駄箱から離れたのは数分。

 その間に誰かに持って行かれた。

 または俺の記憶がおかしくゴミと一緒にゴミ箱に捨てたのかもしれない(もちろん履いてきた靴を捨てる馬鹿ではない。それに飛鳥さんの物を勝手に捨てるとかない)。

 一応先ほどゴミを捨てたゴミ箱を確認しに行く。

 面倒なパターンだとこの後しばらく靴を探して三千里――とかになるかもしれない。と、思っていたが。

「――素直だったか」

 ゴミ箱を覗いてみると。今さっき捨てたような状態。ゴミ一番上に見覚えのある靴があった。

 特に飛鳥さんの靴に彼女の名前が書いてあるわけではなかったが。

 病院からずっと履いていればどんな靴だったかは覚えている。

 間違いなく飛鳥さんの靴だ。

 俺はゴミ箱から靴を救出する。

 すると不思議なことに靴の中にゴミが入っていた。いや詰められていた。

 お菓子のゴミとわざわざ紙パックの飲み物を潰して入れてある。

 そのため片方の靴の中が少し湿っている。

 これ履いて帰らないといけないんだが――まあこの程度ならマシか。

 にしてもこんなことをわざわざしてくれるということは、誰かが俺を付けているのだろう。

 でも今から犯人捜しをする必要はないだろう。

 今犯人をもし見つけても証拠も何もない。とか言われそうだし。

 とりあえず靴の中のごみは再度ゴミ箱へ入れた。

 靴の中が少し汚れたが。靴はこれしかないのでとりあえず靴を履いて帰ることにした。

 ちなみにその際廊下の方から複数の視線を感じなくもなかったが。ちょうど今は長い前髪がある。

 わざと俺は前髪で視野を狭くして昇降口を後にした。

 別にちょっかいをかけてくるならかけてこいだったが。

 学園から寮へと戻る際は誰からも声をかけられなかった。


 やっと慣れだしたタブレット端末での鍵開け。

 飛鳥さんの部屋の前でタブレット端末を操作し。鍵を開けて少しぶりに飛鳥さんの部屋へと戻って来た。

 タブレット端末で時間を確認すると17時前。

 意外と学校に居たらしい。

 まあ借り際にちょっといろいろしていたからな。

 そんな事を思いつつ。今日はもう学校に行くことはないので制服を脱――おっと、その前にちょっと気持ち悪い靴下を先に脱がないとな。室内が汚れる。 

 玄関部分でぽいぽいと靴下を脱いで洗面所にある洗濯機に向かって投げた。

 ちなみに俺は寮生活がどのようなものか知らないが。

 この学園洗濯に関しては部屋に1つちゃんと洗濯機があるようだ。

 寮の何処かに大型の洗濯機があり。取り合いをしているということはないらしい。

 多分だが基本困ったことはおばちゃん。おっちゃんに聞けば何とかしてくれる。という感じらしい。

 しいて言えば食事も自分でするなら食堂利用せず。自炊というのも出来そうな設備が揃っているが。でも食堂が安いのはわかっているので俺はしばらくは食堂を利用するつもりだ。

 寮生活と聞くと集団生活みたいだが。この学園の寮は個人の自由という感じで俺は好きだ。

 靴下をとりあえず洗濯機に投げた俺は靴も洗った方が良いと思ったが。

 今はちょっと初めての事が多すぎて疲れた。

 俺の部屋ではないが。1人になり気が緩んだのかとりあえずベッドにダイブしたくなったので、とりあえず寝室に向かい。荷物を床に置き。そのままベッドにダイブした。


 そして今日のこと。主に先ほどの学園でのことを思い出す。

 多分だが飛鳥さんは嫌がらせを受けている――はず。

 なんか隣のクラスの生徒が現れたりしたからか。絡まれかけたが――結果何もなく。確証は得れなかった。

 いやでも最後に靴は捨てられたから何かはあるだろう。

 もちろん自分の物が捨てられていたらショックを受ける人は居るだろう。

 俺も昔ならショックを受けていた。

 しかし今は違う。

 あの程度なら問題ない。

「まあさすがに初日から大事はないか」

 誰もいない部屋で寝転びつつつぶやく俺。

 多分これから本格的に飛鳥さんとして生活を開始すれば訳の分からない事ばかりだろう。

 なのでここは記憶喪失の演技。

 いや、何度目かになるが演技ではないな。実際に、飛鳥玲奈という記憶は俺の中に一切ない。

 そもそも女で生活したことがないので日常生活もいろいろわからない。

 確かに勝手にというべきか。この身体。飛鳥玲奈の身体に染みついている行動は無意識で出来るような感じがなくもないが。

 とにかく、基本俺は何もかも知らないことだらけだ。

 ちょっとこの先どうなるのか。不安と言えばそれの方が不安がある。

 ちょっかいに関しては別にあの程度ならほっておいてもいい。

 しかしこの飛鳥玲奈という人生をこれから過ごすとなると。この先どうなるのかわからない。

 もしかするとある日突然俺は元の身体に戻り。この身体は飛鳥玲奈に戻るかもしれない。

 その際に俺は適当なことをしていると――だが。

 でも無理は言わないでほしい。俺は男。

 女の生活などわからないんだ。

 まあわからない言えば。戻れるのかもわから……。

「――あれ?わからないんだよな?つまり、別に俺が思うように過ごしても問題ないのでは?そうだよな。女子になっちゃったんなら、自分好みの女子にしてもいいよな?」

 ベッドの上でふといろいろ考えていると。何か吹っ切れた俺。

 いや、確かにちょっと不安はあるが。でも現状なんでこんなことになっているのかわからない。

 この先もどうなるかわからない。

 何もわからないのだ。

 なら――自由にしても良いよな?その方が俺も少しは気が楽になる。

 そしてどうせならこのもっちゃり女を変えるというのも良いだろう。

 もちろんの事ながら誰の許可も出ていないが。

 俺の当面の目標は今唐突に決定した。

 この飛鳥玲奈を自分好みの女子にしちゃおう。

 ついでに学園生活も楽しませてもらおう。

 ――なんせ俺。まともに高校生活の記憶ないし。

 まあ俺好みに勝手に変えて、もし元に戻った場合。彼女に怒られたら怒られただ。

「よし。やってみるか」

 スカートだが特に今は気にすることなく。足をあげ。勢いを付けてミシッといったベッドから起き上がる俺。

 まずは少しでもこの飛鳥玲奈のことを知るため。しっかりとこの部屋をあさることにした。

 見た目は飛鳥玲奈。彼女なので大丈夫だろう。

 中身が男とは誰も知らないことだ。

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