第5話 私立碧鸞鳳学園1年生。飛鳥玲奈

 病室にある小さな棚の中にこの誰かわからない彼女。飛鳥玲奈の私物は置いてある。

 棚の中にあったのは少し汚れたトートバッグ。

 その中にはポーチと小さめのタブレット端末(スマートフォン2台分くらいのサイズ)だけが入っていた。

 その他身分証明になるようなものは何も入っていない。

 財布すらも入っていなかったので、物取りの線あるのでは?などと一瞬思ってしまったが。今は余計なことは考えないことにした。

 あとトートバッグの他には、多分病院に運ばれた際にこの彼女が着ていたのだろう。少し土などで汚れた体操服が袋に入れて置いてある。

 先ほど長身の女医さんと話している時も袋から出さずに一応確認したものだが。一度袋から出してみるとやはり上下ともに『飛鳥』と刺繍がある。服のサイズも今の自分の身体にあっている気がする。

 なのでこの今の身体の持ち主の物で間違いはないだろう。

 土が付いているので体育の授業でもあってその帰りに何かあったのだろうか?または――だが今は余計なことを考えると先に進めない気がしたので、俺は次にタブレット端末を手に取る。

 そしてベッドに腰かける。

 一般のスマートフォンよりは大きい画面。しかしタブレット端末と考えると少し小さく感じる大きさ。携帯型のゲーム機のようなサイズだ。

 ちなみにケースなどには入っていない。タブレット端末のみである。

 ロックがかけられていると中身は見ることができないだろうと思いつつも。タブレット端末の横にあったボタンを触れると画面が付き。画面を見ていると勝手に顔認証が行われ問題なく開くことができた。

 タブレット端末の画面はスマートフォンというより。パソコンの画面を小さくしたものを見ている感じだ。

 まずは設定などから確認したらいいのだろうか?と、画面を見つつ考えていると、その間に勝手に何かのページが立ち上がって来た。

「これは――」

 今タブレット端末の画面には、学校のホームページ画面と思われるページが表示され。右上に私立碧鸞鳳学園しりつへきらんほうがくえん1年生。飛鳥ひちょう玲奈れな。と、表示がされた。

 手に取った時からそんな予感はしていたが。どうやらこのタブレット端末は彼女が通ってる学校から支給されているもののようだ。

 もしかするとこれは学校の授業で使うようなことしか入っていないのではないか。と、思いながら俺は適当にページを開いていった。

 すると、どうやらこの端末にはいろいろ機能が入っている見たいだった。

 まず、勝手に立ち上がって来たページにはいろいろと表示されており。まず学生証と書かれたところをタップしてみると。先ほど鏡で見た彼女(今より頬がふっくらしている)の顔写真と名前が出てきた。デジタル学生証らしい。

 さらに画面を少しいじってみると。見たことのない電子決済アプリが入っていた。多分これは学校専用のものだろう。

 またオンデマンド講座などその他機能もいろいろ入っている。

 ちなみにデジタル学生証に書かれていた入学年度を確認する今年であり。ベッドの頭上に書かれていた入院時の日時が記載されていたところと見比べると日時に関しては俺の記憶とも問題はなかった。

 つまり飛鳥玲奈とは、ちゃんとこの時間に存在している人だ。

「――じゃあ俺の身体はどこ行った?」

 本当なら自分の身体を探したい。けれど、今日のところは病院から出れそうにもないので、一度自分の身体の事は置いておき。タブレット端末をさらに操作すると一応ネット環境もある見たいだったので、今現在自分が居る場所をまず確認してみることにした。

「えっと、この病院は――」

 端末片手に病院の名前を探すと私物の入っていた棚の上に病院のパンフレットがあったので手に取る。

「えっと――松阪まつさか大学付属――って、地元ー。いやいやそんな名前の病院あったか?ないよな。どうなっているんだ?」

 パンフレットに書かれていた病院名。俺の記憶にはなかった。

 けれど俺が知らないだけの可能性もあるので、一応検索してみると、結果は意外にも自分が住んでいる隣町。三重県内の病院がちゃんとヒットしてきた。

 しかし、数十年生活してきた俺だが。そのような病院の名前はやはり聞いたことがなく。利用したこともない。

「わからん。病院のことは後回しだ。あとはこの私立碧……何とか学園はどこにあるんだ?」

 少し戸惑いつつも俺はさらに検索を続ける。

 次に検索したのは飛鳥玲奈という彼女が通っている学校に関してだ。

 読み方がわからなかったので、タブレット端末に表示されていた学校名をコピーしてから検索してみる。

「――おかしい。海の真ん中に高校とかおかしいだろ。これは絶対ない。確実にない」

 すると、私立碧鸞鳳学園しりつへきらんほうがくえんというのは、伊勢湾の真ん中にポツンとある孤島(こんな島見たことも聞いたこともないが――)。地図で確認すると三重県の津市と愛知県の南知多町の間。少し三重県よりという検索結果が出た。

 また、検索結果の画面には学校のホームページの一部だろう。綺麗な校舎と四方八方海の写真も出てきていた。またグラウンドや体育館。教室の様子が出てきている。

 しかし俺の記憶にはそんな学校はない。

 さらに戸惑いつつもよく見てみると、孤島へのアクセスとして、三重県内の2つの駅から直通の線路があると記載されていたが。もちろんそんな海の上を走っている線路。路線があるなど聞いたことも見たこともなかった。

 けれど、その他のこと。病院の事や学園のことを除くと。検索結果に出てきている地名などは自分の中にある記憶と一致するものだった。

 またニュースなども調べてみたが。ここ最近見た記憶のあるニュースがいくつかあった。

 芸能などのネット記事にも見覚えのあるものがあり。

 芸能人の名前なども俺が知っている人の名前が普通に出てる。

 他にもよく使っていたスーパー。コンビニ。駅も普通に出てくる。

 もしかすると同じ名前だけということもあるので、画像でも確認すると最近の姿。俺が知っている姿が出てきた。

 また、自分が通っていた小学校、中学校、高校などを検索してみると普通に存在しており。高校の担任だった人の名前も出てきた。

 また高校などの部活動の結果がたまたま出てきたのだが。そこには知っている人。聞いたことのある同級生の名前があった。

「――俺の記憶にないだけ?いやでも、知らない間に出来たとは思えないしな。でもこれなら別世界とか言うわけではないか。もしかして入れ替わり?そういうことか?って、マジで俺の身体はどこいった?」

 一応俺は自分の名前。薬水柚希という名前で検索をかけてみたが。もともとSNSは一切しておらず。特に何か部活動などで優秀な成績を収めたということもなかったため。俺の存在がネット上でヒットすることはなかった。

 なお、少し気になったのは、自分が住んでいたところの住所が検索してもヒットしてこなかったことだが――それは退院後で自ら足を運んで確認するしか方法はなさそうだ。

 そこまで調べると俺は一度タブレット端末の画面を消した。

 わからないことが多すぎてちょっと疲れた。

 一度端末を棚へと戻した後。俺はベッドへと横になった。

 ベッドはちょっと硬め。でも寝るには問題ない。

 枕は硬さがいつもと違うからか微妙だが。仕方のないことなので気にしないことにした。

 ベッドに横になると一度目を閉じて状況を整理する。

「この身体。マジで誰のだよ。今触ってもやっぱり女だし。俺の元々の身体は何処へだな。ちゃんと俺の身体無事か?もしかしてこの飛鳥とかいう女が俺の身体に居るのか?わからないことだらけだな」

 俺は寝ながら、もしかすると先ほど鏡で見たのは気のせいだったかもしれないということで、再度身体を触ってみるが。やはり記憶にある身体ではない。筋肉ムキムキとかではもちろんなかった俺だが。今は大げさに言えば骨と皮。本当はそこまで酷くないが。ぱっと見で不健康に見えてしまったのでそのように思うのは仕方ないだろう。

 パジャマの上から胸を触っても気持ち膨らみを感じるか感じない程度。しいて言えば胸に関してはもともとの俺の身体と変化ないのでは?だが。でもやはり何か作りが違う。違和感はあった。

 一応家出したゾウさんが何かの拍子に戻って来ている可能性も考え下半身も触ってみるが。 やはり家出のまま。滑らか過ぎて違和感しかない。このモゾモゾどうすればよいのか。

 ついでに太ももや足も触ってみるが。見なくともわかる細い。

 程よい肉がない。

 はっきり言えば今のこの彼女は俺の好みではない。

 ちなみに、スタイルの良い人はもちろん好きだ。

 でもスタイルが良くても痩せすぎ。細すぎるのは個人的にはあまり好きではない。適度な肉。大切だと思う。

 あと、今更かもしれないが。髪の毛邪魔!超邪魔!

 ベッドの上で暴れてはないがモゾモゾする俺。

 もしここで白衣の天使様が見回りに来ていたら、変な人認定されていただろう。

 しかし幸いなことに誰も来ることはなく。その後消灯時間となったため。入院中の俺はその日はそのまま休むことにした。

 翌日もしかしたらこれは夢だった。と、なるかもしれないと少しだけ思いつつ。

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