第4話 魔導兵士隊支部総長、マグガンズ・レナグルス

 取り合えずこの場を何とかしようと話した瞬間、空気を切り裂く程の大声が響き渡る。

 先頭に立って入ってきたのは、周りにいる兵士達よりも大柄な男であり、歩く度に振動が伝わってくる。

 禿げ上がった頭は綺麗に整えられており、それと相反するかのように立派な髭を生やしていた。


「全員その場から動くな!ここに『魔女』がいるという報告が入った!!その者を捉える!!」


 大男の号令で、兵士達は辺りに散らばり、生徒達とルインを囲む。


(魔導兵士隊・・・もう来たのか・・・それにあれは・・・!)

「ま、マグガンズ支部総長!な、何かの間違いでは!?」

「ふぅむ・・・あなたはこの学園の教師・・・サクネ・フォブルム殿だな?」


 サクネに声を掛けられても、視線はルインからは外さない。


「今あなたの話を聞くよりも先に―――奴を捉えることが先決っ!!」


 がばっ!と服を脱ぎ捨てると、想像通り―――否、それ以上に鍛えられた肉体が現れ、そのままずんずんとルインに向け歩みを進める。


「・・・久しぶりだのぉ、魔女」

「・・・やぁ、久しぶりだな、マグガンズ―――っ!!」


 にこやかに挨拶をしたと思った直後、先程まで頭があった所を拳が薙ぐ。


「チッ、外したか」

「おいおい・・・いきなり殺しにかかるなよ・・・」

「黙れ・・・いつも、いつもいつもいつもいつもいつも問題ばかり起こしおってからに・・・!キサマを追い続けてかれこれ50年・・・!今日こそ決着をつける!!」


 両拳を突き合わせると、肩口まで装甲が取り付けられる。


「でた・・・!支部総長の〝武甲魔術〟・・・!」

「肩まで展開するなんて・・・!初めて見た!!」


 機械的な見た目は、どこか鋭利で尖った印象を受けるがそんな見た目でも身体機能を損なうような箇所は見られない。


「はぁっ!」

「っ!!」


 想像以上の速度に防御が遅れ、吹き飛ばされ、それを確認したマグガンズは地面が抉れるほどに踏みつけ、一気に肉薄する。


「逃がさん!!」

「あまい」


 拳を振り下ろそうとした瞬間、ルインの人差し指の先から稲妻が迸る!

 視認し、避けようとしたが間に合わず、何かが弾けるような音と共に、閃光がマグガンズの身体を貫いた!


「うぐおおおおおおおっ!!?」


 先程のドラゴン紛いを蒸発させたときよりも威力は抑えてはいるが、それでも常人であれば一瞬で気絶する威力だ―――常人であれば


「っっ~~~~~!ぐっふふふふふふ!きかぁぁぁーーーーん!!!」


 大きく腕を広げ、何事もないように見せつける。


「!!驚いた、随分鍛えたな?」

「当然だ!キサマに初めて対峙した時から!ずっと!ずっと!倒すことばかり考えてきたからなあ!!」


 高速で繰り出される拳を紙一重で避けつつ、距離をとる。


「忘れもせん!初めて味わったあの屈辱!!キサマに辛酸をなめさせられ、地に堕ちたあの瞬間から!ワシは生まれ変わったのだぁ!!」


 地面を殴り、瓦礫を浮かばせると、それを余すことなく殴る。


「それはお前が権力と暴力にもの言わせて暴れまくってたからじゃねぇか―――お返し」


 目の前に大きな円を描くと空間に穴が開く、瓦礫はそこに吸い込まれるとすぐ隣に出来た穴から同じように飛び出してくる。


「ぬんりゃああああああっっ!!」


 自ら打ち出した瓦礫を、拳の一振りで塵と化す。


「ぐふふ・・・!また懐かしいことを・・・!」

「だけどそのおかげで今では支部総長か・・・」

「当然だ!我の力をもってすれば!いずれは総督の地位までに―――!」

「っ!!消え―――――」


 姿が消えたと思った瞬間、拳が顔面にめり込む。


(速度の上昇!そこから繰り出される攻撃!魔力で全身を保護しなければ今頃俺の頭は吹き飛んでいたな)


 吹き飛ばされながらそんなことを考え、身体を捻ると、空中で止まり、そのまま空気の壁を蹴ると、マグガンズに向けて飛んでいく!


「うおっ!?」


 渾身の一撃だったのだろう、打ち終えたままの姿で立っていたマグガンズは、腹部に強烈な一撃をもらう!


「ぐうううううううううぅっっっ!!」


 耐えようと踏ん張るが、少しでも気を抜けば今自分が魔女にしたのと同様、地平線の彼方まで吹き飛びそうであった。


「ぐふふふ・・・!血沸き肉躍る!!これこそが・・・戦い!!」


 吐血しながらも、笑みは崩さない。


「いってぇ・・・ふんっ!」


 鼻から思いっきり息を噴き出すと、血が飛び出し、地面に血だまりが拡がる。


「まだまだいくぞ・・・!キサマを倒すためなら〝全壊装甲〟も厭わぬ」

「ここで使うものじゃないだろう、一般人も巻き添えになる」

「その時はその時だ、先決はキサマを捉えることだからな」

「ご立派、兵士隊の鏡だな」


 相手が実力者である以上、こちらも手を抜くわけにはいかず、両手に魔法陣を展開させる!


「おおおおおおっ!!」

「ふんっ!!!」


 互いの魔術で強化した拳がぶつかり合い、余波が衝撃となって辺りに広がる。

 校舎はさらに被害を負い、向こうに建っていた塔が崩れ落ちる。

 再度、拳を交えようとしたその時、上空から白い矢が二人の間に降り注いだ。


「お待ちなさい!!この学園で暴れることは私が許可致しません!」


 声をあげて出てきたのは、この学園の理事であり、長でもあるジブラーナだった。

 ゆったりとした白いローブに身を包み、早足で近づいてくる。

 その顔はいつもの柔和でどこか優しく、人を安心させるものではなく、敵意を露わにした―――戦士の表情であった。

 年齢は不肖ながら、老婆と呼ぶにはあまりにも若々しく、今も姿勢を真っすぐにしながら恐れずに近寄る。


「特に魔導兵士隊であるマグガンズ支部総長!本来、民を守る貴方が張り切って戦闘するとは何事ですか!?」

「しかし『魔女』がここにいるのだ、それを見過ごすわけには―――」

「あなたが例え誰であれ!!ここでは私に従ってもらいます!!」


 凛とした姿勢を崩さず、正面から見据える姿に、装甲を解く。


「・・・わかった、だがこの者についてあなたに色々と聞きたいことがある・・・構わぬな?」

「ええ、幾らでも」

 ジブラーナは一瞬、ルインに目配せをし、何かに気づいたルインは大げさに肩を竦め、生徒達の前に立つ。


「皆―――今日教えたことは、忘れないように」

「っ!!まずい!全員!構え―――」


 パチン、と指を鳴らすと、その場から姿が消える。


「っ~~~~~!くっそおおおおおおおっっっ!!」


 あと一歩のところで間に合わなかったマグガンズは行き場のない怒りを地面にぶつける。


「支部総長!?追いかければまだ―――!」

「・・・無駄だ、お前達もわかるだろう?あいつは完全に気配を消している、最早探知索敵班の網にすらひっかからんだろう?」


 その言葉を示すかのように、首を左右に振る。


「くそっ・・・!相変わらずの・・・詐欺師がぁ・・・!」


 逃げられたというのにどこか嬉しそうなマグガンズは、一度深呼吸をした後、素早く立ち上がる。


「・・・ジブラーナ学園長、あなたへの尋問を行います、よろしいですね?」

「はい、では私の部屋で行いましょう」

「うむ―――他の兵士隊は人命救助と瓦礫の除去!!戦闘場所における痕跡を回収!」


 マグガンズの号令に、一斉に動き出す


「サクネ先生・・・」

「・・・私達も、少しずつでいいので、回復した方は兵士隊の皆さんの指示に従ってください」


 深呼吸を繰り返し、立ち上がったサクネは最後に彼―――ルインが立っていた場所を見つめる。


「ルイン先生・・・」

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