第5話: 主従、決闘
風に揺られ、木々がザワザワとざわめいている。
村の中央の広場に、剣を構えた青年が2人向かい合う。
「軍隊式で行きます。真剣を使用し、手加減はなし。怪我は不問。戦場であれば命を取っていた、取られていたと双方が感じた時点で決着です。」
カロンはそう宣言すると、鞘を置き、正面に剣を構えた。
「…それ、手合わせじゃなくて決闘って言わない?」
しぶしぶと剣を抜き、カランと鞘を放ると、プゥは切っ先を地面に向けた。
真っ直ぐ射抜くカロンの視線を、プゥは正面から受け止める。
カロンは一気に地を蹴る。空気を裂くように、彼は剣を振り下ろした。
「ハァッッ!」
迫る切っ先。プゥは剣を一の字にしてそれを受け止める。
一撃が重い。押し返せず、彼の膝が沈む。
「貴方は…本当にこのままでいいと思っているんですか。」
「っ…」
絞り出すように、カロンが問いかける。
バッと剣を引くと、軽やかに一閃。
身を引くのが一歩遅れたプゥの腹に、一筋の赤い線が走る。
プゥは間合いをとったが、カロンはすかさず追いかける。
逆袈裟から横一文字、続けざまの真っ向斬り。剣先がプゥの視界を掠めた。
追い詰められたプゥの背が、木の幹にぶつかる。
突きを構えるカロン。
「気づいているんでしょう?」
言葉と共に迫るカロンの剣。
ギリギリまで引き付け、プゥは横へ飛び退く。
ザグリと、木の奥深くにそれは突き刺さった。
カロンが剣を引き抜く間に、プゥは彼から距離をとった。
頬に垂れる血を拭う。どうやら、カロンの攻撃を避けきれてなかったらしい。
「いつまで目を逸らしているつもりですか?」
再度、剣を正面に構えるカロン。
そして襲いくる連撃。今度は剣で受け流していくプゥ。
「シルヴァラ殿下のこと!暗殺未遂の濡れ衣!ウスタシュ宰相のこと!この国のこと!」
剣同士がぶつかり合う音が響く。
剣撃にカロンの不安が乗る。
「貴方だって分かっているんでしょう!」
「っ…」
カロンの突きを弾く。
ギリ、とプゥは歯を食いしばった。
「プラータ・ディ・ポセイドニオス第一王子殿下!」
目線の先に迫る剣。
「うる、さぁぁぁぁあい!!」
カロンのするどい一撃をいなす。
叫ぶプゥの切っ先がカロンに襲いかかった。
「あぁ、気づいてるよ!シルは明らかに変だった!!俺は父様を殺そうとなんかしていない!!!ウスタシュ宰相は何か企んでる!!!!この国に何が起こるのか分からない!!!!!」
プゥは大ぶりに剣を振り回す。しかしカロンは、すべての動きを簡単に読み切ってかわしていった。
プゥが振り下ろす剣をカロンは真正面から受け止める。
鍔迫り合いの中、プゥはギリギリと押し込みながら苦しげに顔を歪める。
「でも…シルの方が王様に相応しい。」
「…!」
「俺が王宮に居ても、争いの種になるだけだろ?」
剣を引く。プゥはそのまま勢いよくカロンの腹を蹴り飛ばした。
「ガハッ…!」
不意打ちの足技をもろに食らったカロンが咳き込む。そんな彼へ、プゥは切っ先を突きつけた。
「昔から、俺はそれが嫌だった!周りの貴族はみんな、俺とシルを比べてる。どっちが王様になるのか、どっちに味方するのが自分の利益になるのか、そればっかりだ!シルの方が頭がいいし、シルの方が要領がいい。そのくらい、嫌というほど分かる!!そのシルが俺のことを追放したんだ、わざわざ手の込んだ濡れ衣を着せて!!そんなの…」
溢れ出る彼の叫び声。プラータの頭に浮かぶ、初めて見た冷たいシルヴァラの姿。
宝石のようなブルーの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
「俺が王宮に居ない方が、シルにとって都合がいいってことだろ?だったら、俺はシルを信じたい。昔みたいに、俺に逃げさせてくれたんだって。そう、信じたいよ…」
ゆっくりと、カロンは立ち上がる。
仕える主人の本心を引きずり出すために。
「信じたいけど…信じられないんですよね?」
「っ、」
「ご自身で言いましたよね。シルは明らかに変だった、ウスタシュ宰相は何か企んでいる、と。」
「………」
カロンが剣を構えると、切っ先がプゥの剣と微かに触れ合った。
「議会を出る前、貴方はウスタシュ宰相の方を振り返っていた。何か気付いたんでしょう?」
「…よく見てるじゃん、俺のこと。」
「仮に貴族の利権争いから貴方を遠ざけるためだとしたら、シルヴァラ殿下はあんなやり方をしない。そのくらい、俺にも分かります。」
「…そう…かもね。」
強い風が吹く。
動き出したのは、同時。
「いい加減素直になって下さい、プラータ殿下!!」
「生意気なんだよ、カロンのくせにーっ!!」
交差する剣。血が飛び散る。
鋼同士が交わる甲高い音が夜空に吸い込まれる。
「っ…………あーーーーーー!!!」
ガクン、と膝をつくプラータ。
彼はそのまま大の字に倒れ、剣を放り出す。
首筋に赤く細い亀裂が走っていた。
「負けたよ…カロン。」
「殿下」
「たぶん、シルはウスタシュ宰相の企みに利用されてる。その企みは、この国にとって良いことのようには思えない。…カンだけど。」
呼吸さえ乱していないカロンが、プラータに手を差し出す。
「それなら、その企みを明かしてやりましょう。…助けたいんでしょう?シルヴァラ殿下のこと。」
「カロン…」
「それは、貴方にしか出来ません。プラータ殿下。」
プラータは自身の側近を見上げる。
月明かりに照らされた彼の笑顔。これ以上に心強いものはない。
「…ありがとう。」
1番の味方の手をとり、プラータは立ち上がった。
To be continued...
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