10話 ザ・スライム推参ッ

女王蜘蛛に受けた屈辱から数日後。

私は屠殺部屋Ⅰでサド看守の解体した屍体を食べる日々を送っていた。

目の前で生き物が解体されているのに、怒りや恐怖を感じなくなってきた自分がいる。

最近、自分の体積・酸性があまり増えないように感じる。この部屋から出る屍体を食べるだけでは限界があるのだろうか。

そうすると尚更、あの女王蜘蛛に一泡吹かせる必要性を感じる。しかし、勝ち目が見えないしなあ.....。他の屠殺部屋を探してみるべきか?


あ、この部位美味しい。スネの部分。もっとちょうだい。


ガッガッ ガツガツ....

グッチャグッチャ....

ハグハグ...... ガッガッ


「きみ、元の大きさに戻ったね。」

(ヒョエっ!?)


突然、頭上の『おかあさん』に声をかけられた。そうするとおっそろしいサド看守もこちらに視線を向けてくるわけで。


「お前、スライムの大きさとか把握してるの?よくやるわぁ...。」


幸いというか、今日のサド看守は酔っ払っているようだった。酒瓶片手に獲物を生きたまま解体している。毎回思うけどさっさと殺せねーかなコイツ。『おかあさん』がいるから無理だろうけど。

ずりずりと部屋の隅まで這いずる。


「あー、怖がっちゃった。ねえマスター、そのお酒ちょうだいよ。」

「は?何で魔物に俺様がやんなきゃいけねえんだよ。」

「こんないいお酒、のあなたからすれば貴重だろうけど、お願い!」


何故かその言葉にサド看守は気を良くしたようだった。アレか?酒弱いのを昔中にされたりしてコンプレックスに思ってるタイプ?典型的ゲス竿役黒人みたいな顔の癖にヒャハハハめちゃくちゃオモロイでぇ!!!


「しょうがねえなあ...。」


そうして受け取った酒瓶。何故か『おかあさん』は少ししか手をつけなかった。それどころか、解体の終わり際に部屋に置いて行ってしまった。何だろう、口に合わなかったのかな。


▶︎▶︎▶︎時間経過▶︎▶︎▶︎


しばらく待っても取りにこない。酒かあ。当然ながらこの世界に来てから一切飲んでいない。なんかラベルからして高そうだし、飲んじゃおうか?

体を整形して人間モードになる。つってもまだドラクエのどろにんぎょうレベルだけどね。濃密な酒気を放つ液体は、液体というより粘液のようだ。これは気持ちよく酔えそうだ。


「いっただきーーー」


そこまで言って酒瓶を下す。

酔っ払うより、より楽しいことを思い出したのだ。


▶︎▶︎▶︎時間経過▶︎▶︎▶︎


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『バカ』で読み方は合ってるだろうか。

屠殺部屋Ⅱに偵察に来るたび、まだ暴言を吐いていないのに貶してくるようになった。こっちが出ていけないのをいいことに好き放題煽りやがって。私は人に暴言を吐く奴が許せない。

もうこれ私の損得利害怨恨抜きにしても燃やすべき害獣だろ...。


言葉だって人を殺せるのに、そのことを考えないやつほんっっっとに気持ち悪いし気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

クソ蜘蛛きもすぎクソ蜘蛛きもっきめーよ寒気がするやだやだやだ気持ち悪いやめろやめろやめろ

吐き気がするオエッオエッオエッオエッ


今日も私がこのまますごすごと引き下がると思っているのだろうか。


子蜘蛛の間では、チキンレースが流行っていた。どれだけ私に近づいても捕食されないか、ということだ。今も、数十匹の蜘蛛が通気孔のすぐ下で屈伸や放屁している。舐めやがって。

人型を形造り、拳を固める。


通気孔は、内側からだと簡単に外せる作りになっている。

逆に部屋側からだと外せず、私の防御網になっている訳だが。その通気孔を今、ぶん殴った。








ガア!!!という轟音と共に、部屋の壁を蜘蛛もろとも削りながら通気孔の金具が落下する。これで逃げ道は失われた。屠殺部屋Ⅰに戻ろうと、大蜘蛛は私を追いかけて殺すことができる。



プニ!!!という思ったより情けない音と共に、逃げた蜘蛛を着地した私が仕留める。


敏捷 F+1 +1 +1


混乱の中、蜘蛛たちを一通り捕食してから、体の中にいっぱいの空気を込める。


「ザ・スライム推参ッ クソ蜘蛛の命を貰い受けに来たあッ」


ズッ、ズッ。

硬質化した足を引き摺りながら、棚から大蜘蛛が這い出てきた。キキキ、というその金属質な鳴き声は私を嘲笑っているように聞こえる。格下の癖に、わざわざ狩られにきた私を。


確かに、大型犬のようなスピードとギロチンのようなパワー。そしておそらく並外れたタフネス。これらは優れたものだ。ランクから言っても私はF、このクソ蜘蛛はD。本来なら黙ってやられるしかない格上だ。組み付いたとしても、1秒後には内臓も何もかも両断されるだろう。


互いに牽制し合っている間に、蜘蛛たちが私の背後で逃げ道を塞いでいる。

彼らの女王なら私を確実に殺してくれる...そう思っているのだろう。実際、順当にいけばそうなるだろう。

じりじりと近づいてくる『死』を、私は笑い飛ばした。


「でもさア、私はお前が可哀想でならないよ、クソ蜘蛛」


強者のよゆうを漂わせていた蜘蛛の動きがピクリと止まる。自分の声が狭い室内に反響して、おかしくなるくらいにテンションが上がる。


「誰かを傷つけるだけの虫生。不潔で、一生死体を食うだけの生活で......おまけに、これから脳みそをカチ割られる!!!」


ギャリアアアン!!!!ガラスの砕け散る音が響き、大蜘蛛の体が後方へ吹っ飛ぶ。

またもや、スリング・ショットの応用。通気孔に仕掛けていた私の体を使って、酒瓶を大蜘蛛に叩きつけたのだ。大蜘蛛の厚い額が割れ、痙攣している。錘をくくりつけ、成人男性の首くらい、7〜8キロの酒瓶だ。ヒ◯カだってその威力は認めている。今のは人間でさえ即死しかねないだろう。


触手を伸ばして大鉈や鎌など、解体道具を持ち上げる。

こんなもの、本来敏捷:Dの大蜘蛛に敏捷:F、筋力:Fの私が当てられるわけはない。でも、無力に倒れてる今なら話は別だ。

周囲の蜘蛛たちが、悲鳴のような声で大蜘蛛を起こそうとする。


「ヒャアアアアアア!!!!」


触手が一斉に処刑道具を、柔い肌に突き立てる。

噴水のように飛び散る血の色は赤く、濃厚だった。部下の蜘蛛たちはうっすい水のような血液だったのに。ブチュブチュと腹を掻き回す。


血飛沫が私の全身に付着する。......美味い!!!生者の新鮮な血......


「キ、キキキ......楽しい!!!もっと、血を!!!血を寄越せ!!!」


キン!!!という音がして、八つある足が処刑道具を振り払った。

厚い脂肪のおかげが、大蜘蛛の内臓はあまり傷ついていないようだ。複眼が、怒りと恐れ半々でこちらを見つめている。私も親愛を込めて見つめ返す。


「やべえよ、その目...チンコもオマタもバッキバキになっちまう...。」


大蜘蛛の目が恐怖で染まり、こちらに一直線に飛び込んでくる。


「ヒャアアアアアアア!!!!!」


ただし、その軌道上には天井に隠していたチェンソーがある。これくらいなら突破できるという計算だったのだろうか。甘い甘い。


起動したチェンソーはギャアアアアアアア!!!!という音と共に、大蜘蛛の装甲を削って火花を立てる。

そして、最初にぶっかけていた酒。

答えは簡単。



ボッガ、という破裂音がした。

大蜘蛛の体内に染み込んだアルコールが爆発的に発火する。装甲が弾け飛び、表皮を削ったところでチェンソーが停止する。


部屋中に飛び散った濃厚なアルコールにももちろん発火し、部屋は炎で包まれる。温度差で風が起こり、高く伸びた炎が慌ただしくゆらめく。

一刻も早く逃げなければ、という理性と共に眼前の炎を跳ね除ける。体の一部が沸騰するが、どうでもいい。大蜘蛛が体勢を整える前にこのチェンソーを握れたのだがら。


装甲にめり込んだチェンソーに馬乗りになり、スターターを引いた。鋸刃が回転し、体重をかけるたびに深く深くめり込んでいく。


「オラ!死ね!死ね!」


大蜘蛛の内臓を掻き回す湿った音。


素早さも力も何一つ活かせないまま、ギギギギギと断末魔を上げて燃える蜘蛛に中指を立てた。

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