第6話 身体 なし 強さ なし 尊厳 なし 守りたいもの あり

改めて、私の二度目の人生を振り返ろう。

私はおそらく、雑魚魔物として生まれ落ちた。それも、ゲームなら強化素材のためにアホほど生贄に捧げられるような、不遇の極み。知能も落ちて、人間の都合にいいように人生をすり潰されて。

そして今、死体以下の肉体になって、何故か命を長らえさせている。


(やめろオオ)


必死の叫びと共に、損壊される生首に駆け寄る。しかしその姿はあまりにもトロく....側から見れば滑稽なものであっただろう。

相手は同族...今の私でも何とかやれないことはないはずだ。ずり、ずーりと数分かけて一メートル先のスライムに組みつく。体の何分の一かを伸ばし、敵方のスライムにくっつけ、したいから引き剥がす。


こいつ......多分、私より弱い!体のサイズを見ても、私の方が一回り大きいしなっ。

体をぐにーんと、腹筋を伸ばすように持ち上げ、そして倒れ込むように飲み込む!

しゃあっ!精神的ヒール・ホールド!

体の中で微かに抵抗している音が聞こえる。鼓膜とかじゃなくて全身で音を感じているから、全身が震える。

一旦大人しくしていてもらおう......しかし、どうしたものか?このスライムも命なんだよな。殺したくはない。それに......


『ケケケ、いっぱい餌を食べるんだよ。お前は掃除機なんだからな。』


みたいなことを、あのサディステックな看守が言っていた。そしてスライムの知識といえば、だいたい有機物全般だろう。

......もしかして、もしかして、だ。




近くの生首、手、臓器のかけら。そういったものに目をむける。脳からの指令とかがまだ残っているのか、時々痙攣している。やわらな皮膚が撓んで/伸び、澄んだ瞳の瞼がゆらめくように瞬きする。

それは、残酷なくらいに生きていた証を残していた。


それを食べるなんて、許されるはずがない。それは、あまりにも冒涜的だ。人として、許されない、許されてはならない行為だ。

しかし、より周囲を眺めてみると...他の死体に、スライムたちが組み付いては酸の息をあげている。彼ら全体を拘束するなんてできるわけがない。どうすべき?どうすべきだ...?


迷っていると、体の下から抵抗が不意に止んだ。

ん?ステータスが見れない...


死んだ?いや、殺しちゃった?一応同族なんだけど。





🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦

name サーシャ

spices スライム(ランク:G)


筋力 G

敏捷 G 

耐久 D+1

魔力 G


とくせい あくじき

🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦🟥




(やっべ、やっちゃった。同族喰い。酸素供給を絶ったのが悪かったのか?)


不意にこういう感想が出てくるくらい、私の感情のブレは少なかった。

それよりも、『成長した』という実感がある。死んだスライムの体も、何故か動かせる。背丈をのーびのーび。視界の高さが二倍くらいになったと感じる。


(決まったか、基本方針?)


とにかく、今は同族喰いだ。スライムを殺してしまおう。これ以上死体を損壊させるわけにはいかない。......と、思ったが。眠い。瞼がアホみたいに重い(比喩表現)。どうやらスライムの体にも、疲労、所謂活動限界はあるらしい。


死体損壊を放置して寝るのか.....と言われたくないので自己弁護すると、三徹目の頭痛のような、『今寝ないと死ぬ、ガチで死ぬ』という危機感があった。


今は、休むときだ。こんなになっちゃったが、休んで、そして己のなすべきことをなそう。


こうして私は、少しずつ、他のスライムを喰っていった。

罪悪感とかはない……たぶん蝿に感じないのと同じ理由で。

死体は食わず、部屋の片隅に集める。決して私は、人間と思しき死体は食わない。カニバリズム...厳密な定義は違うのだろうか?とにかくその一線を越えると『戻って来れなくなる』気がしたから。

ハエやウジは湧いたら、キモいけど取ってケアする。なんとか、埋葬でもしてあげられればいいのだけれど。


🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦

name サーシャ

spices スライム(ランク:G)


筋力 G

敏捷 G 

耐久 D+5

魔力 G


とくせい あくじき

🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦🟥🟦



▶︎▶︎▶︎時間経過▶︎▶︎▶︎


「なんか、最近死体の処理効率が落ちてないか?」

「確かに。きったない部屋なのに、スライムもなかなか発生しないねえ。」


看守と『おかあさん』は『屠殺部屋』にいた。

「作為」を疑われなくないので、サーシャはそこら辺でとろけるように待機している。『おかあさん』がちらりと私の方を見た。透明な体に、生前の頭髪や頭蓋といった分解されにくものだけが浮かんでいる。

どきりとしたが、対して興味は持たれなかったようだ。


それよりも、部屋の隅が問題だった。何故か、瞳や頭部といった部位が部屋の隅に偏って、羽虫が飛んでいる。スライムが頭部を嫌うという話はとんと聞いたことがない。

また、明らかにスライムの数が少なく、吸収されきらない血液が水溜りになっている。


今日もまた、行きたまま魔物が解体されていた。解体されるのは猪のような動物型で、人語を解する様子はなかった。それでも、『おかあさん』に臓器を潰され力を奪われ、断末魔の叫びは、沁みる。今は亡き心臓が痛む。


『看守』は猪の死体を用済みとばかりにそこらに放り投げた。


「まあいい。スライムばかりじゃアレだからな。タバコの釣りで処理役を買ってきたんだ。ナユタ........コープス・イーターを放てッ」




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