物語は読む人の数だけ、生まれる

たった一つの物語が、千差万別の姿で心に立ち上がる――
そんな経験は、きっと誰もが一度はしているはず。

このエッセイは、「物語とは何か」を言語の根底から分解し、
言葉、文字、文、そして読書という営みのすべてを
丁寧に、時にユーモラスに、そして鋭く解きほぐしていく。

目に見えない物語の正体はどこにあるのか?
紙の上? それとも書き手の頭の中?

――いいえ。

その答えは、読む人の中にだけ、ひっそりと生まれる。

書かれた文字の音や形、
順番、間合い、使われる文体や句読点の位置までもが
読者の心と結びつき、そこにしかない世界を立ち上げていく。

しかも、その世界は誰にも覗けない。
あなたの中にだけ現れる、唯一無二の物語。

「オデ イヌ 好き」という、たった三語の語順の違いすら
感情の波を変え、登場人物の輪郭を描いてしまう日本語の特性。
「売ります 赤ん坊の靴 未使用」によって、
ページに書かれていない物語までもが流れ込んでくる瞬間。

それらはすべて、読者自身の内側から生まれる。

読書とは――
人間という『再生機』が、自分の中だけで物語を起動する行為なのだ。

これは、読む人すべてに贈る知的な『再発見』の旅。
物語に触れたことがあるすべての人に、ぜひ読んでほしい。

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