第14話 共鳴

 まだ世界が色鮮やかだった頃

ソーとセージはどこにでもいる双子の子供。

彼らはいつも一緒にいて、二人でひとつ。

ニコイチ。

しかし、他の子供たちとは少し違った特別な能力を持っていた。それは、お互いの感情をまるで自分のことのように感じ取ることができる、繊細な共感覚のようなもの。


ある日、二人がまだ幼い頃、両親が激しい口論をしているのを目にした。

ソーは父親の怒りの感情を、まるで自分の体が熱くなるように感じ、思わず「ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ」と笑った。

それは、恐怖と混乱からくる、どこかぎこちない笑い。


セージは、母親の悲しみの感情を胸が締め付けられるように感じ、同時に兄のソーのその場違いの笑いに強い怒りを感じた。

「何がおかしいの!」セージはそう叫び、兄を睨みつけていた。

その出来事が、二人の感情表現に大きな影響を与えた。

ソーは、セージの怒りの感情を敏感に感じ取るようになり、セージが怒り出すと、その重苦しい空気を和らげようと、意識的に明るく振る舞い、おどけて笑わせようとするようになり、彼の「とにかく笑う」という態度は、セージの負の感情を和らげたい、深い愛情と優しさからくるものだった。

一方、セージはソーの明るい笑い声の中に、どこか自分をバカにしているような、あるいは自分の感情を理解していないようなものを感じ、それが彼女の怒りをさらに掻き立てるようになっていた。ソーが笑えば笑うほど、セージは「なんでそんなに笑えるの!」と、より強く怒りを露わにするようになった。

彼女の「とにかく怒る」という態度は、兄の表面的な明るさに対する不信感と自分の感情を理解してほしいという切実な願いの表れ。

そして、二人はお互いの感情を強く感じ取るがゆえに、相手が悲しんでいる時、苦しんでいる時、その感情がまるで自分の事のように心に響き、二人同時に涙を流すことが多くなった。ソーがセージの悲しみを、セージがソーの寂しさを感じ取り、共鳴するように

「とにかく泣く」ようになっていた。

それは、彼らが持つ深い絆と、お互いを理解し合いたいという強い気持ちの表れ。


 月日が流れ、世界が感情抑制装置によってモノクロームに染まり、多くの人々の感情が失われていく世界となり、ソーとセージはお互いの感情を感じる能力が薄れていくことに深い寂しさを覚えていた。

二人は、自分たちの特別な能力が、世界から失われつつある感情の輝きを唯一感じ取れるものだと気づき、その喪失感とかつてのように感情を共有できなくなるかもしれないという不安から、さらに涙することが多くなった。

だからこそ、彼らはエモレジに参加し失われた感情を取り戻すために、二人の能力と、お互いを深く理解し合う絆を活かし、活動を続けていた。

ソーの明るい笑顔は、セージの怒りを鎮め、希望を灯す灯火であり、セージの怒りは、抑圧された感情への抵抗の叫び。


 二人の涙は失われた世界を取り戻したい、切なる願いの象徴だった。

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感情解放プロジェクト のこのこ @noname511

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