第28話 ロイヤルメイドの一撃
正気を取り戻したロザリーはといえば、頭を椅子のうしろに隠しながらもぷりんとお尻をはみ出した、まさに頭隠して尻隠さずといった惨め極まりない態勢だった。
顔を出してきょろきょろとしていると、傍らにリラがしゃがみ込んだ。
「大きなヒップが丸出しよロザリーちゃん。花柄かしらと思ったら意外。縞々が好みなのね」
下着の模様をばっちり当てられた。慌てて尻を引っ込める。
「ふふ。今更隠しても無駄よ。これから私たち、風に乗るんだから」
「ふぇ?」と列車の縁に目をやった。メイドたちが次々と小型飛空艇に跨っている。彼女たちはレバーを引くと、大量の蒸気を吹かせて飛び立った。
「あれで大きな殿方の元まで行くわよ。ドライブのお供は私で良かったかしら?」
「いやです」
「あらら、この私を振るなんて罪な子……」
リラはひょいとロザリーの身体を持ち上げた。暴風の中、子供のように暴れるロザリーを肩に担ぎ小型飛空艇の後部座席に下ろす。
「お仕置きが必要ねぇ。大人の魅力を教えてあげなくっちゃ」
呻るエンジンの振動を縞柄の尻で感じながら言った。
「こここの飛空艇、ほかのとちょっと違くないですか……? 少しだけおっきいような……」
「馬力は二倍。スピードは三倍よ?」
「降ります!!!!」
「残念。一秒遅かったわね――」
リラがスロットルを回した瞬間、背後に引っ張られる感覚が襲った。
口から飛び出ていた絶叫はすでに途絶えていた。目をカラカラに乾かせる超スピードと、鳥と並走する高度、そしてアクロバティックなリラの運転にロザリーは白目を剥いていた。途絶えそうになる意識を必死で繋ぎ止め、リラの腰にしがみ付く腕に目一杯の力を籠める。少しでも緩めてしまえば即死である。
「そんなに強く抱きしめられたら照れてしまうわ!」
この状況下において冗談を飛ばせる彼女が信じられない。丈の短い赤隊服は千切れそうなほど暴れているのに丸いサングラスが落ちないのはなぜなのか。へそを出していて寒くないのか、そもそもこの丸見えの美尻にひっついたT字の下着はどこで売っているのか。
恐怖に身を任せて、出来得る限りの早口ですべてを聞いてみた。
「これが大人の魅力よ!!」と風の中で笑う彼女は愉しそうである。
数回の空中回転を経て小型飛空艇はコアに接近した。あろうことかリラは片手をハンドルから放し銃撃を放っている。ほかのメイドたちが操縦する飛空艇は戦術的な規則性を感じるのに反して、こちらは生き物さながらの予想できない動きを繰り返す。
完全に乗る船を間違えたようだ。ヨットに乗る予定がサメの尾ひれにしがみ付いてしまった。
「少しだけ運転替わってね!!」
「もちろんムリです!!」
こちらの主張にこれっぽっちも耳を貸す素振りを見せず、リラは後部座席に移り、気が付けばハンドルを握らされていた。
背後で高速の射撃音が鳴る中、迫る無数の砲弾を前にパニックに陥ったロザリーはハンドルとペダル、いくつものボタンを狂ったように押しまくる。上下左右に暴れ回った小型飛空艇は奇跡的に巨大錆兵の追撃から逃れた。
「ふふ!! ロザリーちゃんやるじゃない!! 今度飛行訓練に推薦してあげるわね!!」
「かんべんしてください~!!」
一通り攻撃を終えたリラが運転席に戻ると、ロザリーは死んだように彼女の背に倒れ込んだ。
「ももももう終わりですよね!?!? 今ので最後ですよね!?!?」
「う~んごめんなさい! 殿方まだまだ元気なようだからあと十回くらい攻め込まないと!!」
こくり、と首を折った。両手を腰から放し暗器を握る。
「!? ロザリーちゃん大丈夫!? 落っこちちゃ――」
「あと十回なんて」
あろうことかロザリーは座席の上に立ち上がった。突風がメイド服を暴れさせる。パンツだろうが生尻だろうが関係ない。
眼下の巨大錆兵を見つめ、そして飛び降りた。
「――あと十回なんて私!! おしっこ漏れちゃいます~!!!!」
満身創痍の急降下。大きく振りかぶった二つの刃で風圧を切り裂き、光るコアに向けて振り下ろした。ロザリーの身体を急加速で回り込んだリラがキャッチすると同時に、コアに大きな十字傷が走った。
「なんて無茶な子!!」
リラは腕の中のロザリーを見下ろす。完全に失神しているようだ。
リラは遥か頭上を見上げた。
「新入隊員は頑張ったわよ!! あとはアナタの仕事!!」
リラはすうと息を吸い込んだ。
「――我らが隊長さん!!」
晴天から一言「わかっているよ。リラ」と鳴った。
次の瞬間、一帯の荒野は緋色に包まれた。頭上から何かが降ってくる。
六本の輝きを纏った、黒い稲妻の如く禍々しい輝き。それらは宙を割り、大地の砂を浮かび上がらせると、雷鳴を轟かせてコアに突き刺さった。
「黒撃――破滅雷華」
魔力を最大解放したヴォルビリスは、六つの剣を意のままに操り巨大錆兵をバラバラに解体したのだった。
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