ロザリーの花集め〜スチームパンクの街に生まれたけど普通にお花の方がきれいで好きなのでフラワーショップ開きます。ついでに最強のメイドになりました〜

なけなしの氷堂

第1話 フラピーチ

 あるところにあるところに、鉄の国で暮らす一人の少女がいました。少女はお花が大好きだけれど鉄の国にお花はありません。どうしましょう。悩みに悩んだ少女はとある方法を思いつきました。

 鉄ばかりの国をお花だらけにする魔法を。


「あった、あった、こっちにもふたつ」

 茶色がかった芝の上を、一人のしゃがんだ少女がぴょんぴょんと跳ねる。ふわりとした桃色髪と花柄のエプロンを揺らしながら、手にしたものを手編み籠に入れる。

 少女の手に触れるのは花だった。枯れた芝生に残った小さな花。それを一輪一輪丁寧に摘んではキラキラの大きな瞳で見つめる。

「ここはもう枯れちゃうから、おひっこししましょうね~」

 笑顔で花を摘み終えると、少女は「よいしょ」と立ち上がった。

 先に広がっていた光景は、凛とした花から最もかけ離れた世界。

 鋼鉄と蒸気。巨大な歯車が街を動かし無数の煙突から上がった白いもくもくは街中に流れる。金属の建物はひしめき合い、流れる川を仰々しい大橋で横断して、ときたま望める青空を飛空艇の艦隊が埋め尽くす。

 あきれるようなスチームパンク。少女の立つ枯れた高台など簡単に圧し潰してしまいそうな鋼鉄の群れ。『メルボイル』と名付けられた都市は眠ることなく動き続ける。


 狭い裏路地を抜け、鉄板の階段を駆け下りる。

 籠を片手に引っ掛けた少女は、花冠を模したガラス細工の髪飾りを落っことさないよう押えながら編み込みのサンダルを走らせた。

「もうこんな時間~! 間に合わないかも~!」

 慣れない様子で走る彼女は目も開けず「えっほえっほ」と手を振る。

 肉付きのいい十七歳の身体は少々運動が苦手なようだ。整った顔立ちの中でより際立つのは大きく膨らんだ涙袋。まるで小動物のような愛らしい印象を受ける。

 角を曲がると、水路沿いに立つ三角屋根の建物が見えた。すでに数人の人だかりができている。

「あ~!! やっぱり!!」 

 その集団は揃いの格好をしていた。蒼と黒のメイド服。女たちが群がっている。

「ごめんなさい~!」を連呼しながら彼女たちの元に走ると、体力の限界に膝を付いた。息切れしている少女にメイドの中から声がかかった。

「ようやく来たわねロザリー。開店時間、もう過ぎてるわよ?」

 ぱっと顔を上げる。そのくりくりの大きな瞳が瞬いた。

「い、いま開けます~!!」

 慌てながら少女ロザリーは店の鍵を開げclose゙の表札を裏返した。

 装飾品店『フラピーチ』は、今日も営業を始める。

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