第2話 マサル新惑星に立つ

 揚陸艦フォトンが新惑星FP-919 に着陸して24時間が経過した。

 現在、周囲に飛ばした各種ドローンが情報収集、僕はカプセルに詰められ調を施されている。


 この環境調整・・超大事らしい。


 よくSF映画とかで、新惑星に到着して意気揚々と船を降りたりするよね?

 長旅で疲れているのだもの、早く地べたに降りて身体を休めたい。

 僕もそう思う。


 でも、あれパンドラさんに言わせれば「正気ですか?」だそうな。


 惑星が違えば、重力も大気の組成も太陽光も何もかも違う。

 場合によっては即死、大抵は数分で死んじゃうらしい。

 夢も希望もない話だ。


 まあ、そういった諸々も優秀なパンドラ女史が準備してくれていて、僕が培養液に浮かんでいた時分からこの星系に合せて調整してくれていたらしい。


 今は精密な観測器で詳細に調べたデータを元に最後の微調整をしてくれている。


 ――――

 ―――

 ――

 ‐


「お疲れ様でした」

「うん、ありがとう。 周囲の様子はどうだった?」


 更に24時間が過ぎた。

 ようやくカプセル詰めの刑から解放された僕は早速パンドラに尋ねた。


 永いことおあずけを喰らったのだ。

 兎に角まず新惑星FP-919 に降り立ちたい。


「不思議なことに地上には敵性生物が全く発見されませんでした。 事前の観測では2足歩行の獣が多数発見されていたのですが」

「ふ~ん、2足歩行ってことは割と知恵もあるんじゃない? でっかい船を見て逃げたのかもよ」

「・・そうですね」


 パンドラは納得いかないのか怪訝な表情で考え込んでいる。

 こういう仕草を見ると本当ににしか見えない。

 本人は感情を持たない亜生命だと言い張るけど。


 少しほっこりした気持ちでパンドラの横顔を眺めていると、不意に彼女が視線を右上に移す。


 あれは外部から連絡が入ったときの仕草だ。

 近頃はこういった彼女の機微を見付けるのがマイブームだったりする。


「キモいから止めてください」

「・・・。」


 但し、僕の思考が彼女に筒抜けなのが玉にきずだ。

 以心伝心ではない、モニターされているから隠しようがない。


「ドローンが森の外縁部で原住民を保護したようです」

「原住民って・・。」


 友好関係を結ぶためにも相手へのリスペクトは大切だぞ。


「若い雌のようです。 画像送りますか?」

「いやだから言い方! ・・・送ってください」


 くっ・・今日はこのぐらいにしておいてやろう。


 どれどれ、眼内モニターにドローンが送ってきた画像を映す。

 どうやらライブ映像の様だ。


 文字通り目に入ってきたのは、4足歩行型ドローンの背部マニピュレーターに片足を掴まれ吊るされた少女の姿。

 丈の長いスカートが、嵐でめくれ返った傘みたいになってる。


 控えめに言って酷い扱いだ。


「いや、持ち方!」


 パンドラには人間の機微というか加減をもう少し教えた方がいいかもしれない。


 ――――

 ―――

 ――

 ‐


 担架を積載したローバーを件のドローンの下に派遣して3時間後、保護された少女がフォトン艦内に届けられた。


 未だ意識のない少女。

 整った顔に透き通るような白い肌、ゴージャスな金髪はいわゆる縦ロールに巻かれている。

 顔には殴られた痕、衣服は肌けてボロボロ、まさに凌辱の被害者といった感じだ。

 ただ、不思議なことにパンツは脱がされていない。


 スカートが裏返った映像ではカボチャパンツをしっかり履いていた。


 もう一つ気になるのが手首にめられたかせだ。

 奴隷には見えない。

 罪人だろうか?

 だとしても、森に連れ込んで凌辱に及んだ連中とは相いれない。


「頭を強く打ってますね。 検疫はパスしています。 医療ポットを使った方がよろしいでしょう」

「そうか、助けてやってくれ」

「了解しました」


 いずれにしろ本人に確認するしかあるまい。


 ――――

 ―――

 ――

 ‐


 少女の治療が終わるまでかなり時間がかかるらしい。

 取り敢えず僕はフォトンの周囲を散策することにした。


 ハッチを開き船外へ。

 海外で飛行機を降りたときのような、空気の違いを強く感じる。

 環境調整を施さなければ、即死するレベルで空気の組成は違うらしい。

 未知の元素? エーテル? なんかも検出されているそうだ。


 仄かに地面が暖かいのは地盤を焼いた着陸の影響だろう。

 フォトンの周囲は継ぎ目のない一枚岩のように固く黒光りした岩盤が広がっている。


 正面には円形の湖、本栖湖もとすこくらいのサイズだろうか。

 周囲は植生の濃い広葉樹の森に囲まれている。


「T-SR 湖に近付き過ぎてはいけませんよ」

「おいおい、だから僕のことはマサルと呼べって何度も・・・!?」


 パンドラにいつもの様にぼやこうとしたその時、背後の湖面に不穏な気配を感じ取った。


 僕の勘が鋭いのではない。


 全ての艦船、ドローン、そしてパンドラと僕はネットワークで繋がっている。

 その何れかのセンサーに感があり、即座に僕へ危機を知らせたのだ。


 そして緊急対応を僕の身体が自動で行う。


「うわっ」


 アクションヒーローよろしくバク中で後方に飛んだ。

 五階建てマンションを飛び越えるくらいの放物線を描いて。


 そして、数舜前まで僕が居たところに迫る大顎。


「は? モササウルス?」


 湖畔に乗り上げるように襲い掛かってきた怪物は、身体を捻って再び水の中へ戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る