欲望と喧騒の翼

田中運命

騒乱


 事態は悪い方向に向いていた。依頼を受け荷物を積み、ネオ・ネクサスに向かう途中でワームホールから強制的に出された。

「ティル、状況は?」

 俺の友人でありこの船【TenCryテンクライ】のキャプテン、ティレビアに聞く。

「海賊っぽいな。嘘だと思うがトラクタービームに引っかかった」

 海賊がトラクタービームなんか撃てるかよっと思ってしまう。トラクタービームを撃てる船は軍でもないと保有していない。しかも、ワームホールから強制的に引っ張り出すほどの強さはそうそうない。

 そう考えているとホログラムからナノが出てきた。

「キャプテン、カレアさん、敵性規模かなり大きいです。お二方、戦闘準備してください」

 敵性は大規模なギャングかなんかかよ。とりあえず戦闘準備はしておこう。

「ナノはそのまま敵性の動向を探って!通信がきたら応答。OK?」

「了解しました」

 相手が撃ってこない事には始まらないからね。

「カレア!いけるよなぁ!」

「もちろんだ」

 俺とティルは自分たちの愛機の元へそれぞれ向かう。それぞれの機体はコンテナに似せた格納庫の中に入っている。格納庫ひとつに1機ずつ格納されているので、ティルとはここでお別れ。

「そんじゃ精々気張れよ。カレア!」

「そっちもな!ティル!」

 機体は万全。後は待つだけだ。

「それじゃあ今回もよろしく。相棒!」

 そう言いながら俺の自慢の愛機「RiSE SiXライズシックス」に乗る。HUDヘッドアップディスプレイ内蔵バイザーを掛け、パチパチと機体のスイッチを弾きながらいつでも発進できるようにする。

 ちょうど準備が完了した直後に、通信機から音が出る。

『我らは【クトゥーズ】。そちらの積んでいる物を此方に寄越せ。無駄なことをしなければ手を出さん』

 依頼されている積荷が目当てだろう。確か積荷は希少な鉱物だとか。しかもセンサーとかで探知すれば見つかるから海賊のいい餌。まあだからこそ報酬が高いわけだ。ただ、TenCryなら会敵のリスクが低いと思っていた。銀河間の移動はワームホールで軽々飛べる。だけど不足の事態だな。相手が強力なトラクタービームを持っているなんて。

『それは出来ない相談です。此方もビジネスですから』

 ナノも負けじと答える。ナノが言った通り此方もビジネスだ。俺らの信頼が落ちたら面倒になる。

『交渉決裂だな』

 相手方のボスらしき人物がそう言い通信を切る。短気だな。

『さて、行こうか!』

 通信機からティルの声が響く。

『戦闘配置。シールド、隔壁、展開完了。発進準備完了。いつでもいけます』

 ナノからそう伝えられる。格納庫の扉が開き始める。

『ティレビア、【Leollionレオリオン】出る!」

 ティルが出たか。じゃぁ俺も。

「カレア、【RiSESIX】発艦する!」

 最大出力で格納庫から発進する。

「OKェ…。敵は23機くらいか。大きいの合わせて」

 宇宙空間に出て敵性反応を数える。

『そんなもんでしょ。こっちが少ないだけ』

 ティルが冗談ぽく言う。

「それは同意」

 そんな会話を挟みながら作戦を提案する。

「そっちは母艦叩ける?こっちは雑魚処理するから」

 ティルはうーんと唸った後にこう続ける。

「敵が半分くらいに減ったらそれでいこう」

「了解」

 作戦は決まった。後は実行だけだ。

『先言ってるよん』

 ティルが軽い口振りで最大船速を出し突っ切って行くのが見える。

「泣き言言うなよ!」

 それに続いて俺も最大船速で別動隊を狙う。早速向こうでドンパチ始めている。此方は少ないな。面白くない。

 センサーが正面の敵機を捉える。ヘッドオンを狙いにくるのか。まだ向こうも射程外だ。ジリジリと両者が詰め寄る。まだ、まだ。そう思いながら操縦桿のトリガーに置いた指に緊張を走らせる。

「今」

 射程内に入れば勝者は一瞬で決まる。RiSE SiXから放たれたレーザー弾の1発は敵の機体を抉る。2発目には爆散。わずか1秒ちょっと。相手も相当神経削ったと思う。けど、この機体は普通の機体とは訳が違う。父が汗を滲ませながら造り、その機体をティルと俺で改造した。そしてコックピットに俺がいる。どんな敵も勝てるわけないだろう。

 最初の1機目を撃破後、2機目を狙う。今度はケツについた。相手のスラスターを狙ってトリガーを引く。

「命中…」

 俺は呟くように言う。狙っていた敵の機体のスラスターは爆発し、炎上している。でも、まだ動くか。はよ降参しろ。

 次弾を撃ち出しトドメを刺す。

「さて、次は…」

 次の相手を探していると通信が入る。

『えっと、ケツについてる敵を落として下さい。お願いします!お尻拭いて!」

 ティルからの救助要請だった。泣き言言うなって言っただろ。

「今からそっちに行く!信号出しとけ!」

 ティルにそう伝えると、パチっとスイッチを弾く。弾いたと同時に両翼の先端が後ろに下がる。その名も音速モード。この形状になると音速以上の速さが出せるが、火器系統が使えなくなる欠点を持つ。

「行け行け、っ行け!」

 俺が吠えると同時に最大出力を出しながらティルの元に向かう。そこまで俺がいた戦闘区域からティルのいる戦闘区域に一瞬でたどり着く。

「待ってろ」

 そう呟きながらまたパチパチっとスイッチを弾く。両翼は最初にあった位置に戻ったが、今度は両翼がY字に開く。

「フィーバーモード…」

 フィーバーモード。両翼がそれぞれY字に開き、それまで連射力が遅かったレーザー砲は連射力を増す。その代わりデメリットとしては威力が少し落ちるくらい。そんな変わらんよ。

『ハヤクシテ』

 ティルから今にも堕ちそうな雰囲気を出してる。なんでそんなギリギリな雰囲気出しといて被弾してないんだよ。

「ちょうど後ろにいるわ」

『尚更はよしろや』

 なんで逆ギレするんだよ。

 そんな緊張感のない会話を挟みつつ敵をロックする。ロックオンしたと同時に敵の機体を蜂の巣になった。

「後ろはやったぞ」

 こいついつか堕ちねぇかな、なんて考えながら報告する。

『よくやった。褒めて遣わす』

 こいつマジで堕ちねぇかなぁ。

 それでも腕は確かである。此方は粗方片付いている。ホントこいつの機体といいすごいな。ティルとその機体「Leollion」は光の様に速く、火器系統の火力も高い。おまけに隠し玉も用意している。しかも、これを墜落していたのを修理して自分専用に改造し、操っているのだ。ティルの腕と技術は本物だといえよう。

「数は減ったし、母艦任せた。雑魚は処理する」

『まーかせとけって』

 そうティルに伝えると向こうも承諾するように言う。

「んじゃ、後でな」

『ああ。堕ちんなよ』

 なんで急にシリアスな空気にするかな。

「堕ちるわけねぇだろバカが!」

『はん!精々喚いとけ!』

 そんなバカみたいな会話を挟んで各々散開する。

「そっちこそな!」

 こっからはティルのカバーをしつつ雑魚を相手にするターンだ。母艦を堕としても取り残しがいれば後々厄介な事になることは間違いない。だから確実に全ての敵機体を殲滅しなければならない。まぁ捕虜として捕まえて、宇宙警察に差し出せばお金もらえるからできるだけ生かしておきたい。

『こちらナノです。現在TenCryは複数の敵性機体に囲まれています。少し救援を』

 ナノからの応援要請が鳴る。

「了解。待ってろよ」

『ええ、待っていますよ』

 応援の承諾後、モードを音速に変える。すぐさまTenCryの戦闘区域に到達し、敵機を数える。

「1、2、3、4機確認。迎撃する」

 モードを通常に戻し、TenCryの側にいる機体をロックオンする。トリガーを引きながら次の獲物を探す。

「1機目」

 命中、撃破後すぐに次の機体に目をつける。今度は確実に敵機の動力を狙う。

「確実にぃ、狙ってぇ…」

 操縦桿を握る力が強くなる。

「そこ!」

 トリガーを引き、相手の機体の動力部に穴が空く。敵の機体が動かなくなったことを確認し、信号を出すスイッチを入れる。

「ナノ!収容コンテナのトラクタービームを俺の信号のところに撃て!」

 ある程度ズレていてもトラクタービームの磁気フィールドがなんとかしてくれる。さすがティルの作ったものだ。規格品だとこうはいかない。

『了解しました』

 すぐさま俺がいる逆方向の敵機の元に向かう。

「見えた」

 こっちの機体はかなり消耗しているな。2機程度ならTenCryの砲撃で対処できる。それもナノの調整があるからこそだ。多分そのおかげであの機体は随分消耗したんだろう。

「さすがだよナノ」

 ナノへの感謝の言葉を呟き止めを刺す。その時だった。

「痛ぁ!」

 完全にケツを最後の1機に取られていた。幸いシールドで機体へのダメージは無かったが油断していた。急いでスラスター出力を最大出力へと切り替え相手の機体を離そうとする。

応援は呼べないし、期待なんてしていない。だってどこも手一杯だからね。

「あああ!面倒だな!もう少し引きつければ!」

 正直この策はしたくなかった。メインのスラスターを逆噴射しながら離着陸する用の脚にあるヴァーニアも噴射し後ろの敵を強制的に前に行かせる策。これをすると機体が悲鳴をあげかねない。

「ええいままよ!」

 全ての推進機器を逆噴射させる。機体が軋み嫌な音を立てる。頑張れ相棒!下から高速で敵機が通り過ぎていくのを確認した。

「今!」

 機体の推進機器の逆噴射を戻しながら後を追う。瞬く間に完全に逆の立場にしてやった。

「ざまあみろ!」

 そう言いながら俺はトリガーを引き相手の機体を撃破する。撃破後ティルからの通信が鳴る。

『こっちの仕事は終わったぞー』

 無事向こうも終わったようだ。多分あれを使ったのだろう。スクラッパーども、ミサイルに偽装した工作ボットを敵母艦に取りつかせて主要機関を主に破壊して自爆する趣味の悪い武装の一つだ。

「敵の生存者はできるだけ救出しとけよ」

『わーってるわ』

 速攻お金になってくれるものが近くにあるんだ拾わなければバチが当たる。

「えっと、あとは散る前に仕留めるだけか」

『了解です!射線上注意してください!』

 多分いつものあれだろうけれど、まあ、きっと当たらんだろう。

 オレたちの母艦となるTenCryから搭載された砲塔から一斉に戦場へと光線が放たれる。ナノによる計算された支援射撃はオレたちの機体に弾が当たることはなく、残りの残党を的確に射抜いていく。それでもまだまだ行動できる敵機をティルと共に潰して行った。そんなこんなで罵声飛び交う戦場が静かに幕を降ろし、俺たちは最後の確認をしていた。

「収容コンテナに生存者も乗せたし、周辺に生命反応もないな。よし!」

「機体損傷なし、機体の装備リロードヨシ!」

「システムオールグリーンです!」

 最終確認もこんな感じで読み上げていく。さすがに確認漏れがあって宇宙の藻屑になるのはゴメンだからね。

「しっかし、なんか起こりそうだなぁ」

 ティルが変なことを言い始める。

「やめろよ縁起でもない」

「そうですよキャプテン」

 俺とナノでそれ以上言うなと警告する。だって頭の隅で考えていたから。

「それでもなぁ。ホールから強制的に出せるトラクタービームなんて軍事物くらいしかないもんなぁ」

「どっかの軍事会社が糸を引いてるってことか」

 ここの周辺治安悪すぎだろ。軍事産業でいうとまず思いつくのはネオ・ネクサスだろう。あそこは技術が発達してるから、多分出所はそこであると推測できる。メーカーが分かれば良いんだけど。

「メーカーって何処のやつ?」

 母艦を破壊したティルに聞く。

「知らんよ。そんな所まで見れるかってんだ」

 まぁ、予想通りだしその通りでもある。ホールから強制的に出せるとなると3会社くらいには絞れるんだがなぁ。

「そんなことより、早く仕事を終わらせようぜ」

 コイツ、深刻な話題振っといてそんなことよりで片付けんなよ。

「んだとテメェ。まあいいや。早く済ませよう」

 俺はパチパチとスイッチを弾きながら言った。

DLO準備完了しました!」

 ナノが準備完了の報告をくれる。

「よし!リープオーバー開始!」

 ティルが高らかに叫びながらレバーを倒す。ほんとコイツ飛ぶ時だけテンションたけぇな。でも、気持ちはわかる。ワームホールに入る瞬間だけは未だに新鮮。目の前の空間が捻れて吸い込まれる感覚はテンションが上がる以外にないよな。




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