ep.32 最終テスト

 校外調査許可の申請から2週間後。


 今日は最終テストの日だ。俺は実技のテストになった。俺のテストの担当はノエル先生だ。

 ちなみにトルビーは筆記テストで、試験官は魔法科教師兼担任のテケン先生だった。


「じゃあまた」

 放課後にトルビーと別れ、それぞれ指定された場所に向かう。

 俺のテスト会場は第二実技室だ。


 ドアを3回ノックすると声が聞こえてきた。


「どぞ〜」


 なんか気の抜けた声だなと思いつつ、断りを入れてドアを開けた。

 そこにいたのは……


「やっほー、ライム。ボクが試験官するです!」

「やっぱりイニーさんですか……」

 試験官がノエル先生と聞いた時から、なんとなくイニーさんな気がしていた。

 

「「やっぱり」なんです?ドッキリのつもりだったですけど……」

 しょげるイニーさんも尊い。

 

 ……ってそんなことは置いておいて。

「はじめませんか?」

「生徒側から言うことあるんですねぇ……ま、始めるです」


 ……ん?

 

「何するんだろうって思ってるですね?」

 その通り。言い当てられてしまった。


 はじめて会った時もこんなことがあった気がするが、やっぱりイニーさん、心が読めるんじゃないか?



「ライムが提出した書類の内容だと、本当は筆記試験なんです」

「じゃあなんで実技?」

 俺の言葉を聞いて、イニーさんがジトッとした目で見つめてくる。


「察してくれです」

「……あ」

 俺が校外調査許可をとる本当の目的は魔法の収集じゃない。魔対の活動だ。

 ここで俺の実力を測っておこうということか。

 ……ここまででもう、俺たちの仕事内容がが「旅に出てて成長する」ことじゃないことは明白だ。本当は何するんだろうか。



「魔法の収集にはフィジカルもいるですよ!」

 イニーさんがそう言うと、ガチャと音を立てて俺が開けたドアと向かい合わせにあるドアが開いた。


「説得したんですが全然聞かなくて……ということで今回のテストは「魔法の収集」です」

 そう言いながらノエル先生が入ってきた。


 ドン!と大きな音を立てて砂埃がたつ。先生が目眩しの魔法を使ったのだろう。


 ふと砂埃の中から声がした。

「こう見えて先生は強いんですよ。で、イニーちゃんがどうしてもって言うのでしかたなーく」


 サァァと砂が風に流れ、姿を表した先生が持っていたのはほんのり青く輝く弓だった。


「本気です」

 先生がそう言ったのと同時にパシュンと音がした。


「いてっ……?」

 左上腕に痛みを感じ、手を触れると生暖かく湿っていた。いつの間に血が流れている。


 と、どこからかイニーさんの声が聞こえてきた。

「あれは先生の個性魔法です。さぁて、テストの合格条件は「この魔法の再現」ですっ」

 

 またパシュンと音がして、今度は左頬を掠めた。


 止まっていたら格好の的だ。とりあえず適当に動きながら腕を治そう。



 さて、弓矢のような魔法ならいくつか知っている。

 "具現化"で弓と矢を出すとか、"射撃"という魔法もある。しかし、何回撃たれようと矢を捉えられない。先生が矢をつがえているのは確かだが、飛んできているのは見えないのだ。矢を"透明化"させているのだろうか。


 ……待てよ?イニーさんはわざわざ「個性魔法」だと言った。つまりこれは固有の魔法の可能性が高い。


 個性魔法は一般魔法の上位互換だったり、今まで観測されたことの無い魔法だったりする。


 そしてこの感じ、「今で観測されたことのない魔法」である可能性が高いのだ。



 ……じゃあ詰みじゃないか! 

「難易度高くないですか?」

 俺がそう聞くと先生ではなくイニーさんが答えた。


「こんくらいできないと、レポートに書けるような魔法は集まらんです!」



 ノエル先生が苦笑いして言う。

「今のライムくんの考えを教えてくれるかな」


 攻撃が止まった……というよりパシュンという音が止んだ。


 俺も止まって答える。

「先生の使っている魔法は「今まで観測されていない個性魔法」だと思いました。これらは術式化がされておらず、魔導書の持ち主が呪文を唱えることで発現する魔法です。だから……」

「ライムくんには使えない……そういうことですね」

 先生は俺から目を逸らすと続けた。

 

「間違ってはないですが、ライムくんは少々素直すぎる様ですね……「本気で」私を倒しにきてください」

「でも……」

「大丈夫。観戦室に養護の先生がいますから」

 いやいや怪我したら"治癒"すればいいって話でもないでしょ……


 と、イニーさんの声がした。

「テスト受からないと。トルさんをひとりにする気です?」



 確かにそうだ。ここで俺が落ちれば、トルビーをひとりで調査に向かわせることになる。


 ……やるしかないか!

「"具現化テフニー"、"リゴロス"!」

 飛び道具には接近戦だ!


 キンッ!パチンッ!と実技室に音が響く。

 弓の胴で"具現化"で出したナイフを受けられたのだ。丈夫な弓だな。



 ……次だ次!


「……っ!」

 腕を振りあげようとしたところでナイフが手から離れ、カランと音を立てた。

 手の、足の力が抜けた。


 ……いや痺れたのか?

 体勢を崩し座り込む。


「っ!」

 咄嗟に首を右に倒す。あの音がして俺の左耳がすこしと後ろの地面が抉れた。

 先生は俺に矢じりを向けたまま後ろに飛び退いた。


 左手でナイフを拾って立ち、動き出す。俺は右利きだが、右手の感覚がないのだ。


 慣れないが左手でやるしかない。力が込めやすいように逆手にナイフを持つ。そして右手に"治癒"をかけつつ走る。


 さて、情報が増えた。あれは雷属性の魔法だ。術式化するためには大きなヒントだ。

 あとは見えない矢だが……



「はぁ、はぁ……」

 息が上がってきた。なかなか見えない矢の正体が分からない。近接で攻撃を仕掛けても麻痺をもらうだけだ。


 不規則な動きを心がけているため急ブレーキや急な方向転換を繰り返しているため消耗が早い。

 このままじゃ捉えられてしまう……


 矢が見えないのは"透明化"な気もするがなんとなく違和感がある。


「……っ!」

 パシュン!とまた音がして左足に激痛が走る。

 反射的に血が流れ出ているところを抑えて"治癒"をする。


 ついに捉えられたか……

 しかも足をやられては自由に動けない。


 あ、次が来るな。

「"結界プロスト"」

 とりあえず傷が塞がるまではこのまま耐えて……


 って……あれ?矢がない?

 確かに被弾したはずなのに、足に矢は刺さっていない。よく見ると靴にすすのようなものがついている。矢が燃えたのか?


 もしかして……!


 左足の傷は塞がったが痺れがある。走りながら避けるのは難しいと判断して"飛行"を唱える。あと"アレ"も。


 "飛行"の方が不規則な動きがしやすい。消耗も少ないし、最初っから飛んどきゃ良かった。


 

 そろそろ……


 俺は一瞬止まって、わざと隙を作った。

 瞬間、先生はつがえていた矢を放つ。


 それとほぼ同時に"アレ"に矢が当たり砕けた。

 

 "アレ"とは結界のことだ。


 いつかラズリス姉さんがやっていた手のひらサイズのミニ結界。強度は最低にした。


 やっぱりだ。矢のスピードが速い。そのスピードによって摩擦が起こり、矢は燃えてしまうのだろう。


 ここまでわかれば再現できそうだ。



「"具現化テフニー"」

 手元に弓と矢が現れる。


「"付与フォリス"雷属性+颯」


 これでいいはずだ。

 先程からほとんど動かない先生に照準を合わせ矢を放つ。


 パシュン!


 何度も聞いたその音がして、先生の頬に一筋の赤いラインが入る。

 ツーと血が流れると、先生が口を開いた。


「……合格です」

「よっしゃっ!……っ!」


 緊張が解けたからか左足の痛みが強くなり、その場に座り込む。

 養護の先生が治療をしに来てくれた。



「この弓、光ってないですよぉ?」

 イニーさんが拗ねたように言う。

「これは私の趣味。恥ずかしいから言わせないでっ……!」

 顔を赤くしてノエル先生が言う。

 

 人は見かけによらないとはよく言ったものだ。先生、案外厨二っぽいとこあるんだな。

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