照れ照れのお嬢様
朝の目覚めは、あまりにも刺激的だった。
目元に感じた明かりで目を覚ましたわけだが、俺の隣にはまだ眠っている二人の美女が横になっていた。
「……絶景かな」
いやはや、本当に絶景そのものだった。
有栖は俺の方に体を向け、天音は凄く綺麗な仰向けの姿勢で眠っており、色々と凄いことになっている。
「なるほど……女性の胸ってこんな風になるのか」
有栖のように横を向くと、当然片乳が片乳を抑えるようになる。
男の俺では経験することがないが、基本的に横向きで寝るのが苦手な俺としてはこれって苦しくないのだろうかと思わなくもない……まあ、有栖は気持ち良さそうに寝ているので大丈夫なんだろう。
「こっちもこっちで凄いな……」
天音は、さっきも言ったが仰向けで眠っている。
へその辺りで手を繋いでいるのが可愛いと思ったが、上半身はあまりにも暴力的だ。
漫画やアニメだと、女性の胸は基本的に良い形で描かれる。
だがこのヤンカノの描写はしっかりと重力を意識していたというか、巨乳のキャラが仰向けのような状態になるとちゃんと乳は左右に広がるというか。
だから目の前の天音の爆乳もそれに漏れず、しっかりと重力が働いており非常にこう……ずっと見ていられる。
「……って、何を必死に考えてんだか」
そう言って苦笑し、表情を引き締めた。
こういう時に限って有栖が実は起きてるっていうパターンが容易に想像出来るんだが、そうそうそんな予想が当たってたまるかと思い、天音から有栖へと視線を戻す。
「おはよう、彰人さん」
「……おはよう」
……起きてんだよ。
しっかりと目を開けてこちらを有栖は見ているが、それでもまだ少し眠たそうだ。
「眠いか?」
「少しだけね。ただ二度寝するほどでもないわ……きっと、あなたが傍に居るから安心してるんでしょうね」
「……そうか」
「えぇ」
有栖は、俺が横になっていた場所をトントンと優しく叩く。
どうやら横になれとのことらしく、俺もまだベッドから出るつもりはなかったので体を倒す。
「彰人さん」
「うん?」
「まだ、名前は思い出せない?」
「……あぁ」
「そう、なら良いわ」
彼女が言う名前は、俺の本当の名前だ。
それは決して思い出せないような気がしているものの、定期的に有栖はこう言って聞いてくる……彰人ではなく、本来の俺のことさえも大切に考えてくれている証だ。
「参ったな……そうやってかつてのことを意識させられる度に、本当に嬉しくなるんだよ。本来なら絶対に有栖に気にされるはずがないのに、だからこそというか……気にかけてもらえる嬉しさがな」
「当然のことをしているだけよ? ううん、むしろ白状するならこうしてもっとあなたを意識させるためかしら。あなたが嬉しいと思うことは分かるから、それを私は意識させているだけ」
「……それが嬉しいんだけどな」
「ふふっ、なら良かったわ♪」
ニコッと微笑んだ有栖の微笑みを、もう少し近くで見たいと思った。
有栖の背へと腕を回し、そのままグッとこちら側に抱き寄せれば、有栖は一切の抵抗をせずに懐へと収まった。
「あら……」
「な、なんだよ」
「……こんなこともするのね?」
「嫌だった……か?」
「嫌じゃないわ……ただ少し、照れてるだけ」
有栖は顔を伏せ、照れた表情を隠す。
おい、さっきまで全然余裕そうだったのになんでいきなりそんな照れるんだ……!
やはり俺からすれば有栖はどんな状況においても余裕を崩さないため、こういう部分を見せられるとドキッとするし、素直に照れてると口にするのも凄く可愛く思えてしまう。
「彰人さんは……」
「なんだ?」
「私のこと……好き?」
「そりゃ……好きだろ。好きになっちまってるというか……もう有栖が居ないのは考えられないしな」
「そう……ふふっ♪ 私も同じよ」
あまりにも呆気ない気持ちの確認だが、俺たちはこれで良いんだろう。
そもそも婚約者として離れられない立場でもあるのと、今までのやり取りを経た後では……そりゃあ離れられるわけもない。
(今更でもないが……これで完全に物語は変わったな)
まだ顔を見ていない主人公はどうするんだろうか……そんな風に考えていると、頬を膨らませた有栖が人差し指で頬を突いてきた。
「他の人のことを考えてたでしょ」
「少なくとも女じゃないが」
「それでもよ。今は私のことだけを考えなさい……私だけを見て」
「……分かった」
有栖には俺が冷静に見えるだろうか。
だが彼女にそう見えたのは別に良いけど、俺の内心はあまりにも騒がしく荒れ狂っている。
だってあの有栖とこんな形とはいえ、気持ちが通ったからだ。
今までのやり取りに嬉しさは確かにあったが、今まで以上に心が満たされているのは確かだ。
「本当に可愛いんだから彰人さんは」
「……その、可愛いっての止めない?」
「止めないわ。だってあなたの照れる顔、好きなんだもの」
なんだ……なんなんだこの空気!
これ以上ないほどのラブコメ空間というか、こんな美人な婚約者とこんな風になっちゃって良いのかよ!?
そう声を大にして叫びたいほどに、俺は今……有栖との甘々空間を満喫しているぅ!!
「俺と有栖は婚約者……だもんな」
「えぇ」
「その……いや、止めとく」
「あら、言ってみなさいよ」
俺が口にしそうになったのは……言ってしまえば願望だ。
前世でもこういう経験があまりなかったからこその願望であり、有栖っていう婚約者が居るからこそしてみたいこと。
ジッと見つめる有栖からは逃げられないと思い、それを口にした。
「キス……したいとか思ったというか」
「っ……」
キスの言葉に、有栖は一気に頬を真っ赤にした。
「お、おい……いつも余裕ぶってるだろ。なんでこんな時に限ってそんな分かりやすく照れるんだよ!」
「し、仕方ないでしょ!? 確かに西条家の令嬢として培った度胸はあるし、何なら冷酷な面も持ち合わせていると自負してるわ……でも仕方ないじゃない……っ! 好きな人から……あなたからキスしたいなんて言われたら嬉しくてどうにかなりそうなんだもの……っ!」
天音を起こさないように、出来るだけ小声でやり取りをする俺たちだ。
もはや俺と有栖の間に互いの立場や、今まで必死に取り繕ってきた強さなんてものはなく、キスの二文字に慌てふためく初々しい二人でしかなかった。
「私も……したいわ。眠っているあなたに気付かれないようキスするよりも……じゃなくて、コホンッ!」
「おい」
それは……まあこの際は良いや。
有栖はどうやら自分からするよりもされる方が好きらしく、顔を真っ赤にした状態で目を閉じた。
いつでも来いと言わんばかりに、有栖は無防備な状態を俺に見せる。
「……それじゃあ、行くぞ」
「……えぇ」
俺も覚悟を決め、美しい婚約者へと顔を近付けた。
キスの瞬間は一瞬だったが、唇同士が触れ合っている時間は永劫のようにも思えるほど長く、俺も有栖も顔を離した後はしばらくボーッとしていたが、また顔を近付けてキスをして……それを四回ほど繰り返した後、有栖は耐え切れなかったのかバサッと布団を被った。
「……俺の勝ちだ」
「勝ち負けとかじゃないでしょ……っ! でも凄く嬉しいわ……凄く心が満たされてるの……っ」
「それは俺もだな……その、ありがとう有栖」
「ううん……私の方こそありがとう彰人さん」
布団を被ったまま、出てこない有栖から視線を外して天井を眺めた。
軽く熱でも出たんじゃないかとさえ思えるほどに顔が熱いが、そんな中で俺が考えるのはこれだった。
(なんやこの甘酸っぱさ……体中が痒すぎる!?)
ちなみに、天音はずっと寝ていた……有栖のように実は起きていたとかそういうことはなく、ニヤニヤしながら良い夢でも見ているかのようにずっと寝ていたのだった。
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