見つけた

 ローラン家に招かれ、美しい花々に囲まれた中でのお茶会は特に問題が起こることもなく、会話も途切れずに時間だけが過ぎていく。


「なんつうか」


 ボソッとそう声を出せば、有栖たちの視線が俺に向いた。


「こんな場所だけど、以前に学食で飯を食った時と変わらないな」

「まあ、確かにそうね」

「あ、私も思ってた」

「うん」


 そう思えたのも気が楽になっている証拠だろう。

 これがもしも後二週間くらい早く経験することになっていたら、間違いなくガチガチになっていたはずだ。

 だが、ここで俺は少し問題に瀕していた。

 というのも少しばかりお腹の調子が悪いというか……この場合、どんな言葉を口にしてこの美少女が集まる花園から脱出すれば良い?


「いや……普通に言えば良いか」


 思い立ったらすぐに行動!

 ということで、俺は彰人としてのポーカーフェイスと崩すことなく口を開いた。


「緊張が和らいできたみたいでな……すまないが、お手洗いの方に」

「あ、うん」

「私が連れてくよ」


 ソフィアが連れて行ってくれるらしい。

 ちなみに有栖はたったこれだけの言葉から、俺の苦悩を読み取ったらしくクスクスと笑っている。

 フィリアが首を傾げていると、有栖はこう言った。


「彼、本当に分かりやすいのよ。でもそこが可愛くてね」

「分かりやすい……流石婚約者だね」


 そんな声を背に、一旦屋敷の中へと向かった。

 ソフィアに連れられて歩く屋敷の中は、以前のパーティに時には近付かなかった完全なプライベートエリアであり、生活感と重厚感があるのはもちろん、使用人の姿も色々な所に目にする。


「そこがお手洗い」

「サンキュー」


 腹がキリキリ痛んだが、軽やかな動作でトイレへと入った。

 そうして五分ほどゆっくりした後、トイレから出たら壁に背中を預けるソフィアがまだ残っていた。


(……いや待ってるんかい!!)


 一度歩けば道は覚えるので、彼女が居なくても大丈夫だった。

 ただまあ一応他人の家でもあるので、こうして待っているのも別におかしな話ではないのか……五分も待たせたとなると、流石に察せられてそうで恥ずかしくなるが。


「ごめん、待たせたな」

「ううん、お腹は大丈夫?」

「……………」


 返事は頷くだけにしておいた。

 それから再びソフィアと共に有栖たちの元へ戻ろうとするも、途中で彼女は振り向き足を止めた。


「彰人君、今日はありがとう」


 突然のお礼に、俺は目を丸くしながらもこちらこそと返す。


「こうして誘ってくれなければこんな時間も無かった。紅茶もお菓子も絶品だし、何より有栖と一緒に楽しい時間をすごさせてもらっている。お礼を言うのはこちらだろう? 誘ってくれてありがとうって」

「それはそうなんだけど、でもこうしてあなたたちが来てくれたから私もフィリアも楽しんでる……だからありがとう」

「……これ、ずっとどっちかがいやいやこちらがってなりそうだからこの辺にしておくか」

「ふふっ、そうだね」


 ニコッとソフィアは笑い、ぴょんとジャンプをするようにこちらへと近付き、その綺麗な瞳を俺を映す。

 今日のソフィアは白いワンピース姿ということで、美しい金髪も相まってとにかく清楚というか、それこそ何かしらの物語に出てくる正統派系ヒロインに見えてしまう。

 まあ一応ヤンカノにおけるヒロインではあるのだが、やはり彼女もまた有栖に引けを取らないほどの美人なんだと再認識した。


「どうした?」

「ううん、ねえ彰人君」

「うん?」

「見てよ」


 彼女はそう言って周りを見渡した。

 ここに来るまでに見ていた景色は何も変わらないが、ソフィアの視線が向く先は立派な屋敷の内装と、その中で生きる多くの使用人たち。


「ある意味、これは全部彰人君が守ってくれたようなものだよ」


 そんなことはないと……そう言いたかったが、ある意味間違ってないのかもしれないと思うと感慨深い。

 あの時、俺が忠告をしなかったらどうなっていたか……まあ俺が予期した通りにならない可能性もあったけど、それでもこうしてここに居る人たちが笑顔であるならば、それは胸を張って喜んで良いだろう。


「これに関してもどっちがって続きそうだ。俺はソフィアに話しただけだし、実際にそこから運命を変えたのはソフィアの頑張りだから」

「そうだね……でも本当に感謝してる」


 そうして浮かべられたソフィアの笑顔……これも守ることが出来たんだなと嬉しくなる。

 そんな時、俺は周りをチラッと確認してから口を開いた。


「ところで……あれからフィリアは何も?」

「うん、何も言ってこないよ」

「そうか……ふぅ」

「あははっ、凄く安心した顔」

「そりゃするでしょ」


 これで運命の人とか詰められることもないし、もう疑われてないって解釈で良いんだもんな? そう考えると気が楽になる……これに関しては運命の人どうこうの話よりも、単純になんでそれを俺が知っていたのかってことになると面倒だからだな。


『家族はみんなバラバラになった……それからも私たちは多くの悪意に晒された……どうして私たちがこんな目に遭わないといけないの? 私たちが何をしたって言うの? ふざけないで……あなたの何も苦労を知らないそんな目で私を見るな! 不愉快……不愉快不愉快不愉快!!』


 脳裏に過ったのは、漫画でも見たしアニメでも見たワンシーンだ。

 何度か言っているが本編のソフィアとフィリアは、最初はとにかく暗かった……それで気にかける主人公に対しても最初は冷たかった。

 まあその反動が姉妹で囲い込むヤンデレ気質に拍車をかけるんだけど、主人公には申し訳ないけどそうならなかったのは良かった。


「彰人君は、不思議だね」

「え?」

「こうして喋ってるとそう思うことが良くある……あなたはどこか、私たちと違う気がする。それが何かは分からないけれど、何となく……そんな気がするの」


 そう言ってソフィアは笑い、こう言葉を続けた。


「あなたと話をするのは楽しい……純粋に楽しいの。だからこれからもあなたとは友人として仲良くしたい……どうかな?」

「もちろんだ。それは俺も願ってもない」

「うん、ありがとう」


 友人として……か。

 別に残念に思っているわけではないが、ローラン家の息女でもあるソフィアと仲良くすることは未来にとってもきっとメリットになる。

 俺たちの仲が良ければ家同士の繋がりも出来てくるだろうし、これは正しく将来に対する投資ってやつだな。


「……最近、家のことも結構考えるようになってさ」

「うん」

「それでやれるだけ頑張ってみようって思うようになった。ソフィアに語ったように、まだまだ家や色々な物が重いとは感じてる。でも周りには頼れる人が多い……そんな環境に居ると卑屈じゃ居られなくてな」

「良いことだと思う。決められているレールを歩くことは煩わしさを伴うのは確か……でも私たちはその家に産まれたからこその意義がある。それを楽しいと、頑張ろうって思えたのならそれは素敵なことだよ」

「そうだな……その通りだ」


 ということはつまり、ソフィアにもそういう考えがあるということだ。

 既に友人であるという認識ではあったが、このやり取りを経て更に絆を深めたように思えてならない。

 そのことに満足していると、ソフィアがこんなことを言った。


「そういえば、私たちのこと呼び捨てになってるね?」

「え? ……あ」


 そこで俺はハッとした。

 ずっと内心で彼女たちのことは呼び捨てだったので、それを自然と外にも出してしまったようだ。

 ただソフィアは不快な様子は見せなかった。


「別に、呼び捨てでも構わないよ。その方が親しみを感じるから」

「良いのか?」

「うん」

「じゃあ……ソフィアって呼ぶよ」

「お願い。フィリアも別に良いと思うけど、一応聞いてみようかな」


 フィリアもか……ま、大丈夫だろう。

 結構話し込んだせいで有栖たちを待たせているとして、すぐに俺たちは戻ろうとするが、またソフィアが足を止めた。


「これで、傍に居る口実は出来たね」

「なんか言ったか?」

「何でもないよ。それじゃあ戻ろうか」

「おう」


 そうして有栖たちの元に戻ると、我慢出来なかったらしくローラン家の当主とその奥さんが居た。

 つまりソフィアとフィリアの両親になる二人だ。

 自分たちの娘と有栖が仲良くしていることは喜ばしいらしく、これからの展望を見据えてワクワクしている様子だった。


「十六夜家の! 娘たちが仲良くしていると聞いて話がしたかったんだ」

「は、はぁ……」

「中々見所のある子ね。流石、有栖さんの婚約者かしら?」

「一つ二つ所ではありませんよ。私の婚約者の見所は」


 そして何故か、俺まで気に入られてしまったらしい。

 家のことを考えればこれもプラスだなと思う反面、全てが良い方向へ動き始めてちょっと怖いくらいだ。

 その後、フィリアと入れ替わるようにソフィアが有栖と話を始め、フィリアが俺の傍に立つ。


「ちょっと長かった? もしかしてそういうこと?」

「レディがあまりそういうことを聞かない方が良いと思うが」

「ごめん」

「別に良いけどさ」


 隣に立つフィリアもまた、ソフィアとそこまで変わらない姿をしているので、何故か分かるけどやっぱり凄まじいまで似ている。

 そんな彼女がジッと俺を見上げ、何でもない様子で言葉を続けた。


「ソフィアって可愛いでしょ?」

「え? あぁうん……それは思うが」

「でも、ちょっと抜けてる所があるんだよね」

「それも可愛げがあるってことじゃないか?」

「まあね。でもそのおかげで私、見つけられたの」

「見つけた?」


 ニコッと笑ったフィリアは、耳の位置を隠す金色の髪を持ち上げた。


「……それは」

「うふふっ♪」


 フィリアの耳には、無線イヤホンのようなものが嵌められている。

 それが何であるかを聞くよりも早く、フィリアの表情が段々と恍惚とした物へと変化し、その美しい瞳で俺を捉えた。




「見つけた――私の運命の人」

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