なにもかもやってみるっ!
お前に初耳なだけだ
「ただいまー」
と帰ると、ダイニングに居た和歩が、どうした、という顔で見る。
余程、よろめいていたのだろう。
「ボルダリングに行ってきた」
と言うと、
「二度とやらないんじゃなかったのか」
と言う。
瑠可は、荷物を空いている席に投げながら、
「そのつもりだったんだけど。
やっぱり、上まで登ってみたいと思って」
と答えて、和歩の向かいの椅子を引いた。
どっかりと腰を下ろすと、そのまま、テーブルに倒れ込む。
「綾子さんとお茶してきた」
「西島さんと?」
この人、いつまで西島さんって呼ぶ気だろうな、と思いながら聞いていた。
「そう。
楽しかった」
すると、和歩は少し笑い、
「お前と西島さんは気が合うかもしれないな」
と言い出す。
なんで? と顔を上げると、
「正反対だから。
彼女は流されない人、お前は流される人だからだ」
と言う。
「それ、佐野先輩のこと言ってる?」
「お前が佐野を好きなら、別にいい」
真正面から、和歩にそう言われ、考えてみた。
「……嫌いじゃないかも。
でも、好きかと問われたら、わからない。
佐野先輩は、一番好きな相手とは一緒にならない方が幸せになれるって言うんだけど」
「じゃあ、佐野はお前と結婚できないな」
「なんで?」
「佐野は昔から、お前が一番好きだったろう」
「初耳ですが」
「お前に初耳なだけだ。
みんな知ってる」
そう言われて、思い当たった。
「あー、そんな関わりもないのに、なんか私に厳しい女の先輩が居ると思ったら、あれ、佐野先輩が好きな人だったのかーっ!」
そんな噂が流れていたから、自分に対して攻撃的だったのだと今、気づいた。
「鈍いな。
だが、佐野のせいで迷惑を被っていいたのなら、あいつにちゃんと言っておけ」
「それ、佐野先輩に文句言ってもねえ。
ああ、でも、じゃあ、ありがとう」
と言うと、なにがだ、と言う。
「おにいちゃんが兄だってことで、私のご機嫌とってくれる女の人たちも結構居たよ」
そうか、そりゃよかったな、と適当な返事をして、和歩は立ち上がる。
「今度、綾子さんと、ボルダリングに行くよ。
そういえば、私の方がおにいちゃんより、綾子さんと会ってない?」
「そうだな。
電話でしか話さないからな」
よくわからないカップルだ。
「ねえ、綾子さんが、いつか私は綾子さんを嫌いになるって言ってたんだけど」
和歩は少し考える風な仕草をする。
「お前がそれで、あの人を嫌いになるかどうかはわからないな」
そう言う和歩には、綾子の言葉の真意がわかっているようだった。
おやすみ、と行こうとする和歩を呼び止める。
「待って。
おにいちゃん、パスポートとった?」
「パスポート?」
「海外挙式って聞いたけど」
「ああ。
一応、そのつもりだが、まだ、時間あるだろう?」
「私と佐野先輩は木曜に取りに行くけど。
おにいちゃんも一緒に行かない?」
「……行かない」
あ、そう。
「暇だったらな」
そう言い換え、和歩は部屋へと上がって行ってしまった。
なんだかなあ、もう。
素っ気ないんだから。
瑠可は再び、テーブルに突っ伏し、目を閉じる。
もうすぐ出ていっちゃうのに。
少しはゆっくり話してくれてもいいのに。
そんなことを考えて、ナーバスになっていたせいか。
汗を掻いたままだったせいか。
結局、風邪をひいてしまった。
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