残酷なことをするなよ
三人でカウンターで並んで呑んだ。
岡田はあまりしゃべらない男のようだったが、一真がうまく話を振ったり盛り上げたりするので、それなりに話は出来た。
人となりもなんとなくわかった。
控えめに微笑んでいる感じで、如何にも人が良さそうだった。
店を出ると、
「じゃあ、今日はどうもありがとうございました」
と深々と頭を下げ、岡田は去っていった。
通りを曲がりながらも、まだ頭を下げている。
笑って手を振りながら、一真が訊いてきた。
「どうだった?」
「だ、駄目です」
と言うと、言うと思った、と言う。
「なんでですか?」
「お前の好みじゃないと思ったからだ」
「好みじゃないと思ったのなら、なんで連れてきたんですか?」
と言うと、莫迦、と一真は言う。
「お前の書いた条件通りだったろうが」
ま、そうなんですが、と思っていると、
「お前の条件にぴったりの奴の中で、あいつが一番いい奴だから、連れてきたんだ」
そんなことを一真は言い出す。
「あ、ありがとうございます」
なんだ。
一応、真剣に考えてくれていたのかと感謝した。
振っていた手を下ろした一真は溜息をつき、
「もう一件行くか」
と訊いてきた。
その後、瑠可は近くのショットバーに連れて行かれたのだが、連れてきておいて、一真は、
「お前とこんなところに来るのは妙だな」
と言い出す。
「なんでですか」
「そもそも、お前が酒を呑むこと自体がおかしい」
とグラスを見つめたまま言う。
「いや、なんでですか」
と瑠可は繰り返し訊いてみた。
「俺の頭の中のお前は、酒など呑まないはずなんだが」
「それ、高校生だったからですよね」
この人の中では自分は子どものときのまま、止まってるんだな、と瑠可は思った。
「それはともかく、お前、残酷なことするなよ」
二杯目を呑みながら、一真は急にそんなことを言い出した。
「岡田は結構、お前が気に入ったようだったぞ。
最初から誰とも付き合う気がないのなら、訳のわからん条件出して、会ってみたりするなよ」
「……付き合う気がないことないですよ。
結婚する気はあるんですから」
「結婚する気はあっても、付き合う気はないだろう。
和歩と一緒だ」
と言われる。
「……知ってたんですか」
「俺の情報網を舐めるなよ」
と言われたが、いや、結構みんな知ってるし、と思う。
それだけ、和歩の結婚話にみんな驚いた、ということだろう。
「ともかく、もうこれで気が済んだろう。
何人紹介しても、お前は、誰もオッケーしない。
式場もキャンセルしろ」
と言い出す。
「会ってみなけりゃわからないじゃないですか」
ちょっと負けん気を出して言い返してみたが、いいや、と一真は突っぱねる。
「お前は誰とも付き合わないね」
その根拠のありそうな言い切りが怖い、と思っていると、
「高校のときも誰とも付き合わなかっただろう」
と言い出した。
「誰とも付き合わなかったって。
いや、そりゃ、誰もなにも言ってこなかったからですよ」
「当たり前だろ。
いつも和歩が側にひっついてて、誰が声をかけてくるんだ。
あんな兄貴と比べられるのかと思うと、嫌だろ、誰だって」
「そうですかねー。
私は……おにいちゃんは、人が言うほど、立派な人だとは思っていませんが。
確かに隙はないけど、かなり駄目な人なような気が」
「俺もあいつは根性なしの煮え切らない駄目人間だと思ってるよ」
と一真は言い出す。
「だから、友だちやってられたんだ。
ところで、和歩はお前が結婚式場予約したこと、知ってるのか」
「知るわけないじゃないですか。
知ってるのは、先輩と、麻美先輩だけです」
「麻美は知ってんのか」
笑ったろう、と言われ、
「笑われたあとで、奢られました」
なんだか奢りたい気分だと言って、と言うと、一真は、ふうん、と言う。
「あいつも犠牲者なのにな」
と言い出す。
なんの犠牲だ、と思った。
「あー、気が重いな。
岡田に断りの電話入れなきゃな」
「こっちが断らなくても、向こうが断ってきますよ、きっと」
と言うと、横目に見られる。
なんだか睨まれている。
「あのー、とりあえず、此処は奢ります」
と言ったら、
「そうだな」
と言ったが、結局、奢ってくれた。
「今日はすみませんでした。
あのー、今度、私がなにか奢ります」
「わかった。
じゃあ、次は男を紹介するの、なしでな。
俺は月曜が暇だ」
「わかりました。
じゃあ、月曜に」
そのときにはもう、和歩の奥さんになる人を見ているな、と思いながら、頭を下げた。
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