あなたと帰ろう。あなたに帰ろう。

舟津 湊

Ⅰ.帰りは牛で、ゆっくりと

私たちが住んでいた部屋に帰ってきたけど、

ただいま、なんて言えなかった。


何も考えずに、

彼が用意してくれたキュウリに乗ってしまったけれど、

やっぱ、だめだよね。


騙されて、彼を裏切って、

私は命を落とした。


愚か。

罰があたっただけ。

そうなって当然だった。


私は、マンションのドアの前で

キュウリに跨ったまま、泣く。


涙が枯れ、もうこのまま帰ろう、

そう決心した時。


ドアが開いた。

サンダルをつっかけて彼が出てくる。


そして穏やかに微笑む。

あの頃と、何も変わっていない。


おかえり。

よく帰ってきてくれたね。


私は下を向き、顔を手で覆いながら、なんとか声を絞りだす。


ただいま。

・・・そしてごめんね。


さあ、入んなよ。


彼は、とことん優しかった。

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