聖魔(現地人)
かわくや
運命
「ギャア!ギャア!」
「っ!構えろ!」
僅かな木漏れ日だけが辺りを照らす森の中。
本来なら静かだったであろう森の中で、二つの勢力が争っていた。
一つは、黄色い瞳に緑の肌を持った生物。
そう、いわゆる
本来なら数と個体差による連携を武器とする生物だが、残念ながら、その分野においてはもう一つの勢力に軍配が上がる。
「アランは目を引け!」
「おう!」
「シィマーは隙を見て射手!」
「……」
「その他は俺と一盾構えながら圧掛けだ!行くぞ!」
「あいさ!」「はーい」
その種族と言うのはもちろんそう、人間だった。
戦い方としては小鬼とそう大差はないが、人間には自分の中の野生を封じる知性と、協調性がある。
野生動物より弱いながらも、今まで生き残ってきた人間の歴史は伊達では無いのだ。
まるでその事実を裏付けるように、
「よーい、しょ」
「ギュピッ!」
大盾の影から伸びた槍が近づいてきた小鬼の喉を突いた。
「ギャッ!ギャッ!」
「ギ」
それに動揺する様子を見せた弓を持つ小鬼の脳天に今度は矢が音を立てて突き刺さる。
そうなった後は早かった。
不意に飛んで来る毒の塗られた矢を気にする必要がなくなった人間達は小鬼達に襲い掛かり、瞬く間に敵を蹴散らしたのだ。
「よしっ!ごくろうさん!」
そうして出来た骸の山の脇に立ってそう言う人間。
その言葉を合図に、仲間は、各々自分の仕事へと取り掛かっていった。
斥候は辺りに注意を払い
補助は小鬼の耳を削ぎ
残り4人は次なる戦いへと準備をする。
そう。これがこの世界においての人間の姿だった。
スキルなんて便利な権能も無く、魔法なんて超常的な力も無い。
悪魔と魔物が跋扈するこの世において、それでも生き残っていられるのは、ひとえに堅実に立ち回ってきた彼等の団結力の賜物だろう。
……そう。逆に言えば、彼らはそんな日々を延々と送ってきた。
悪魔と魔物の被害をしょうがないと受け入れ、日々突き付けられる現実を噛みしめる日々を。
だというのなら仮に、だ。
仮に、
「……リーダー。少し来てくれ」
現状を打破しうる力を手に入れた時、彼らは一体どうするのだろうか。
「これは……」
斥候に呼ばれて近づいた男は声を失った。
小鬼達が居たすぐ後ろの木。
ぽっかり空いた洞の中には、すぅすぅと寝息を立てる赤ん坊がいたのだ。
その赤ん坊の周囲には、赤ん坊が布の上に寝かされていることや、椀に入った液体に浸された布も見て取れる。
どうやら先ほどの小鬼達がこの子の世話をしていたらしい。
見た目から小鬼の血が混じっているということはなさそうだが、
「……どうする?」
その事実にいぶかしむ男に向け、斥候はナイフを持ち上げ、鈍く光らせた。
この世界において、こうした半端者に居場所はない。
種族を超えて生まれる赤子なぞそもそもが珍しいが故、孤立しやすく、遺伝的にも相性が悪いのか、その子は大概が弱く産まれてくるのだ。
こんな世界に生まれ落ちた所で、苦しんで死へと歩いて行くのがせいぜいだろう。
だから物心がつく前に……と、斥候の言いたいことも男は理解はしていた。
だが、
「俺が育てよう」
先ほどまで仲間に指示を飛ばしていた男はそう言い切った。
「正気か?」
それに静かにそう尋ねる斥候。
「あぁ。お前も殺したいわけじゃないだろう」
「……」
その質問に答える様に斥候はナイフを下ろす。
その下がった手と入れ替わる様に男は赤ん坊を腕に抱いた。
そうして語り掛ける。
「……お前はどうやって生まれてきた。望まれてか?望まれずか?これまでについては分からんが、これからについては安心しろ。これからは何が有っても俺がお前の傍にいる。俺がお前の父となろう」
これが、男の。コプルサック・ハイターの。
ひいては世界の運命が始まった瞬間だった。
聖魔(現地人) かわくや @kawakuya
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