7.記憶の中で
それからしばらく、ルーカスは出張に出ると言って、家を空けた。その間に屋敷で噂
話を漏れ聞いた。
「ポリシア北部での抵抗勢力が少し勢いを増してきているらしい」
「前線に近いところに政府の役人たちも送り込まれてるらしいぞ」
「せっかく戦争が終わったと思ったのにな」
「まあ、とはいえ、その抵抗している勢力も結果的には壊滅させられるさ。なんたって、軍事力が違うって話じゃないか」
男たちが数人、嘲笑とともに話を終え持ち場の仕事に戻っていった。
その数日後のことであった。アイリスはいつものように買い物をいいつけられていた。
この国では常に新鮮な野菜や果物が手に入った。
それがどんなにありがたいことか、アイリスは食糧難にあえぐ日々を思い出していた。
それでも、信仰の自由、学べることや働くことが自由に選択できる場所がどんなに尊いことだったか。
食料にも困らず、豊かな生活ができるところで、それでも何一つ自由がない生活は幸せではない。アイリスはそう強く思い買い物へ向かった。
食糧難は定期的にポリシアを襲っていた。ただ、ここ数十年は技術の進歩で、保存食や寒さに強い食物の品種の開発が進み、昔のように飢饉は起こっていなかった。
それでも、寒さや食糧を恐れる時、人々は神に祈った。
今年の冬もまた厳しそうだ。そんなやりとりが聞かれるようになった数年前の初冬。
ポリシアにある大小の神殿には今日も人々が祈りを捧げに拝殿していた。
中でも、最大級の神殿は首都ダージャ・ランツの北西側に位置していた。
アンデとポリシアはその長い歴史の中で何度か小競り合いがあった。併合のような大きな侵略はなかったが、互いに常に警戒しており、最後の小競り合いが起こった五十年前から以降、正式な国交も樹立されていなかった。
そのため、ポリシアの南部、即ちアンデの北部側、両国の国境地帯はお互いの防衛地帯とされていた。
北部は寒さが厳しかったが、その分もしも戦争になった時には、冬になれば敵が越冬する備えを心配し撤退。ポリシアが優位になるのではないか、と考えられていた。その為にも、首都は気候が比較的温暖で、作物も豊かな南部ではなく、北部に造られたと言われていた。
首都にには政治の中枢機関はもちろん、大学、病院、宗教施設など主要なものが揃っており、人口も集中していた。
アイリスの父親は宗教省のトップであり、省として政治への参加も多く行われていた。
そんな父親の背中を見て育ったアイリスは、宗教と政治の不思議な関係を子どもの頃から感じて育った。
宗教の信仰心は俗世的ではないのに、政治になると途端に血生臭い。
清らかな宗教の世界と政治の世界は相反するように見えた。
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