第6話 広瀬さんを助けたい
駅まで走っていたら、公園のベンチのあたりで男に声をかけられている広瀬さんの姿が目に入った。
僕が見る限り広瀬さんは困っているように見えるけど……、僕の気のせいかもしれない。
けれどもしも広瀬さんが困っているのだとしたら、この場でなんとかできるのは僕だけだ。僕の気のせいだったのなら、僕が恥をかけばそれでいい。
そう思って、話しかけることにした。
「広瀬さん? まだこんなところにいたんだ」
「え!? あ、吉沢君!! そ、そうなんです」
その時の広瀬さんの目が、僕に助けを求めているように感じた。けれど話しかけてきているのはどうやら店の常連さんのようで。
「愛月ちゃん、誰? この男。まさか愛月ちゃんの彼氏じゃないよね?」
僕を怪訝そうに見つめる。
「あ、僕、あの店のキッチンスタッフなんですよ。お店の常連さんですよね。いつもありがとうございます」
「ふーん、そうなんだ。いや、僕、あの店の常連じゃん? そろそろ愛月ちゃんと仲良くなりたいなーと思って。連絡先聞いてたところなんだよ」
会話から、広瀬さんは連絡先を答えたくなくて困っていたのだと推測する。けれどそうじゃない可能性もある。それにこの場は出来るだけ穏便に済ませたい。
「そうなんですね。でも広瀬さん、彼氏いませんでしたっけ。他の男の人に連絡先教えちゃったら、彼氏さん嫉妬しちゃいません?」
すると広瀬さんは、ハッとするような顔をして話を合わせてきた。
「あ、そ、そうなんですー。それに私、ラインとかあんまり返さないタイプでっ。ごめんなさいっ」
「あ、広瀬さん、急がないと電車乗り遅れますよ。ほら、急ぎましょう!! ……そんなわけで、常連さん、失礼させてもらいますね。では!」
そうして、僕は広瀬さんとその場を足早に立ち去った。
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