第3話 私はもっと吉沢君と仲良くなりたいのにな
家に帰ってから、僕のスマホに登録された広瀬さんのラインのアイコンを見つめる。
(夢じゃないよな? 僕、本当に広瀬さんと連絡先の交換したんだよな?)
そう思いつつ、僕の方からメッセージを送る勇気なんてあるはずもなく。
(交換した時の話の流れ……まるで僕の事を好きみたいに感じたけど……)
つい、そんなことを思い出す。頭の半分ではそんなことあるはずがないと思いつつ、もう半分では、もしもそうなら広瀬さんから何かメッセージをくれるんじゃないかと期待してしまう。
だから僕からは何も送らずその日を過した。
――けれどその日、広瀬さんからメッセージが来ることはなかった。
◆◇
「きゃああああああ。吉沢君と一緒に帰って、ラインまで聞いちゃった!!」
吉沢君のラインのアイコンを眺めながら、私はにやにやとしてしまう口元を抑えられずにいた。
(ああ、『吉沢聡真』って名前だけでもかっこいいのに、あのクールな目元にミステリアスな表情、かっこよすぎるよおおおお)
内心悶えながら、私はベッドの上でスマホを抱きしめてゴロゴロと転がる。
誰かにこんな気持ちになるの、はじめてだ。
自分で言うのもなんだけど、私はなぜか男の子からモテるみたい。
学校でもバイト先でも、男の子からはいつもじろじろ見られるし、明らかに下心見え見えで優しくされたり、話し掛けられたりする。
だから表面上は明るく振舞いつつも、内心ではいつの間にか男の子といることに居心地の悪さを感じるようになっていた。
けれど吉沢君は違う。いつもクールな表情で無駄に話し掛けて来ることもなく、あからさまな優しさを見せつけて来ることもなく。けれど必要な事はちゃんと話してくれるし、ここぞという時は助けてくれる。
そんな吉沢君と一緒にいるうちに、いつしか私は吉沢君といることに居心地の良さを感じるようになっていて、そして好きになっていた。
けれど――
『……お願い。一緒に……帰ろ?』
今日の私、必死過ぎたかなぁ?
他の男の子からは、話掛けられたり、連絡先を聞かれたり、デートに誘われたり、そんなことはしょっちゅうなのに、吉沢君からは一度もない。
だから私から行動しなきゃ何も始まらないと思ったのに。
タメで話すのすら『考えときます』だし、私から誘わなきゃ颯爽と帰ろうとするし、私と帰ってくれたのだって……『こんな時間に女の子一人で帰るのは危ない』からだもんなぁ……。
他の男の子からは明らかな好意を向けられるのに、吉沢君からは微塵もそんな事がなくて。だから好きになったのに、やっぱり悲しくなってしまう。
もしかしたら吉沢君は好きな人がいるのかなと聞いてみたけど……他に好きな人がいないことに安堵しつつ、私の事もやっぱりなんとも思っていないんだなあとちょっと悲しくなったりもして。
けれどあの流れ……。『あなたの事が好きです』って、言っちゃってるようなものだったかなぁ!?
これでメッセージまで送ったら、がっついてるみたいになっちゃう??
けれど何も送らなかったら何も始まらない??
……吉沢君はどんな子が好きなんだろう。
頭の中での自問自答が止まらない。
私はもっと吉沢君と仲良くなりたいのに。
吉沢君のラインのアイコンを眺めながら、その日の私は、なかなか眠る事が出来なかった。
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