最終話ペアリング、池田さん、学年順位

 店内を見て思ったのは、このお店にはペアリングが多い。誕生石付きなどから普通のリングなど様々な種類がある。

 「先輩こういうの興味あります?」

 「あまりないな。こういうお店に来るのもよく考えたら初めてかもしれない」

 「かわいそうですね…」

 「うるせっ(笑)」

 前の私からしたら、こうやって誰かと笑いながら二人っきりで話すなんてできたしなかったな。あの時利香ちゃんが後ろの席に呼んでくれて本当に良かった。

 そう思いながらペアリングを見て不意に思った。あ、そうだ先輩にお礼しよう。

 「先輩誕生日いつですか?」

 「ん、十一月八日だけど」

 「えっ、私と誕生月じなんですね」

 「えっと十一月だから…。トパーズとシトリンですって誕生石」

 「確かトパーズは、誠実という石言葉を持ち、勇気を持って未来に進む為のサポートをする石と言われていて。シトリンは、太陽のような黄金色の輝きで、古くから幸運や金運の象徴として人々に愛されてきた、だったっけ」

 「先輩物知りですね。何なら怖い」

 「いや、普通にそこの壁に書いてあるよ」

 「あれホントだ。これが上の方過ぎて目につかなかったんですよ!」

 「あぁ仕方がないか…」

 「なんで哀れな目で見てくるんですか!」

 先輩は、目をそらしてきたから、肩を私のない力で殴っておいた。

 「もう、せっかくシトリンのリング買ってあげようと思ったのに…」

 「いいのかい?」

 「仕方ないですね、さっきのお返しです。ということで先輩は、ベンチに座っておいてください」

 私は、先輩の背中を押してベンチに座らせた。どのリングにしようか見ていると目を引くものを見つけた。赤色と黄色のペアリングだった。それを見て一発でこれにしようと決めてレジにもっていった。

 「オプションはどうしますか?」

 「どっちにもシトリンを付けてください」

 「かしこまりました。リングの内側にイニシャルを掘ることができますがそちらは」

 「えっと、I とT でお願いします」

 「ありがとうございます。少々お待ちください」

 私は、「はい」と答えてレジ横で少し待つことにした。待っている間に他の誕生石も見てみた。笑梨ちゃんの誕生日は四月二十二日だから、ダイヤモンド。龍太郎君六月二十八日でパール、利香ちゃんが九月十三日、サファイア。栞ちゃんは、十一月十一日で私たちと一緒。治君が五月二十六日、エメラルド。

  五分ぐらいしてから、紙袋に入ったリングを受け取って先輩のもとに戻った。戻った時に先輩は、英単語帳を開いて勉強をしていた。

 「少し待たせすぎましたか?」

 「いや、英単語十三個分だから全然待っていないかな」

 「それどういう考え方なんですか(笑)。それとこれ、ペアリングです。シトリンを付けてもらって内側にイニシャルが掘ってあります」

 「結構値段したんじゃない?。」

 「いやさっきのご飯代とどっこいどっこいでした」

 「そうならいいんだけど…。って何で黄色?」

 「だって笑梨ちゃんがオレンジ、龍太郎君が紫、治君が青、利香ちゃんが水色、栞ちゃんが緑、先輩が黄色って感じなんですもん」

 先輩は、少し納得いっていないようだったけど私からのリングを受け取ってくれた。自分の指にはめて嬉しがってくれているようだった。

 「というか何で僕の指の大きさ知ってるの?」

 「前にみんなで手の大きさ比べてるときに指周りの話したの覚えてないんですか?」

 「そんなことがあったっけ…」

 まぁそれでも人の指の大きさを覚えてるのは、キモイなと自分でも思いながら購入したのだけど。でも、先輩とペアリングなんてすごく嬉しい。うちの学校ってアクセサリーオッケーだったっけ。

 「僕たちの代の生徒会が簡単なアクセサリーをオッケーにしておいてよかったな」

 「え!、うちの学校アクセサリーオッケーなんですか?」

 「生徒会新聞見てないのかい?。新生徒会になった時に、校則の改正をしたんだよ。うちの学校は、古かったから」

 私は、二学期からも学校につけていこっと。でも先輩もこんなこと言うってことは、つけてきてくれるのかな。

 そんな淡い期待を抱きながら、洋服屋の場所をマップで確認して歩いた。

 笑梨ちゃんの教えてくれたお店は、まあまあの大きさのお店だった。普通の洋服から水着とかまで取り扱っているらしい。あまり服に興味がない私を見かねておススメのお店を教えてくれた。

 「どんな服が欲しいんだい?。」

 「特にどんなのがってのはないですけど、笑梨ちゃんが教えてくれたんでせっかくだしだと思って…」

 外側に飾ってある服を見ていると中から女性が出てきた。

 「あなたが一花ちゃんね!」

 「は、はいそうですけど何で私の名前を…?」

 「笑梨ちゃんから聞いてたのよぉ。私より小柄の可愛い子がいるって写真見せてもらって、あなたが来るの楽しみにしてたの。早速あなたに着てほしい服があるのよこっちに来て!」

 「あ、え?」

 私は、笑梨ちゃんの知り合いの池田さんに引っ張られて奥の試着室に連れて行かれた。中に入ると池田さんから服を渡されて「着てみて!」と言われて服を広げて見てみると、あまり着ることのないような服で少し恥ずかしい。

 渋々渡された服を着て鏡を自分で見るとやっぱり恥ずかしい。スカートタイプで淡い赤色のやつだった。私あんまりスカート着ないんだけど…。

 「き、着れました」

 試着室のカーテンをシャッと開けられびっくりした。

 「まぁまぁ、物凄く似合ってるわよ。私の目に間違いはなかったわ!」

 池田さんは、私の姿をまじまじと見て感想を言っていた。感想を言われると余計に恥ずかしくなってくる。

 「早速彼氏さんにも見てもらいましょうか!」

 「彼氏では、ないんですけど。はい」

 「待ってって」と言われて、池田さんは、先輩を呼びに行った。他の店員さんも私の姿を見て「メイクしてる?」と訊かれてしていないと答えると、「ナチュラルでその可愛さってすごいよ」と褒められて少し自信がついた。

 「ほら、感想をいいてあげなさい」

 「そうだなぁ。そのスカートに合うのは、外の方に飾ってあった服がいいと思うんですが池田さんはどう思いますか?」

 「確かにそうね!。絶対に合うわっちょっと持ってくるわね」

 先輩の意見を聞いて、池田さんが服を取りに小走りで奥の方に言ってしまった。というか今のは、感想ではないんじゃないだろうか。

 池田さんが戻って来て渡された服を着るために、試着室の中に戻った。外からは、池田さんと先輩が私に合う服を話し合っているのが聞こえた。話し合ってくれていることは嬉しいのだけど、恥ずかしい。

 着替え終わりカーテンを開けると二人は、何着も服を持っていて少し引いてしまった。

 「やっぱり僕の意見が正解でしたね」

 「これ次のトレンド狙えるわね」

 「お二人とも何でそんなに服を持ってるんですか?」

 「「着てもらいたいから」」

 その後私は、人形のように二人から何着も服を着せられた。池田さんは、洋服屋の店長ということもあってトレンドに沿ったような服が多かった。先輩から渡された服は、上下のセットアップで可愛かった。

 一時間ほど経った頃だろうか、お店の店員さんが二人を止めてくれてやっと終わった。池田さんと先輩は、持ってきた服を片付けるのに時間がかかりそうだった。

 「一花ちゃんだったっけ?」

 「はい、そうです」

 「店長たち時間かかりそうだから、こっちおいで。少しメイク教えてあげるから」

 そう言われてレジの方の椅子に座ると店員さんが自分のメイクポーチを持ってきた。店員さんの声は優しくて落ち着いていた。目を閉じてと言われて少し待っていると目元に何かが当たってメイクというものを初めて感じた。

 「終わったよ…」

 「これが私ですか?」

 目の前に鏡をもった店員さんが立っていて私が映っているのに私じゃないみたいだった。メイクをしてみたのが初めてだったから、自分がこんなにも変われるんだと気づいた。

 その後店員さんの『みつは』さんは、メイクの仕方とどんなのを買えばいいのかを教えてくれた。しかも小説を読むが好きで自分でも書いているらしく、話が盛り上がっていた。

 先輩と池田さんが片付け終わるころには、私たちは友達のようになっていた。

 「ちょっと、メイクなんか教えちゃって。一花ちゃんがもっと可愛くなってるじゃないの。あ、一花ちゃん今日は、服を買っていく?」

 「あぁ、池田さんが一番最初に渡してくれた服って、笑梨ちゃんの色近いですよね?」

 「よくわっかたわね。笑梨ちゃんが買っていった後バズって色違いが出たのよ」

 「じゃああれと外の方にあった服を買います」

 池田さんは、「わかったわ!」っといって私が購入する服の準備をしてくれた。なんでか割引にしてくれると言ってくれたけどある条件があった。

 「君が一花ちゃんを見てメイクの感想を言えたらいいわよ」

 メイクの感想か…。可愛いとかが妥当だと思うけど先輩がそんなこと言うわけがないから顔を見てみると、少し戸惑っていた。

 「そうですね、可愛いです」

 「よし!それじゃあ割引しとくわね」

 お世辞かも知れないけど先輩から可愛いって言ってもらえてすごく嬉しかった。でも、恥ずかしさもあって、顔が熱く何も言えなかった。

 お店を出てからどこのいくかを考えることになって、カフェによることにした。でも私は、カフェって落ち行ける場所だと錯覚していたのかもしれない。

 「ねーえ答えてよー」

 「なーにが?」

 「私のこと本当に好きなのかって話だよ」

 「もちろんめちゃくちゃ大好きだよ」

 後ろの席のカップルが、物凄くイチャイチャが重い系のカップルだった。私は、落ち着いてもいられないと少し鬱陶しいと思った。笑梨ちゃんたちのイチャイチャは、まだ許せるけど公共の場で見せびらかすようにイチャイチャするなんて、恥ずかしくないのだろうか。

 「行きたいところがあるかい?」

 「私はもう特にないですね。先輩こそ行きたいところないんですか?」

 先輩は、下を向いて考え込んでいた。私は、後ろの席のカップルがイチャイチャしてるから、出来れば早くカフェきあら出たいのだけど。考えていることが顔に出ていたのだろうか、先輩は私の顔を見てから外を歩きながら気になったところによってみようかと言ってくれた。

  それから私たちは、ショッピングモールの中をある程度歩きまわったので他のお店が並ぶ通りに出ることにした。

 「先輩クレープとか気になりません?。私食べたいんですけど」

 「いいね、正直僕甘党なんだ」

 それを聞いて激辛に連れて行ったことを後悔した。でも先輩は、私のそんな思いをなかったことにするように普通にクレープの列に並びだした。

 十分待ちだったけどインスタで調べると、十分待ちなんて運がいいらしい。

 先輩は、十分間をまた英単語を覚えてつぶしていた。私がそんな先輩に見とれているとも知らずに。

 私たちの番になった時メニュー表を見て先輩は、チョコバナナクレープを私は、店員さん一押しを頼んだ。

 「先輩、カップル割引ですって。どうします?」

 「ん、今回だけだぞ」

 「やった!」

 私の言いたいことが伝わったようだった。お会計の時カップルか訊かれたから、普通にカップルだと噓をついた。

 食べる前になって気づいたけどクレープは、物凄く大きかった。元をどうやって取っているのだろうか。

 「私の顔より大きいですよ…」

 「君の顔が小さいんじゃないのかい?」

 「あ、可愛いって言ってます?」

 「どういう解釈をしたらそうなるの?」

 笑いながら、先輩は私のボケにツッコミを入れてくれた。元々私たちと敵対していた人とは思えない。

 私たちがクレープを食べ終えるころには時刻は、午後六時になろうとしていた。

 「そろそろ帰りますか」

 「そうだね。駅に行こうか」

 バスでもよかったのだけど、先輩の家と私の家までは、電車を使った方が早かった。駅に行くまでに三毛猫を見つけて写真を撮ったりした。

 駅のホームには、仕事帰りのサラリーマンがたくさんで大変だった。でも電車の中では、先輩が私をドア側に寄せてくれて人に押し潰されないように守ってくれた。

 「大丈夫だったかい?」

 「はい、ありがとうございました。ていうか何で私と同じ駅で降りたんですか?。先輩の最寄り駅二つ後ですよね?」

 「女の子を一人で夜に歩かせるなんて危ないからね」

 「なるほど、先輩なりの気遣いですか」

 車道側を歩いてくれている先輩は、

 「そういうこと」と言って前を歩く。私の家まであと少し、まだ帰りたくないけどな…。

 「ここです私の家。今日は、ありがとうございました」

 「あぁ僕も久しぶりに出かけれて楽しかったよ。あと一位頑張りなよ」

 先輩は、そう言って背を向けて帰っていった。

 「さっ、頑張るか!」

 自分で頬を叩いたけど力加減間違った、痛い…。


 私が夏休みのことを話し終わると、笑梨ちゃんがいきなり立ち上がった。

 「って、何でそこまできて付き合ってないの?!」

 「ちょっと笑梨ちゃん声大きいよ!」

 「「「落ち着け」」」

 一連の流れを聞いていた龍太郎君、治君、利香ちゃんが笑梨ちゃんにツッコミを入れてくれたけど周りに他のクラスメイトがいなくてよかった。こんなの知られたら、先輩を好きな人からのヘイトが向いちゃう。

 「でも本当に翼先輩もそこまでいうんだから多分一花ちゃんのこと好きでしょ。告白すれば?」

 「それじゃダメなんだろ。あの人からの条件をクリアして付き合うことに意味があるんじゃねえの」

 治君は、わかってくれている。そう、先輩が私のこと好きなんて関係ない、先輩からの条件をクリアして初めて告白をすることに意味があるのだ。治君の意見にみんな納得したみたいで「確かに」とみんな言っていた。

 「じゃあ今回のテストが決め手だね!」

 「うん!、ドキドキ」

 「一花ちゃんなら大丈夫でしょー」

 みんなが応援してくれていて、いけるような気がもっとしてきた。テスト返しが楽しみだ。うちの学校の実力テストは、主教科の国語、理科、社会、数学、英語の合計で順位がつけられる。


  実力テストが返却され始めた。

 一教科目、国語

 「一花さん、頑張ったね」

 「やった。思ったより高い!」

 国語のテストは、九十三点だった。学年でも一位で今の所は、クリアしている。

   合計九十三点現在学年一位

 

 二教科目、数学

 今までも一位を取っている教科ということもあって自信が大いにある。

 「松本ー。さすがだな、結構難しく作ったんだが…」

 よっっっし、百点!。学年一位だ、この感じならいける!。

   合計百九十三点現在学年一位


 三教科目、理科

 一番の苦手教科ということもあって、ここが山だ。理科で落ちてしまったら、後が心配になってしまう…。

 「松本ー、やっぱりイオン式が苦手だな。それ以外は、いい感じになったな」

 怖いことを言わないでほしい…。心配になりながらも点数を開く。一の桁二、十の桁…八!。前回に比べたら上がっている、理科だけなら、学年十位以内。合計では、下がってしまった。

   合計二百七十五点現在学年二位

 

 四教科目、社会

 「一花さんは、歴史上がったね」

 夏休みに先輩に教えてもらった時代が出たから、思っていたより簡単に解けた。だから九十点はあると思う。フラグにはならないでほしい。

 社会のテストは、地理三十点、歴史四十点、公民三十点で配点される。大問一の地理は、二十九点。大問二歴史は、三十五点。大問三公民は、二十七点。合計九十一点。ギリギリ目標に届いた。

   合計三百六十六点現在学年二位

 五教科目、英語

 「松本さん、英作が上手くなりましたね」

 すごくドキドキと鼓動が早くなっている。この点数で今後が決まってしまう。

 私は、一人で開くのが怖かったから、笑梨ちゃんたちの近くに行って開くことにした。

 「怖いよ~」

 「大丈夫だって、現在学年一位の坂本君が英語八十二点で合計四百五十三点だから、八十七点以上あれば学年一位だよ!」

 みんなが見守ってくれている中すごくドキドキする。一の桁から開いた、一の桁ゼロ。十の桁で人生が変わる…。十の桁…、…九。

 「やった、やったーーーー!」

 「よかったね!。学年一位!」

 「今回のイオン式僕もあんまり解けなかったから、多分みんな低くなってたんだよね」

 「私合計二百二十四点だった」

 「栞あんためっちゃ上がったね」

 「俺も英語高かったけど負けたか…」

 みんながみんな今回のテストに夏休みの成果が出たようでみんな順位が上がった。私たちの学年は、三百人いる。笑梨ちゃんが百七十五位から、百四十三位に。龍太郎君は、百三十九位から、九十三位。利香ちゃんが百五十八位から、百二十四位。治君が九十八位から、七十二位に。栞ちゃんは、二百六十六位から、百九十三位になった。ちなみに私は前回、三位だった。

 放課後になって私は、早速先輩のところに行くことにした。笑梨ちゃんに聞いたところ今日は、生徒会室で仕事をしているらしい。帰りのホームルームが終わって急いで生徒会室行った。

 生徒会室の前に立つだけでワクワクするけど、ドキドキもする。中からは、作業をしているであろう音が聞こえてもっと実感が湧く。

 先輩に報告したいけど緊張して入れない…。あれから五分ほどドアの前で固まってしまった。

 「どうしよう、どうしよう…」

 小声でつぶやいて考え込んでいると「コツっ」と音を立てて足に何かあたった。足元を見ると、底に付箋が貼ってある缶ジュースが転がっていた。付箋には、こう書いてあった。『大丈夫!、自信をもって!』それを見た時不意に笑ってしまった。こんなことをするのは、あの人たちしかいない。でも自信が持てた。ジュースをポケットに入れてドアに手をかけようとした時、ドアが開いた。

 「バレバレなんだけど、何をしているんだいこんな所で?」

 「お話があります。中にいれてください」

 びっくりしたような顔をしてからいつもの顔に戻って「入りな」と言って生徒会でもない私を生徒会室に入れてくれた。

 「外に誰かが立ってるのには気づいてたんだけど、一向に入ってこないからこっちから出て行っちゃったよ」

 なんて切り出せばいいのかわからなくて私は、黙りこくってしまった。先輩は、優しい目でこっちを見てくれているのに。

 「何で君がここに来たのかは、おおよそ想像がついてるよ。一位だったんだろ?」

 「はい…」

 なんでだろう一位を取れて嬉しいのに、先輩の条件をクリアできたのに涙がこみ上げてくる。でも、その涙の理由がわからないしここで泣くのは、先輩を困らせてしまう。だから私は、涙をこらえようと下を向いてしまった。

 「よく頑張ったね」

 ポンポンと頭に手を乗せて先輩が褒めてくれたのを引き金に、こらえていた涙がこぼれてしまった。先輩に褒めてもらえたのが嬉しくて、でも今の自分が何をどうするのが正解なのかわからなくて、みんなに埋めてもらっていた心の最後のピースがはまったように心が熱い。

 あの時から、先輩と仲良くなってから、ずっと先輩を見てきた。初めて人に恋心を抱いた時から、あなたに横にいてほしいと思った。そして、私が横にいたいと思った。みんなが背中を押してくれたから、応援してくれたから今私は、ここにいる。

 みんなの期待に応えるために、自分の努力を無駄にしないために、あなたにこれを伝えないといけない。

 「私と付き合ってください!。先輩の横に居たい!。そしてあなたに私の横にいてほしい!。笑梨ちゃんみたいな明るくて可愛い女の子じゃないけど、私じゃダメですか…?」

 言いたいことを言い切った私は、息が切れていて涙で顔がぐしゃぐしゃだ。ひどい顔だろうな、こんな私なら振られても文句が言えない…。

 先輩は、椅子から立ち上がってこちらに近寄ってくる。不意に下を向いてしまった私でも、先輩が目の前にいるのがわかる。笑梨ちゃんが久しぶりに学校に来た時、抱きついてきたときのような温かみを感じた。

 「え?」

 何が起きたのかわからなくて少しフリーズした。

 「君は君だろ、人と自分を比べるものじゃないよ。僕は、確かに笑梨を好きだったかも知れないけど、ちゃんとした恋じゃない。でも君が僕に好意を示してくれるようになって、本当に人を好きになるってことを知ったんだ」

 私がやっと今の状況を飲み込めるようになっても先輩は、続けて話した。

 「正直君に学年一位なんて言う条件を出したのは、僕を諦めさせたかったからだ。君のような人に僕なんかはもったいない…」

 「何でそんなこというんですか…。私の方が先輩に釣り合いませんよ」

 私がそう言って顔を見上げると、優しい目をした先輩と目が合った。そしたら、先輩が私の指からリングを取ってしまった。

 「え、何で取ったんですか?」

 「とりあえず、外で聞き耳を立てている五人は、どいてもらえるかい?」

 先輩がそう言うとドアが開いていつもの五人が入ってきた。

 「わかってたんすね」

 「君たち隠れる気なかっただろ。丸見えだし、ドアがめちゃくちゃ動いてたぞ」

 「だから僕は、後ろのドアからにしようって言ったのに」

 あぁ龍太郎君は、止めるんじゃなくてバレないように案を出した側だったんだ。じゃあ誰も止めはしなかったのね。

 「じゃあ五人ともどこかに行ってくれるかい?」

 「「「「「それはちょっと…」」」」」

 「行ってくれるかい?」

 「「「「「はい」」」」」

 笑いながら言っているけど顔が笑っていない先輩の圧に負けて、みんな帰っていった。

 先輩は、みんなが帰っていったのを確認してら私の前に立って右手を出してきた。

 「さてと、左手を乗せて…」

 「え、はい。なんですか?」

 「僕がどの指にはめるかで、君からの告白の回答をするよ。そうだね、薬指なら付き合おう、人差し指なら友達のままでいよう」

 なるほど、そのためにリングを取ってきたのか。でもどんな回答でも受け入れる覚悟はあるし、振られても諦めないだろうな。

 「はい…」

 覚悟してたはずなのに、怖かった。緊張した。でも、薬指にリングがはまったのを感じたとき全てがわかって嬉しかったし、また涙が出てきた。

 「一花君、君がいいのなら僕は、喜んで君と付き合うよ」

 「あり、ありがとうございます…」

 先輩がまた私のことを抱きしめてくれたけど私には、あるものが見えた。それは、逆の校舎にいるみんなが笑ってこっちに手を振ってくれたいた。私がどこを見ているのか気になった先輩も私の目線の先を見て「あいつらいい度胸してんな」と言っていたけど、笑ってた。その時私は、この人のこんなところに好かれたんだと生確認した。

  その日から私たちは、いつものメンバーでも二人の時でも仲良く出来ている。みんなが関係値を上げて関係が変わってきているように、私も関係を変えることができた。最も力になってくれたのは、龍太郎君だったのかもしれないけど、みんながいたから昔の自分から変われたんだと思う。

 結局栞ちゃんのいい感じの人って誰だったんだろう。

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