第2話 子作り政策、始めました
魔王はいない? 数十年前倒された?
にわかには受け入れられない(別に期待していたわけではないが)言葉に、広志はつい黙り込んでしまう。男性も広志の困惑に気づいたのか、あー……と息だか声だか分別のつかないものを漏らし、ワシャワシャと頭をかいた。
「まあ確かに、異世界召喚っつったら魔王討伐とか世界救済とか、期待するよなぁ」
なんかすまん、と軽く頭を下げる男性に、俺は慌てて手を振った。
「い、いえっ! 命がけの使命とか、荷が重いし怖いですし、寧ろ良かったというか……」
そこまで言って、思い出す。この人の言っていることが本当であれば、俺の召喚は魔王討伐の為ではない。だが俺には「使命」がある。だから呼ばれたのだと、確かにこの耳で聞いた。とするならば。
「俺の使命って、一体何なんですか?」
「ああ、そうだね。それは……」
彼の言葉をしっかり聞こうと前のめりになった瞬間、部屋の窓ガラスが綺麗な音を立てて粉々に割れた。
「!?」
その破片と共に、赤い塊が部屋に転がり込んでくる。よく見るとそれは人で、非現実的なほど大きく揺れる巨乳の持ち主だった。赤く見えたのは、その人物の髪の毛だったようだ。
バニーガールの格好をした彼女は、綿菓子のように膨らんだツインテールをゆっさゆっさと浮かしながら男性に近づいていく。
「おいイサム! 30分待ったぞ! 早く召喚者に会わせろ!」
「あ、おいローザ! 『30分ほどあれば終わるだろうが、そっちに行くまで待て』と言ったのに……。さては後半ちゃんと聞いてなかったな!?」
「知るか! 会わせろ!」
広志の目の前で突如として激しい論争が勃発した。床には飛び散ったガラスの破片。異世界召喚という状況だけでも意味不明だというのに、更に頭が痛くなりそうだ。
ふと、バニーガールの少女は素早く広志に目を止め、イサムと呼ばれた男性に顔を近づける。
「アレか?」
「うん。あと人を『アレ』とか言わないように」
どうやら口論は収まったようだが、きっかけさえあればまた爆発しそうだ。それはやめてほしい。広志は二人を交互に見、タイミングを計って口を開いた。
「あの……その人は一体……?」
巨乳を頭に乗っけられた状態で、イサムさんはため息をついた。正直羨ましさよりも、首が折れそうという心配のほうが勝つ。
「ええと……そうだな。さっきの続きを言ってからにしよう。単刀直入に言うぞ。お前には子作りをしてもらう」
「……は?」
広志はポカンとして、それ以上何も言えなくなった。今日は一体何度呆然とすれば良いのだろうか。
「ん、なんだお前、もしかしてその歳でコウノトリとか信じて……」
「違いますよ! 分かってますよ意味は! だから分かんないんですよ!!」
汗をダラダラ流しながら訂正する。童貞ではあるが、子供の作り方くらい知っている。だから訳が分からないのだ。異世界に召喚されて、お願いされることが子作り?
「あーうん、お前の動揺はご
うんうんと頷いていたが、最後まで聞いてもやはりわからない。少子化なのは分かった。だがわざわざ召喚を使ってヨソの世界から人を呼ばなくてはいけないことなのか?
「えっと……この世界の若者に子作りをお願いしたりはできないんですか?」
「無理だ。この世界にはもう子作りできる男がいない。そこで君を召喚したんだ」
よく分からないが、この世界にいる人ではどうにもならないことらしい。渋々ながら理解した広志は、ベッドのシーツを握りながら赤髪の少女に目を移す。
「それで、その人は?」
「ああ、コイツはローザ。数十年前倒された魔王の娘、兼、お前の子作り相手の一人だ」
イサムさんの言葉に、少女は
眼前に迫る巨乳に、広志は思わず息を呑む。彼女は八重歯を覗かせて、広志は全身をくまなく眺めた。
「お前、名前は!?」
その明るくも圧のある問いに顔面蒼白になりながら、広志は震える声で答えた。
「……広志ですぅ……」
これが、異世界子作り政策の始まりの第一歩(イサム目線)である。
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