由良と尊
第5話
由良と尊で
電車に揺られながら誕生日についての話をしてもらいましょう
カタン、と車内が揺れるたびに、尊が由良を支える。
「大丈夫か?由良」
「ん。大丈夫」
「ちっ。あそこで車が故障なんてしなきゃ電車とか使う必要なんてなかったってのに」
由良と尊で遠出をした先で、タイミング悪く車が故障した。
迎えを呼ぼうにも、少し距離が遠すぎた。迎えを待つよりは電車を使った方が早い、と普段あまり使わない電車に二人で乗り込んだのだ。
車内は空いていて、どこかゆったりとした空気が流れている。
「たまには電車もいいよ?」
(元総長の社長が電車って面白いけど)
「親父の車使ったのが悪かったな。潮風でダメになるとか使えねぇ」
「お父さん、喜んでくれるといいね」
由良の手には小さな紙袋。
がさり、と揺れるその中には写真立てが入っている。
オーダーメイドで折り畳み式のものだ。デザインは由良と尊二人で決めた。
「由良のケーキもあんだぞ。あいつが喜ばないわけねぇよ。むしろ羨ましいくらいだっての」
「そうかな……?」
少しだけ崩れた由良の表情に尊がその頭に手を伸ばした。
優し気な手つきで撫でられて、またふにゃりと表情が柔らかくなる。
(お父さん、喜んでくれるといいな)
「お兄ちゃんの次の誕生日もケーキ作るね」
「来年も、再来年も、ずっとだからな」
「ずっと?」
「ああ。由良のケーキはずっと俺の物だからな」
優し気に、少し意地悪気に微笑む大手グループの若手社長。
彼がこんな表情を浮かべていることを知るすべは、世間の人にはないだろう。
いちゃいちゃするだけ。
霞SS あやと @ayatoyura
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