第26話

「おい、尊。そろそろ遅刻すんぞ」


透がしかたなく声をかけても尊には届いていないようだ。



「とにかく!今すぐ断りの連絡を入れやがれ」


「全くお前は相変わらずだな」



ちら、と確認した時計の時間はぎりぎりだった。


余裕をもっていたはずだったのに約束の時間はすぐそこ。


(こっちも遅刻しそう)



「みこ兄」



「由良、お前も無理なんてしなくていい。由良は俺が一生養ってやるからな?他の男と見合いだなんて」


「みこ兄」


苦笑気味に由良が声をかける。


尊の言葉を遮るようにして呼んだ由良に、漸く尊の口が止まった。



「ちょっと行って来るだけだから。みこ兄も仕事頑張って」



ね?と首をこてんと傾けながらの言葉は由良の策略ではない。


無意識で、天然だ。


ぐっと、尊は言葉に詰まった。


金髪よりも黒髪の由良は少しだけ幼く見える。


破壊力は抜群だ。


「ああ、うちの子可愛すぎるっ。天使すぎるっ」


そしてもう一人崩れ落ちるように悶えた。


由良の隣に立っている透だけが呆れたような顔で立っていた。



「お父さんも、遅刻しちゃうから」


はやく、と圭介を急かしながら行ってきますと声をかける。


遠目に見ていた使用人たちが頭を下げる中で、尊もはっとして声をあげた。


「気をつけて行ってこいよっ」


焦るように口にした尊に、由良は自然な笑みを浮かべた。



「ったく。行くぞ尊」


「……あぁ」


しぶしぶ頷いた尊は、足を踏み出す時にはすでに社長としての顔だった。

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