転生する空間でパワハラされてる女神を助けたら離れてくれない
みねし
第1話 パワハラに立ち会った
「だから私がスキルもっと弱めに設定しなさいって言ったでしょ? 本ッッッッ当使えないわね」
「ひぐっ、で、でも規律上、あれ以上弱めには………」
「うっさい!! 上司の私に立てつく気?」
「ひっ、違います。すみません、ごめんなさい………」
(なんじゃこりゃ!?)
気がつくと辺り一面真っ白な空間にいた。
本当に何もない真っ白な空間。
徐々にに視界が晴れて、次に認識した光景はそんな白一色な空間では到底起きそうにないものだ。
特に派手な化粧なんかしてない金髪の女性がベージュ色のぼさぼさ髪の女性に怒鳴りつけている。
軽い地獄絵図だろこれ。
二人の関係って上司と部下と関係なのだろうか?
「ここはどこでオレは………うっ」
その一言が呼び水となって次から次へと記憶が浮かび上がる。
オレの名前は白本蛍で、ここに来る前の最後の記憶は急に飛び出た野郎にナイフで腹を突き刺されたこと。
「ってことは死んでるのか、オレは」
ということはここはどこだ?
当たり前な疑問が浮かんだその時、目の前の金髪の女性がベージュ色のぼさぼさの女性に蹴りを入れる。
「いっ………!?」
「本当使えない女ね。アンタのせいで私の楽しみが一つ減ったじゃないの! それもそうだけどアンタに押し付けた魂はなんで来ないのよ」
「それがその………無理矢理だったので、たぶん遅れてるのかと思われます」
「何のためアンタなんかにあんなこと任せたと思ってるワケ? 役立たずのクズ女が」
「ひっ、ごめんなさい、ごめんなさい………」
部下と上司の関係なのは間違いなさそうだな。
最初はただ部下を叱責するだけかと思ったけどよく見たらこれ、パワハラじゃね?
任せたとか言ってるけど押し付けの言い間違いだろ、絶対。
土下座姿勢ですすり泣くぼさついた女性の頭に金髪の女性がさらに蹴りを入れている。
「そうね。愛しい愛しい部下に蹴りを入れるのはよくないもの」
「………!? ご、ごめんなさい! 私がもっと頑張ります。ナリス様の役に立って見せますから、だから………!」
「これで喉が枯れるくらい鳴いて耐えるのがアンタの一番の仕事よ」
金髪の女性がどこからともなく現れた短いナイフに舌なめずりしながらそんな頭のおかしいセリフを口にする。
「ひっぐ、許して、もうやめてええ………!!」
「黙りなさいよなんの役にも立たないクズ女がアアア!!」
「クズはお前だパワハラ女」
「ぐはっ!?」
パワハラ女の足首に蹴りを入れて動転させて、その隙にナイフを遠く蹴り飛ばす。
「誰よアン………ぐあっ!?」
「喚くなよパワハラ女が。耳腐るだろうが」
「ぐはっ、あぐっ、あガッ………!」
こっちは急に連れて来られて気が気じゃないのになんてえげつないもん見せつけてくれるんだ。
私情をたっぷり込めて倒れてるパワハラ女の胸倉を掴み上げてそのまま腹パンを四、五発入れてやった。
「ふんっ」
「ごほっ!!」
よろめく女の顔面を思いっきり踏みつける。
「大丈夫ですか?」
パワハラ女はひとまずこれで身体に力が入らないはずだ。
とりあえず被害者の安全が先だ。
今のうちに先ほどまでパワハラに遭っていた被害者に駆けつける。
「は、はい………その、ごめんなさい」
「あの」
「ひっ、ごめんなさい、ごめんなさい………」
問いかけようとしたオレに発作でも起こったみたいにベージュ色の髪の女性がその場でうずくまってごめんなさいの連発が始まる。
心にグサッと来るけどまあ、仕方ない。
あちらは被害者だ。
見たところ、かなり長い間パワハラに遭っていたように伺えるな。
だったら反射的にうずくまったり謝罪の言葉ばかり繰り返すのも無理ない話だろう。
「よ、くも………」
「………え」
「よくも女神のこの私に立てついたわね!!!!! 人間如きがあぁぁぁああああ!!」
「避けて——————!!」
加害者から離すことばかり優先したけどちゃんとトドメまで刺しといた方がベストだったのか。
こちらへかざしたパワハラ女の両手になんかわからない光が凝縮されていって——————。
そして————————————何も起こらなかった。
「あれ………なんで………」
「ふんっ」
「んごっ!」
呆けるパワハラ女にドロップキックを披露してやる。
「これはこの人の分だよ。大人しくくたばってろパワハラクソ女」
「ぐはっ、があっ、あぐっ………たす、け………」
その後、数発殴りつけたら被害者の方に伸びた手先から徐々に力が抜けて行きやがてがくッと力なく落ちる。
気絶したか。
「もう大丈夫ですから」
「は、い………助けて、くれたんですか?」
反射的にうずくまって謝るくらいパワハラに遭っていたんだ。
いくら言葉で伝わろうとしても届かないだろう。
すでに心身ともに疲弊しきっているせいでまともな判断が出来ないはず。
だからオレは自分で言った「大丈夫ですから」を実感させるため——————未だ俯いてるままの彼女と目線を合わせてそのまま抱きしめる。
もうあなたに理不尽に怒鳴る人はないと。
もうあなたは殴られなくてもいいと。
もうあなたは————————————怯えなくていいと。
「あ、あああ………………」
「うわああああああああああああああんッ!!」
そんなオレの胸の言葉が彼女に届いたのかどうか知らないけど彼女は思いっきり抱き返してきて嗚咽を漏らすのだった。
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