24話 ガスタン防衛戦・七
「セルピー、ガスタンはどうなってるか分かるか?」
「現在はガスタン街壁上を制圧され、ハンス団長が敵のトップと交戦中。街の住民は……襲われていると思われます。」
(…クソがっっっ。分かってはいた、それを改めて聞くと俺がアホすぎて嫌になってくるな。切り替えろ、今は一刻も早く街に戻るんだ。)
現在地点ではまだガスタンとの距離が離れている現状、急ぐに越したことはない。敵はゼノバース、個人個人の戦力も平均練度が高いと聞いていた。
実際はあくまで組織である以上、ピンからキリまで存在するし全員が全員という訳ではない。けれど彼らは曲がりなりにもゼノバースの兵士。魔法が使えずともその制圧力は馬鹿にならない。かつては魔道帝国ガルセリオンとも互角以上に渡り合ったのだから。
「ガスタンに急ぐぞセルピー、ついて来れるか?」
「全身全霊でついて行きます。」
火竜との戦いから全回復とは言わずともそれなりには回復している。魔力総量も上がった今、魔力使用時の移動速度も当然上がっている。
セルピーと二人風の如し速度でぐんぐんと加速する。見据えるはガスタンの空、戦場の間。自分を想い慕ってくれた少女の元へ、十秒、一秒、一ミリでも早く辿り着く。己が成すべきことの為に、少女の為に。
*
「おらぁ!しゃらくせぇ!」
「ぬっ!?オノレェェェェ!」
前から、後ろから、左右から、上下から迫り来る戦斧を捌き、いなし、砕いていく。隊列を組んだ敵目掛けて体一つで踏み込み陣地を荒らしていく。
迫り来るは五百の敵。圧がある、壁のような、とても重厚な圧が。群れであることを誇示するように一塊に動くそれを捩じ伏せる。
前から迫る戦斧に右手を添え軌道をずらし、眼前の顔目掛けて拳を振り抜く。首を振り周囲を把握し流れるような動作で敵の行動に対処する。
「はっはっー!こんなもんかよ!こんなもんで俺様を止められるかよぉ!」
声を張り上げ威勢よく吠えてみたが、体力は徐々に失われていく。いくら倒しても倒してもキリがない。自身が護るのだと、誓ったのだ。
あの頃とは違う。力も、覚悟も、何もかもが足りなかったあの時とは違う。少年に、少女に、亡き家族に、そして自身に誓ったのだ。なら、こんなところでつまづいている訳にはいかない。
幸い、今まで人を殺してもレベルが上がらなかったのが何故か上がるようになった。その理由は分からないが、間違いなく追い風にはなってくれた。
少ない魔力をその身に込め、それを力へと昇華していく。細胞に、血液に、筋肉に、四肢へ、全身へ。細胞や血液などといった知識がある訳ではない。けれど、本能が知っている。勘とは違う、確信に似た何かを感じるならば、そこに注ぎ込むだけ。
拳が剣に、槍に、戦斧に、武器に劣る理由がどこにあろうか?甘えず鍛え、磨きあげた力を用い、戦斧を携えた敵に向かい更に加速して突っ込む。
それは目にも止まらぬ速さで周囲の敵を吹き飛ばしていく。千切り砕いて恐怖を押し付ける。
「もっと!もっと!うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
全身をバネにし目に見えぬ速度で暴れ回る。敵は徐々に減っていき目には恐れの色が浮かぶ。それでも彼らは前へと突き進む。武人たるもの、怯えは雑音でしかないから。
「裏切り者がぁ!死ねぇぇぇぇぇっ!」
「はっ!お前らに言われたくねぇよど雑魚共!何が悲しくてガキを見捨てなきゃいけねぇんだよ!クソ共が!」
戦斧が煌めき、拳が空を穿つ。振り下ろした戦斧を僅かな動きで躱しお返しとばかりに拳を振るう。短く濃い時間を何度も繰り返し、気づけば敵は殲滅していた。背に見えるは幾つもの亡骸。それを全て余さず血肉に変え、前を向き次なる戦場へと向かう。
(まだ、奴らは大勢いやがる。くそっ、手が足りねぇ、俺にもっと力があれば……しょーもねぇことでうだうだ悩むな、俺様は鉄拳のキース、だろ?)
今の戦闘でも倒したのは所詮五百、ゼノバース軍の四百分の一に過ぎない。それでも歩を進めない理由にはならない。
(約束は守らないといけない、だよなヤイ。ったく、しょーがねえ弟だせ。見とけよ、にいちゃんが蹴散らしてやっからな…
「どこへ行くんだ、キース。」
「⁉︎」
建物の隅から現れ姿を表すはゼノバースがNo.2、ミヒャエル・ヘイザー。堂々とした佇まいに腰に据えるは銀色の鋭い細剣。鍛え上げた体は芸術をも思わせる。
「…ミヒャエルのおっさん。」
「どこへ行くんだ、キース。魔人共を倒すんだろう?ついてこい。」
「俺は…行かねぇ。お前らみたいには、ならねぇ。…今!ここで!あんたを喰い殺す!」
意思を、覚悟を研ぎ澄ます。獣のように、獰猛に。鉄のように、鋭利に。固めて練り込み、喰らい尽くす。
「ふぅー、やれやれ。全く、困ったものだ。陛下にも報告することが増えてしまった…。それで、誰が、誰を、喰い殺すって?思い上がりも甚だしいな。私たちを裏切るのみならず、この私をも殺す、殺せると?それはあまりにも……
傲慢すぎると思うんだがね。」
「ごちゃごちゃウルセェ!クソカスがぁぁぁっっ!」
鉄拳のキース、ミヒャエル・ヘイザーと相対ス。
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