20話 ガスタン防衛戦・三

俺はスペアトスの片隅に存在する小さい村で育った。

父ちゃんと母ちゃんと婆ちゃん、それから2人の弟と妹、7人で一緒に見窄らしくも毎日を楽しく生きていた。


朝起きて家族でご飯を食べて昼は近くの同じような境遇のガキ共と悪ふざけして夕方には家族の畑の世話の手伝いをしたり。

そんな生活を続けてるうちに村には魔物が襲ってきたりもした。

けど俺には戦う才能ってやつがあったらしくて村の大人にも勝る数の魔物を倒していったりした。

そんなもんだから俺は村のみんなから一目置かれて将来は騎士様だねなんて言われた。

けど俺はそんな知りもしねえ騎士様なんてものに興味はなかった。

ただ村のみんなと面白おかしく暮らしていければ良かったんだ。


そんなある日末の弟がスキル発現の儀で【光魔法】(上)と《解放》というスキルを授かった。

村には魔法を使える人ももちろんいたが、最初から上レベルのスキル、しかも光魔法なんてものを授かったやつはいなかった。

光魔法といえば皇都で有名な神聖騎士団が使う魔法としても知られている。

魔法系統のスキルはいくら努力しようと後から獲得は出来ないとされていて、それこそスキル発現の儀で授かる以外には扱えないそうだ。


だから光魔法を授かった末の弟、アルカは将来の騎士を約束されたようなものでその日は村で盛大に宴をあげた。

盛大にと言っても普段より多少豪華なものが各家庭で振る舞われたぐらいだが、それでも普段腹一杯食べれない肉が食べれたからみんな喜んだ。


「お肉美味しいね!キース兄!」


満面の笑みで微笑みながら肉を頬張るアルカの頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。

それに意識を取られながらも必死にかぶりつくアルカを見て苦笑しながら楽しく宴を過ごした。



翌日、早速近くの街にある教会に知らせるために父ちゃんが早朝出かけていった。

それを送り出して普段通りの生活をして寝食を過ごして1週間後、村に教会のやつが来た。

全身に白いロープを着ていて木を削り出し複雑な模様を浮かべた杖を片手に、モノクルを右目につけた胡散臭そうな顔つきの男だ。

後ろには警護のためについてきたのか10人の剣を携えた全身鎧の騎士が付き従っている。


「そちらの子供が例の光魔法を授かったのですか?」

「はい、私の息子で名はアルカと言います。」

「ふむ、では失礼して。【鑑定】。」


そう言ってその男はアルカに対して鑑定をした。

鑑定は使える人間が珍しいらしく、実際に俺も見たのは初めてだった。

5分ほど経ったあたりでそいつは鑑定を取りやめる。


「ふむ、光魔法を本当に授かっているようですね。しかも上。この年頃でそのレベルの光魔法を所持しているとは。なおさら残念で仕方がありません。」

「そ、それはどういうことですか?」

「騎士達よ、この子供を殺しなさい。」


その瞬間騎士達は男の指示に従ってアルカに近づいてくる。

手には剣が握られておりその鋭い目はアルカを捕えており、今の言葉を聞いた瞬間俺はアルカに目の前に立っていた。


「おぉい!どういうことだよおっさん!」

「ふむ、邪魔をするならあなた方村の者も全員殺しますが?」

「神父殿!どういうことですか!なぜ我が息子を殺すなどと!」

「ふむ、もういいですかね。全く、これだから下賎な農民という者は。もういいです、殺しなさい。」


そう言って神父の近くにいた父ちゃんに向かって騎士が剣を振り下ろし首を刎ね飛ばす。

ゴロゴロと転がる父ちゃんの首は血を吹き出しながら転がり続け、首をなくした胴体はまるで人形のように力無くその場に崩れ落ちた。

訳が分からなかった。

何が起きたのか。

どうしてこうなったのか。

頭が真っ白になって何も考えれない。


けれど体は動いていた。

アルカに向かってきた騎士に向かって拳を突き出し、末の弟を守るために戦っていた。


「アルカ!早く逃げろ!」


拳を、脚を繰り出しながら大声でアルカに逃げろと叫ぶ。

騎士は剣を振り下ろしてくるがそれを半身で躱し体を捻りそのまま回し蹴りを叩き込む。

背後から斬りかかってくる奴に対しては斬られるのを覚悟で距離を潰し体当たりをする。

けれどその先は続かず周りにいる他の騎士達に体を斬り続けられる。

血を失いすぎたのか体が思うように動かなくなり、瞼は沈み始め意識が薄くなっていく。

最後に見たのは村民に斬りかかっている騎士達とモノクルをかけた神父と呼ばれた男の酷くニヤついた表情だった。














「うぅ、」


気を失ってどれくらいが経ったのか。

運良く俺は死なずに済んでいて、身体中が悲鳴を上げるがなんとか生きていた。

ようやく目を開けることができた俺の目に飛び込んできたのは、村の荒れ果てた後だけだった。


家は崩れ落ち、井戸は血で汚れて、そこかしこに死体が散乱しハエがタカっている。

凄まじい死臭が鼻をつき思わずその場に吐いてしまう。


吐き終わった俺は言うことを聞かない自分の体に鞭を打ち家まで歩く。

さっきから嫌な考えが頭を離れない。

大丈夫だ、俺の家族だぞ?

きっと大丈夫だ。

根拠のない想像に今は縋るしかない。



家につき、目に飛び込んできたのは事切れた家族の死体だった。

母ちゃんと婆ちゃんの前で両手を広げて切り傷だらけの弟。

涙を流しながら死んだであろう下半身に何も履いていない母ちゃん。

お気に入りの椅子だと言っていつも座っていた椅子でぐったりとしている婆ちゃん。

……かろうじて原型を留めたアルカの姿。


理解できなかった。

理解をしたくなかった。

だって、俺の家族は、今日もいつも通り笑顔で家で待ってるはずで。

だって、だって、きっと全部夢のはずで。


「か、母ちゃん、婆ちゃん、ヤイ、アルカ、う、嘘だよな?兄ちゃんを驚かせようとしてるだけだよな?そ、そうなんだろ?そうだよな?……頼むよ、頼むから!嘘だって言ってくれ!母ちゃん!いつもみたいに叱ってくれよ!俺、ちゃんとするからさ!婆ちゃんもいつもみたいに頭撫でてくれよ!キースは良い子だって言ってくれたじゃん!そうだ!ヤイもアルカも今日は川に釣りをしに行こうぜ!とっておきの秘密の場所があるんだ!な!そうだろ!?そうなんだよ!」


涙が止まらない。

もう昨日までの幸せだった日常は帰ってこないんだ。

あんなに楽しかった日々が。

かけがえのない大切な思い出が。

全部、全部消えてなくなって…。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


いつまで泣いていたか分からない。

1時間か、半日か、1日か。

時間の感覚もぐちゃぐちゃになって、頭の中も心の中もぐちゃぐちゃになった。

俺が弱いから。

俺がもっと強かったらみんなを守れた。

あんな騎士達にも……負けなかった。

みんなを失わずに済んだ。





全部、俺が弱いから。





それから村のみんなの墓を作って俺は旅に出た。

冒険者になって魔物を討伐したり、コロシアムに出て優勝したり、とにかく強くなろうとした。

強くあろうとした。

そんな時だった、ゼノバースから声をかけられた。

そしてどう足掻いても勝てないであろう化け物を見た。

そいつは軽く欠伸をするぐらいの軽さで俺を捻り潰す。

それを吸収するために俺はゼノバースに居を構えた。

聞けば元々戦争を頻繁に起こしていた国家らしく、ここでならスペアトスに復讐できると思っていた。


魔人との戦争があると聞いてミヒャエルのおっさんに頼み込み連れてきてもらった。

魔人は種族的に人間よりも強いらしく、良い経験に出来ると、血肉に変えることが出来ると思った。

けれど実際に戦ってみて拍子抜けした。

一人一人は強いけどやはり数の力には勝てねぇらしくてゼノバースは被害を出しながらも街壁を占拠しちまった。


それでもう勝ちは決まったようなもんだ。

高所を制したんだからな。

数も勝ってるとなりゃもう魔人側には万に一つもねぇ。

あとは適当にのんびりするだけだ。

そう思っていたんだが……





「お前!人間の分際でクソ下衆魔人を守るつもりかよ!殺すぞ?」


俺は気づいたら魔人のガキどもを守っていた。

振り下ろしの軌道に体を入れて槍を弾き、ガキどもと婆ちゃんを抱えて下がらせる。

そして必死になって覚えた回復魔法を使って全魔力を消費して傷を塞いでいく。

これでなんとかするしかねぇ。


「聞いているのか!クソ野郎!」


そう言って斬りかかってくる男。

そいつの槍を俺は拳で殴り砕きそのまま顔面を吹き飛ばす。

頭だけになったそいつはぐしゃ、と音を立てて家の壁まで吹っ飛んでいく。

それを見て慌てた男の取り巻き共が必死に喚き散らす。


「お、おいお前!今ならまだ引き返せるぞ!

いくらお前が強くてもゼノバース相手になんとかなる訳ないだろ?俺らがなんとか説明してやるから、今すぐその魔人共を殺してこっちにこいよ!」

「そ、そうだそうだ!見逃してやるから今すぐこっち側にこい!」


何を言っているんだろうかこいつらは。

魔人も人間も関係ねぇ。

ガキが自分の命を張ってでも守りたいものを守るために動いたんだ。

婆ちゃんが自分の大切なもの守るために身体を張って痛みに歯を食いしばって、それでも安心させるために笑顔を絶やさなかったんだ。

立派じゃねえか。

お前らよりもこいつらはすげえじゃねえか。

それを分かりもせずにぐだぐだと喋りやがって。


「……分かった。」

「おぉ!分かってくれたか!ならばこちらに…」

「おかげで目が覚めた。お前らのおかげだ。

俺は今までどうにかしてたみたいだな。」

「何を言っている!」

「こいつらの姿がな、小せえ頃の俺に丸被りして見えちまったんだ。ヤイのやつに丸被りしちまったんだ。だから、あの時家族を、村民を守れなかった俺の贖罪だ。」

「何を意味のわからないことを!もう良い!囲んで殺すぞ!こっちは4人だ!行くぞ!」

「俺は相変わらずしょーもねぇ男だなぁほんと………。いくらでも来いよ、4人でも、10人でも、100人でも、1000人でも………



















今度こそ、全員守ってみせらぁ!俺様、鉄拳のキース様がよぉ!かかってこいクソゼノバース共!今日の俺はちと獰猛だぜぇ!」

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