13話 竜との対峙 上

魔人の街ガスタンから北に10キロほど歩いた場所に存在している洞穴

そこに例の竜が棲みついてる


その情報通りに和人が洞穴に辿り着くと周囲の空気が重くなる

その場に動物や虫は存在せず、森の中だと言うのに聞こえてくるのは自分の息遣いのみ


これから魂の一滴すら搾り出すであろう死闘をするのだなと想像すると思わず身震いをする


洞穴に入り通路を歩いているが、何故か周りは明るい

洞窟全体が光り輝いているという光景につい目を奪われてしまうが、通路の先にある広場にてなにやら蹲っている存在がいる


間違いない、あれが竜だ

実際にそれを目にして思わず口角が上がるが、それを無視して殺意を高めていく


あいつは、俺が喰らうに相応しい存在だ

一滴残らず血肉に変えると決意して一歩を踏み込む














強靭な爪、光り輝く赤色の鱗、口から僅かに見える鋭い牙、そしてギラリと音が鳴るような鋭い目つき

就寝中だったのであろう火竜は自分の眠りを妨げた侵入者に対して酷く苛立たしげに見下す


見るからに弱そうな魔人

そいつが自分を見て笑ってる

何故自分を目の前にして笑っているのか

舐められているのか?


そう自覚した途端一気に体全体から殺意が溢れ出し空間を覆い尽くす

その瞬間にヤツが飛び出してきて自分の身体に剣を突き立ててくる


しかし自慢の強靭な鱗には傷一つつかない

その事実がますます火竜を苛立たせる

こいつはこの程度で竜である自分に喧嘩を売ってきたのかと怒りでどうにかなってしまいそうだ


脆弱な魔人を一刻も早く葬るために火竜は立ち上がる

これ以上付き合ってられないとばかりに


















和人はかつてないほどに歓喜している

自分の剣がまるで通用しない

ハンス相手にも一撃を喰らわせられた剣が悉く通じない


その事実に焦るばかりか、さらに集中を高めていく

もっと鋭い一撃を、もっと強力な一撃を、もっと破壊的な一撃を


一撃ごとに力強く、そして早くなっていく

しかしそれでも未だ傷一つつけられない状況に竜という存在の強大さを感じる

それでもそれは諦めるという事実にはならず、逆になにがなんでも喰らってやるという思いが強くなる


戦闘が始まって1時間

既に千は剣を振い、その度に洗練されていく和人だったが、火竜が遂に和人を捉えその巨大な爪で薙ぎ払う


そもそものステータスが違う

いくら和人であってもそれを受け流すことはできず剣を盾にすることしかできない


勢いそのままに壁に叩きつけられる

剣は折れ骨が何本か逝ってしまっている


その状況でもすぐさま動くべく身体を動かすが、火竜がその隙を逃すはずもなく和人が身体を起こすより先に竜尾で掬うように空中に打ち上げる


無抵抗のまま空中に打ち上げられたがこれで距離がとれると判断した和人は体制を整え予備の剣を取り出す


これでまだ戦える、そう自らを鼓舞し火竜に視線を向けると尋常ではない魔力の圧を感じる


冷や汗が浮かび上がり無意識に身体が震えてしまうほどの強大な力の塊


それは竜種のみに許された破壊の一撃

天を揺るがし地を焦がし、万物全てを滅ぼし尽くす

その名をドラゴンブレス



《Laaaa‼︎◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️‼︎‼︎‼︎》



すぐさま自分の全魔力を消費し風のバリアを張るが襲いくる魔力の嵐に呑まれる

荒れ狂う魔力の奔流

自分の身体を焼かれる痛み

脳に直接叩き込まれるかのような一撃


竜種が強者たる所以であるドラゴンブレス

その圧倒的な魔力により放たれる一撃は成長しきった勇者であろうと重傷を負うレベルである


そんな一撃をまともに喰らってしまって薄れゆく意識の中、自分の中に潜むナニカの気配に気づく

それに手を伸ばすが届くことはない

















ヤツは完全に意識を失い身体が動かなくなる

それを確認し自分の鱗を改めて見る

あるのは無数の斬撃痕


最初は傷一つつけられなかったのが徐々に増え始めた

始めは100回に一回、それが徐々に間隔が短くなって行き最後には当たり前のように一撃を入れてくる


ステータスは別に変わってはいないはず

それにも関わらずどんどん成長していく存在に恐怖と不気味さを覚える


しかしヤツは既に消し去った

そのことに安堵し火竜はまた眠りにつく


















紛れもない敗北であり、魔人の勇者和人は死亡した

ただそれだけのことである

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