26Peace 「児童失踪事件」
なぜ、俺はガヤガヤとうるさい居酒屋なんかに来てしまったんだ。
対面するのはディミトリだ。俺の横にはニノと名乗った男がいる。自己紹介は。
「私はニノです、ただのニノです」
と言われた。何か珍しくてこきみわるい響きを感じた。
「それで、ディミトリさんはこんなデカいタンコブを作ったと?」
「せや」
意外にもディミトリが自ら肯定した。小さく返事をするどうやらプライドの為に虚勢を張るタイプではないようだ。
「悔しいか?」
我ながら配慮のないことを聞いた。
「っ……悔しきゃ悪いのか!?」
ディミトリはムキになる。俺の予想を越えて憤怒の篭った声だった、だからその迫力に思わず俺も背筋が伸びる。
「悪くない、むしろ
俺は言う。
きっと相棒だったらそう言ったからだ。それに父も、同じように言った気がする。
「偉そうなこと言うな! そんなのは強いから言えることなんだ!」
ディミトリは激しく拒絶した。俺は拒絶の意志を持たれてしまったことにショックを受ける。
「なんでそう思う?」
「だってせやろ!?」「俺は努力をしてきた! 胃の中身がひっくり返るほど訓練を受け鍛え続けたこともある! 血を吐いたこともある! その日々がこの、今日、一瞬で」
「全ての努力がてめぇに、天才に追い抜かされたんだ!!」「悔しくないわけないだろ!!!」
その声の勢いで食卓が震える。
「…………」
おそらくこの男の累積した経験や思いはタダじゃなかったのだろう、否。おそらくこの男に蓄積した体験や汗は平たい道のりではなかったのだろう。それが伝わってきて、声が出なくなった。
でも、言わなくちゃいけない言葉がある。
「俺は少なくともここに来て負け続きだ」
「……」「だからなんや!」
ディミトリは椅子が倒れる勢いで立ち上がる。
「俺は最初にローラに負けた。途中出くわしたやつは除いても、ジェシカやクレア嬢にも負けた。三連敗だ!」俺も立ち上がる「俺だって悔しい!」
顔を文字通り突き合わせて競り合うように言う。続けて言う。
「俺だって努力してこなかったわけじゃない! 確かに
責任。の言葉は、正直喉をついて出た言葉だった、それはきっとローラの村に入る時に言われた励ましのセリフに感化されてしまったのだ。
「だからなんや! 俺の方が覚悟がある! 責任もずっと背負ってる! 努力もしてきた!」
ディミトリが主張する。
「努力が足りないから俺に負けたんじゃないのか?」
俺が論駁するように問いかければ、一段深くディミトリは眉を吊り上げた。
「そもそも努力ってなんだよ!!」
ディミトリが元も子もないことを言い始める。
「……そうさ、努力ってなんや!」「一をやったら一しか身につかない人、零点五しか身につかないこと、五や十が身につく人! そんな不条理なものが美談にされるなんて可笑しいやろ!?」
「それでも俺は自分を評価したいと思う!」
俺も主張する。
「努力や成果を認めてくれる人がいる。ローラのように、ならそこに責任を感じて誇りを持つべきなんじゃないのか? 比べるんじゃなく!」「だから自分を評価するべきなんじゃないのか?!」
言い終わるとすぐに反論が始まる。
「そんなのは詭弁や!」
「でも、そうするしかないんじゃないかと思ってる!」
努力では俺も負けてない。本当はそう主張したかったんじゃないかと思う。
それから食事はすぐにお開きになった。その日は事前に、つまり決闘のあとでクレア嬢に案内されていた宿に止まった。
また朝が来た。
俺はここしばらく、人間のような生活を余儀なくされているせいで、夜だけの睡眠となっている。夜行性なのに。それに数年単位ではなく数時間の睡眠だ、慣れていない反面なにか新鮮にも思えておもはゆい気持ちでいる。そんな今日は街の喧騒に起こされる。
「あ〜、また朝が来た」
ここ最近はずっと、兵士たちに投げナイフを教えてばかりいる。そうしろとローラに指示されたからだ。
実は、見返りとしていただくのは給金ではなく、技術だったりする。というのも、食にこだわりがない俺は基本的に差し出されたものを食う、それは「豚の残飯でも構わない」それか、北欧の地域で聞く「生野菜のニンジン的な何かを一本で構わない」と言っているものの、一汁三菜よりも少し豪華な料理が毎日届いてそんな人間のメシを食っている。なぜ食うかそれは出されたものを食べないのは失礼だからだ。
話を戻すと、その食事をさせてもらうのと同時に、クレア嬢から直々の
なぜそうなったかと言えば「給金とは福利と私欲の為に役割りを成すモノだから」と言い曰く「それがこの街の貨幣論の在り方だ」とまた、こちらの知識量に配慮のないことを言っていた。つまり、ローラとクレア嬢はこう言いたいのだろう「自分たちの金の使い方くらい自分たちで決める」と、そして察するにこうも言いたいはず「だから黙って受け取れ」という感じだ。
演奏の方はかねがね、ぼちぼち続けようと考えている。いつか発表の機会が用意されてしまうのだろうか?
「おーい!」
と声がする。ディミトリのものだ、なぜこの宿の部屋をディミトリが知っているかといえば、クレア嬢と共に俺をこの宿に連れ立って案内していたからだ。
ここ最近はディミトリが迎えに寄越されている、それは少しの最近の苛立ちの元だ。
「今日のゆき先は軍事施設じゃなくてええ、もっと重大な事案や」
その口ぶりからピリピリした雰囲気を感じ取る。
「何があった?」
俺はそれにつっこむことにする。
「……」するとなにか考える仕草をした。
「部外者やなく協力者やから言う」
「実は、最近になってとある話が出ているんや、それは連続失踪事件……」
口重たく放たれたのは連続失踪事件という言葉。最初に俺が連想したのは
「それはよくある事じゃないのか?」
「バカかお前!!」
あっていいハズがないことや! と熱量をもって話すディミトリに、俺は戸惑う。この村の全体でみたらよっぽど珍しい事件なのか、と感心を持つ。俺の故郷よりいくぶん治安が良いらしい。考えてみれば、ディミトリのような兵士が育つ村だ。妙なことだろう。
「そうか、それで俺は何をしたらいい?」
「……せや、そのことだからまず事件の概要から説明せなアカン」
そうしてディミトリは淡々としかし終始湧き上がる感情を抑えるように説明を終えた。
「理解した」
と俺もその旨に協力の姿勢を示した。
事件はこうだ。これまでも年に数人の被害者が出ていた。そのほとんどが孤児院の子供だった。その亡骸は決まって必ず半年後に発見され、眠るような安らかな状態だったらしい。
遺体に外傷がないところが特に憎いとディミトリはいっていた。
憎々しい、悔しい、などと言っている感情豊かなディミトリの表情を見て、俺は児童の死という観念に対しまだ実感が湧いていないことに気づいた。
しかしディミトリは俺を強引に、事件解決へ連れ出すのだった。
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