22Peace 「唯の只中」

 俺は上のクレア嬢を見ながら、その姿と同じ勢いで叫ぶ。

「そう受け取って相違ないよな!」

 俺の声と同時に再び始まる戦闘。そう考えて既に俺の影は準備を整え終えてクレア嬢のカラダを切っ先に捉えていた。

 既に俺は勝利を確信していた。油断なんてしていない。俺は慎重な吸血鬼、即座に意味されるのは普遍無法の鬼だ。しかしその鬼は瞬時に打倒された。


 下から上に押し上げるように、俺の身長ほどもある極太のワイヤーが激しく俺の体を飲み込むように打撃する。気づく間もなく、言いようのない瞬間精製だ。つまり、予備動作で初速をつける必要もなく攻撃に加える衝撃のエネルギーすらクレア嬢は作り出していた。俺はその弾みで上に、クレア嬢の位置に近づくように打ち上げられるその土壇場に、……小さな小さな繊維が何重にも美しくタ靡たなびいて薄く広がって、俺の体を迎え入れる。

 俺は瞬時に微塵切り。

「????」

 その一瞬の失明の中で意識が混濁を始める。眼球など、微塵切りになったあとで機能するはずもない。

 三秒。それは俺が絶命する攻撃を受けて意識を保てる最大時間。俺は縋るように唱える。

渾沌なる浅黒背影ナイアーラトテップ

 血みどろに過激な黒ジミが、即ち肉片が、黒ぐろとして鈍く重い印象を受けるヘドロのような物体が。歪曲し蛇足し寄生帯のように手を伸ばして、合体していくそれを瞬時に完了させて。おれはその時からまた敗北したことを知る。


 つまり、この一撃。このエネルギーの保管した生成ができることを隠すためのブラフ。それが銃。

 助走距離、落下のエネルギー、火薬の爆発。それが攻撃に不可欠であることを意識づける為の「銃」。

 その駆け引きとそして。反応すらさせない位置タイミング勢いでの完璧な攻撃が、それを可能にしているクレア嬢が、クレア嬢を強者たらしてめいるつわ者としての能力。

 感心している場合ではないことを知る。それはクレア嬢の中の、つまり内面にある意識的なギアがまた一段上がる気配がしたからだ。

「!!!!!!」

 俺は決して歴戦と名乗れるほどベテランではない、それでも凄い、凄まじいとこれこそ最強の人物である。そこまでの実力差があることを実感させられる。

「気配!」

 思わず瞳が開かれる。恐怖じゃない、それは高揚感! 俺はこの最強を前にして楽しいと感じている!

 俄然、呼応して俺の内心の勢いも増してくる。

 綴褸於景ローブfactorファクター。内側でまたひとつ成長を始める。また強く

 影渡り。そして、布は背後に影を落とす。何処に居るのかどんな姿か。ただの見えるのはその影だけ、それだけが痕跡として心象を抱かせた。そして唯見えるのは影こそが己の要素であることだ。しかし、心象は、つねに葬られるばかりだという知識を与えられてはいなかった。

 俺は影に落ち、クレア嬢を目下に捉える逆杭の一部位に顕現けんげんする。俺は即座にその首に浅黒の大刀で、玉華ぎょくかに、長髪に覗くうなじを切る。


 ジェシカのような高速詠唱があった。

巳の記磧を算越せよM i l l e n n i u m(ミレニアム)」

 ドッと……空気が、威圧的に苦しく変わる。まだ力を隠していたのだ。

 その時、俺の大刀が何かによって弾かれる。

「…………」

 クレア嬢は何かを呟いていた、俺にも聞こえないような小声で。

 否、弾かれるなんて優しいものではない、砕いたり飛ばしたりそういう次元のものではなかった。それが分かる理由の一つは俺の眼に見えなかったこと、二つ目は弾かれる(?)ことによって俺の腕が四散したことにある。

 理解できずに困惑する。俺の洞察力をしても観測に足らない現象だ。

 気づけばいつのまにか、俺は俺の着るローブの背後を観測していた。同じ現象が首に向けられたのだ。

 黒いヘドロがまた俺の原形に戻そうとかき集める。しかしその傍から、クレア嬢の攻撃であろう現象が弾幕のように降り注ぎ再生を妨害する。

 その繰り返しがしばらく続き、俺の治癒能力が遅れ始める。その間、クレア嬢は何かを考えるように、みずから創り足場にしたワイヤーの上に立ったままだ。

 やがて時が来たかのようにゆっくりと、振り向き始める。

 クレア嬢が俺を睨むのを感じた。

「ひさしぶりだな!」

 ギロリ。そう強く睨まれていることを感じた、激しく悪寒が走ったからだ。

 何億と四散する体のうち、俺のmicroサイズの再生を01.rate単位で全て破壊し続けていた最中に多数の閃光弾が破裂する。破裂にはフレア弾のように硫黄の臭いが混じっている。

 その光が大穴の壁まで届く頃に俺は業火を浴びていたし、燃やされながらも袋に押し込められるようにワイヤーの檻に包まれて無酸素により消火され、次のタイミングではワイヤーが解かれ空気が解放され怪現象のように爆発し、そこに集まった水分は俺の体にまとわりついて、それに電撃が流される。

 しかし徐々に治癒速度が早くなっていく。どんどん、どんどん、どんどん、どんどんどんどん。

 そして俺は電撃の中で綴褸於景ローブを纏っていた。しかし精神は追い詰められていた。

 俺はローブのファクターを再び使う。この大穴のあちこちに、四方八方と張り巡らされた影の粒子たちに、入れ替わりを要求する。

 そうした俺は今、どこにでも居てどこにもい無い。けれど確かに、戦闘の只中にいた。


 何かが頭の中に語りかける。

「ホントは何処にいる?」

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