11Peace 「宝具たち」
「運がいい、それは糞が着いたの間違いじゃないか?」
現れた敵のセリフに対して少女は、俺の後ろからそんな皮肉を吐く。
「任せておけよ」
俺は少女に不満を漏らす。
「なんてことない、私は戦える」「任せておけない」
「そんなことない、拳すら握れないだろ」
しかし少女は胸の前で
「Saint heel. 握れる、文句ある?」
「そうか、構えろ」「拳を作れ」
言って俺は少女の構えた拳を正面から片手で弾いて見せる。
「おい!」
少女の苦情も簡単に吹き飛ばされた姿も無視して、自分が敵に構える。
「幼児はお眠の時間だぞ」
俺は少女に厳しく言った。
「ふふ、失礼。吸血鬼が用心棒なんてお洒落な方なのですね」
敵はまた軽口を叩いた。
「待ってあげるわたくしもお洒落と言えなくないんじゃないでしょうか?」
敵の軽口は饒舌らしい。
「あぁイカしてる」
言い終わる頃に、俺は接近し脇の下から殴るように突き出した拳の中にひと振りのダガーを作り出す。
刺し通す瞬間には踏み込みと同時に腰を落として腕を絞った。深く致命傷を与える攻撃をした、命中したなら刺したままダガーの形状を変えるつもりでいた。しかし命中しなかった。目の前の敵は霧のように消えてしまった。
「形態変化?」
吸血鬼にはそれぞれ特技がある。幻像の吸血鬼が幻しをつかって隠れたように、大体の吸血鬼は身を隠す術を持っている。この場合、霧になって消えた、避難したと見るべきか?
「おい少女!」
霧になったとしたら真っ先に手負いの相手を狙うだろうと思って振り向くが少女が人質にされている気配はない。
一瞬安心をしたのも束の間、真下から肌で感じる高熱を察知した。
避けようとするが、即座に地面はその熱源を辺りに轟かせた。それこそがあの敵の術中だったということだ。俺は足を失った、聖属性の攻撃で焼き切れて回復が遅れる。
「……!」
初手から万事休す。えぐれた地面の下から声がする。
「失礼、手癖が悪いもので」
敵は、申し訳程度に皮肉を言ってお辞儀した、まるで礼儀正しい紳士のように。それを俺は肘をついて仰向けで見上げるようにしていた。
「そうじゃないな、人に頭を下げる時は目線の高さを合わせるべきなんじゃないか?」
俺は手を取って手伝えとばかりに手を差し出す。
「そうですね、望むなら土下座でもいかがですか?」
言いながら敵は俺の手を取ろうと差し伸べようとした。その手を寸前で払った。
「おや……どうやら足がないのに立とうとなど引け目に感じましたかな?」
俺は払った手をままにして手のひらを俺の方へ向ける。
「そうかもな」
言いながら手を握る。同時に敵の身体を肩からくしゃくしゃに潰した。敵意を消して差し出した手を
「名前を聞こうか? 紳士さん?」
「おかげで楽しめそうです……」
俺はその言葉を、起こした胴体の上でうつ伏せの敵から聞いた。けれど聞き終わると同時に空気が抜けたように小さくなって消えてしまう。
「彼方くん」
その声は頭上から聞こえた、見上げるが早いか反応が早いかというタイミング、光の柱が雨のように降り注いだ。それは地に刺さる度に焦げた轟音を鳴らした。
俺はなんとか回復を終わらせ、少女を抱きかかえて光柱の雨を掻い潜る。そんな時に少女は呑気なことを言う。
「私、知ってはいると思うが、私は聖属性が使えるんだ、だからお前ほどのダメージは受けないぞ!」
「…………」
こんな時に言うなと言いそうになった。
「だからなんだ!」
「なんて?!」
少しの虚しさがあり、吸血鬼の聴力のおかげか轟音の中で一方的な会話が成立していたようだった。
その時、目の前に敵が現れた。
「
そういう敵のブラッドは未だ降り続ける光柱の雨の中で残影のように立っていた。
「そうか、俺の名前はティネス・ジーク・ドレーク短い間だがよろしくな」
名乗りながら俺は、走りながら少女の身体を地面に抑え拵えてほぼ同時に一本の大剣と三本のダガーをブラッドに投げる。そこで丁度、同時に展開した頭上の盾から光が漏れる。直後には俺の居た場所が懐仁と化していた。この理不尽さには「攻撃するのもやっとなのか」と心では大声をあげていた。
俺は少女を抱きかかえながら逃れたが、瞬く隙のない距離にはさっき投げた大剣が迫っていた。
避けた。それは恐れるべき髪一重の回避だった、その速度には空気が悲鳴を上げていた。
「受け身だ!」
俺は叫んで少女を木の根の間に放り投げた。俺には考えがあった。それは少女が武術の達人であることと少女がこの状況を解決に導く頭脳になってくれるのではないかということ。そして歩速を上げた。
しかし、なぜかさっきのような大剣やダガーのまとまりが正面や斜めや真上や地中から次々に飛び出してくる。
「
俺は吸血鬼としての能力、
俺は身体の中の黒い物質に形を溶かして、人型に分散した黒い粘液のまとまりのような姿に変わり、それに覆いつくとても小さな黒い粒が流れ落ちて大気との摩擦を弾きながら音が伝わる空気の波より早く、創造した武器を携えて走って行く。
一つの影は、幾多の大剣によりなじられ鳴き喚く木々の悲鳴を置き去りにしてブラッドという吸血鬼の姿を捉えていく。
しかし何度接触しても空気のようにさっぱり消えてしまいあらゆる場所に現れては繰り返す。気づけば数十秒が経っていた。
それは唐突に終わりを迎えた。
「
そう聞こえると今度は地面から一槍の巨大な針が飛び出してくる。俺は形態を変えたまま、それに刺し押されていた。
そして若干速度を落としたことを感じ取り、上がりきったかと思うと途端に形態変化が解除され、強烈な光が俺を直撃した。カミナリが俺を直撃した。連鎖して爆発が起きた、何千メートルも先の空から響きがかえってくるような大爆発だった。
「グゥッッ」
食いしばる。直後から巨大な鉄の針は流砂のように粉末になって崩れていく。それをうつ向けに見る俺の身体は動かない。次第に速度を増して落下していく。
「ガぁ゛……」
落下しながらも、ブラッドによる膝蹴りを受ける。次の攻撃は顔に蹴りを入れられることだった。俺は落下の風圧によってぐるぐると姿勢を回されながら落ちていく。フリーフォールというやつだ。
「たわえ無い、情けない」
ブラッドは俺を嘲笑する。その笑いも冷えた空気の轟音によってかき消されて遠くなっていく。俺は動けないまま僅かながらに睨むことしかできない。
「私事の子供たちは、最高ですから」
そう言いたげなブラッドの得意満面の笑みが遠くなってく。
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