9Peace 「痛みと」

「俺は人間を食わない。けれど、殺してきた」「それは事実だ」

 俺は人殺しだった。敵だからというだけではない、民間人も殺したことがある、武装していなくても一方的に殺してきた。その虐殺をこの少女は許すだろうか。

「俺は、吸血鬼になった時から間違いを続けてきた」

「約60年だ」

「俺はガキの頃に大変な出来ごとに出くわして、以降この姿のままだ」

「たわ言は要らない!」

 遮られた、はたして少女は聞く耳を持っていただろうか。俺はその気迫に思わず両手を上げた。

「これまで、殺してきた人々の為の償いになるようなことをしてきたか?」

「これからだ。けれどついさっき助けようとしていたんだ、失敗した」

「何があった」

「耳飾りの特徴的な女が幻像の吸血鬼に……手練だった、手遅れだった」

 この時、少女は憤りを感じていただろうことを、その一瞬の顔に出た表情で俺は感じとった。それを見てたじろいでいた。

「それで、女はどうした?」

「残念だが……」

「生死を聞いているんだ!」

 少女は怒鳴り声をあげた、ここで怒りを出してきた。

「死んだ。吸血鬼になっていたから、俺が」

「黙れ!」

 そこで罵るほどの大声で俺に静止を命令する。苛烈な目をしていた。

「念の為だが、それはどんな耳飾りを」

「……真珠だ」

 おそらく、ウソをつくこともできただろう。しかしそれは少女の望むところではないだろう。同時に、事実を知ることも本意ではなかったはずだ。俺は息を飲んで整える気持ちで事実を言っていた。

「それは私の友だ!」

「そうとは知らなかった」

 この獰猛な表情を見ていられないと思った。その声は俺に罪悪感を与えるに至らなかったが、しかし同情的になるには十分に感じていた。

「大雨が降っていた、洞窟の中だからまだ遺品があるかもしれない、今からでも」

「同情するな!!」

「私は戦士だ、戦友を見送るのも馴れている!」

「けど、……気持ちが分かるんだ!」

 その瞬間少女は、さっきのとは比にならない速度で手斧で切り上げた。腕をいっぱいに伸ばして構えていた斧が、接近に気づく間もなく、右腕を切り飛ばされた。吸血鬼の強固な肉を、この目から逃れてやってのけていた。

「なんだヤワな吸血鬼だな……メスブタをスライスしたかと思ったぞ」

 その声は震えている。失意か、後悔か、最後に手を下した俺への憎しみか。理解するには余りに……。

「これは効くのか?」

 おしゃべりに間を置いたあと、後ろに隠すように持っていた手斧が少女の身体を左回りに打ち込まれる。斧は俺に損傷を与えられる出来をしていた。

 俺は横腹を深く撃ち抜かれ、肋骨に納まることなく心臓まで持っていかれた。しかし影の性質を持つ俺を夜に殺すことは限りなく不可能だった。心臓は素早く謎の細胞活動によって縫合され大きな傷口すら塞がっていく。

「驚異的だ」と思った。感じた痛みは、右から左へ抜けていくように癒えていく。

「はん、これは手を考えないといけないな」

 言うと、少女は怒りの冷めやらぬ表情で自ら斧を破壊した。

 斧は黒曜石を砕くようにあっさり破壊され、それをした手はたくさんの切り傷を負った。

「"Cure save"」

 その呪文を唱えた時手は微弱に発光した。止血しているらしい。

「…………」

 それは歪な自傷行為でしかなかった。

「お前が、殺しさえしなければ……手はあったかもしれないのに」

「それは不可能だ、この世に生きれば覚悟していることだろう」「最初から」

 俺はこんなことを言っている場合でもなかっただろう。なぜならこの少女は理性を持って怒りを用いながら、自分で両手を破壊できるような少女だからだ。交友は諦めるべきかもしれないと思った。

「逃げるべきか」とも考えた。

 俺の迷いを知ってか知らずか、少女はその手を自慢げに見せる。

「八つ当たりに付き合え吸血鬼……」

 その手は斧の刃の破片が随所に貫通した、グロテスクなグローブと化していた。

「痛くないのか」

「知らないのか、痛みは慣れるものだ」

「……」

 病気だ。そう思ったとき我が身を思い出して納得してしまう。

「初めようか」

 こうして少女の八つ当たりが始まった。


 痛くないワケもない。止血したとて拳は壊れている、けれど怪力によって機能を継続させられるこの感触は、度し難い躍動を感じさせてくれた。すなわち怒りを。

 私は地面を強く踏みつける。大地が割れるような音が鳴る。瞬間に砂利や木の根など雑多な多くがわたしの眼前を舞って壁のように覆った。私は手に刺さった破片を千切って投げた「a bless」と唱える。下位神聖魔法で破片に神聖力を付与する技法だ。続けて顔に当たる様、目掛けて掌底しょうていを使い砂利を弾いた。そこで終わらず姿勢を下げて金的に蹴りを入れる。2つの目眩しと物理攻撃を同時に三連撃、それから距離を取って観察した。

 神聖力は邪性のある存在を破壊するものだが、その気配はなかった。しかし驚いたのはそれが一瞥いちべつし確認するまもなく回復していたことだ。

「ここまでの回復力を備えながら半性の成り立ちか」と驚いた。

 人殺しだが喰いはしてない、昔は人間だった。その言葉は嘘を言っていないことになる。

 ここで拳を収めるべきか悩むことになった。この吸血鬼の言うことも正しいとわかっていたからだ。

「もういい、悪かった」

 私は傷だらけの破片が刺さった拳に視線を落としたまま謝った。

「……どうせなら俺をサンドバックにしないか? 憂さ晴らしになる」

 私は反応に困った。なぜなのか、理不尽に殴られ続けたあと、なぜそんな言葉が出てくるのか理解に苦しんだ。

「少し黙らないか、痛いぞ」

「償いと思えばこれくらいは平気だ」

「どうだか、クズにしか見えないぞ」

「フリだが、お手柔らかに」

 言い終わるタイミングで私は奇襲を掛ける。全ての破片を手ごと持っていかれる勢いで手から弾き出したのだ。

「around bless! 死ぬなよボーン!」

 神聖付与した破片を数十投げたあと、さっき置いた斧の方へ走り出す、同時に「save spurt」とモルヒネ替わりの呪文を唱えて棒になった斧を拾う。

「悪いな」

 私が振り返った時、吸血鬼は山の様になった破片を飛び越えて、そんな声と共にどこから持ってきたのかわからない様な真っ黒な大剣を持って空から撃ち下ろそうとしていた。

 私は予測した落下位置から素早く移動すると、回避直後に大剣のつばに棒を槍に見立てて腕の内回りに加えた回転の絞り出した威力を加えて突きを出した。

 それはうまく命中したのがいけなかったのか、大剣に触れるなりすぐ弾ける様につぶれてしまった。「どんな重量してるんだよ」と怒りが湧いたが、それどころではなく、まだ大剣が地面に触れていないことを察知して危険を感じた。次の呼吸をする頃には大剣の刃が地面から私を向いて横なぎにしてきた。「なんで小回りまで効くんだ」とまた腹が立ったが。が、今度はブリッジして下をくぐるようにしながら二本の棒、潰れたものも一緒に使って大剣の刃のへさきに摩擦で引っ掛けてバク宙のようによじ登った。

「吸血鬼として以上のポテンシャルを感じるぞ!」

 わたしは嬉々として言うと横なぎにされた大剣がどこぞかにぶつけられる前に、吸血鬼の顎へ、大剣の上から跳ね上がり回転蹴りを入れた、それこそ人間なら致命傷の蹴りだが決定打にならないことを知っていた、故に私はこう唱えた「enchant save」と棒に補強魔法を唱えて今は二振りの大小と異なる長さの棍棒となった斧を左に長物右に小物を持ち棍棒として巧みに操り、左で横腹を右で顎にカットを左で鳩尾みぞおちを右で喉をそれぞれの長さに最適解を保った扱いで叩きまくる。その攻撃速度は私の怪力と経験に保証されている。

 その後、しばらくわたしたちは打ち合った。怖かろう好きかろう否、怖かろうこわかろうとはこの楽しさを言うのだろう。

 

 気づけば、私は吸血鬼の胸板によりかかり、ただ泣いていた。

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