下町の一角にある小さな居酒屋、鈴乃屋。心地よい空間で人々は安らぎのひとときを過ごしていたのだが。「唐揚げにレモンかけんな!」、突如響き渡る怒号! 場は瞬時に修羅場と化し、レモンをかけた男が怒号を上げた男に刺されて……犯人はなぜ、たかがレモンひとつで人を刺すほど激昂したのか? 相楽刑事は動機に秘められた真実を探る。
以前から多くの人々を悩ませてきた唐揚げレモン問題、こちらはそれに焦点を合わせた一種の問題作となります。
いや、本当に深いのですよ。犯人である芳賀は取り調べに対し、唐揚げへの狂信を語り出します。それはただの与太話などではありません。彼という人間の有り様そのものであり、だからこそ相楽は納得するどころか芳賀に圧倒され、思考の迷宮へと迷い込んでいく。読者的にはその重さについ根源に唐揚げレモンがあることを忘れたくなるところですが、芳賀はそれを赦しません。1ミリもぶれることなく、己が動機を我々へ突きつけ続けるのです。
ひとりの男の人生を垣間見るホワイダニット、お勧めに揚(挙)げさせていただきます。
(「ダニットという謎」4選/文=髙橋剛)