第40話 早めに『参った』してや

 テストだと、八幡先生は言った。

 あらかじめ聞いていたのに、想定していなかった――。


 遠距離こういう攻撃もあるはずだ、と。

 堺先輩との距離は目測で5メートルほどだ。


 ――遠い。


 先輩は、弓を少し傾け構えている。


 弓は、短弓。いわゆるショートボウだ。

 速射性に優れ、欠点としては長弓に比べ射程および貫通力が劣ることだ。


 もちろん、弓矢相手に戦ったことはない。しかし、遊びで射った事なら、ある。

 

 祖父が暇つぶしに、そこらの竹で作ったものだ。適当な紐で弦を張り、木に向かって射る。


 ――これが、相当に難しい。


 おもちゃの弓だというのを差し引いても、俺はなかなか当てる事すらできなかった。ましてや、動くものならなおさらだ。


 まずは、最初の一射を避ける。もしくは、外させる。


 タイガーアイの能力は、自分でもまだ良く把握できていない。

 だが、自分の性格上それほど難しい事は考えていなかったはずだ。


 俊敏はやく。

 強靭つよく。


 そういう身体能力を向上させるものだ。

 どちらにせよ、接近ちかづかないと、話にならない。

 



「――――先生、誰か治してくれる人はおるんですか」


 先輩が、俺から視線を切らずに八幡先生に尋ねる。


「――――いるよ」 


 先生がそう言うのと同時だった。

 金色の矢が飛んでくる。


 避けた。

 いや、


 2射目。


 3射目で、掴めそうなほどだった。


 先輩の矢が遅いのか、いや――こちらが俊敏はやい!


 接近ちかづける!

 そう踏み込もうとした瞬間、腕に熱いものが走った。


 「――――まずは、ひとつ。早めに『参った』してや」



♢ ♢ ♢



 うわ。

 何やこいつ、やる気満々やん。


 タイガーアイ……。


 あれは……尻尾? 耳?

 何か、意味があるんやろうか。


 1年に違法CAデバイス使って、なぜか特進科に入ったやつがおる言うんは聞いた。詳しい事はしらんけど。そんなん許されるんか?


 いや、しかし――――さまにはなっとる。


 誰か強い、おれより怖いやつと戦った感じ。

 怪我をさせずにとは思ってたけど、これは無理やな。


 そもそも、この弓では当たったらそれなりに怪我をさせてしまう。


「――――先生、誰か治してくれる人はおるんですか」

「――――いるよ」 


 そうですか! ならこの金紅石ルチルの矢で射る!


 が、やすやすとではないが、避けられた。

 200キロ近く出ているおれの矢を――。


 2射目、3射目も同じだった。

 あかん、これ以上は目を慣らせるだけや。


 もう『当てる』しかない。

 おれのルチルクォーツの能力ちからで。


 矢をつがえる。

 今までの普通に射るものではない。


 この矢は、おれのルチルクォーツの能力『確率操作』でしている!!


 よし、腕に矢が当たった。

 

 驚いてるな――――。

 避けたはずの矢が当たったんだもんな。


 あんまり舐めたらあかん。ただの力自慢が勝てるほど、――甘くないで。



♢ ♢ ♢



 なんだ!?

 虎太郎には絶対に避けた確信があった。

 だが、現実に矢が腕に刺さっている。


「くそっ――」


 堺は動いていない。

 だが、をされた――それは虎太郎にもわかった。

 そう考えているうちに矢は、ちりとなって消えた。


 当たり前に考えてはだめだ。

 かなでの能力も傷を治す――それこそ超能力みたいなものだ。

 なら、もそういったものと思った方がいい。




(む……)


 虎太郎が半身にするのをみて、堺が内心呟いた。

 正面から見て、当たる範囲を減らす合理的な行為だ。


 だが――。


 この矢とルチルクォーツの能力では、関係ない。

 かえって、虎太郎が物理的に矢を見ている事を示していた。


「なら、怖ないなぁ――。ふたつっ!」


 矢が放たれた。

 迫りくる矢を、虎太郎は目を凝らしてみている。

 今度は、避ける素振りが――ない。


(こいつ――! 避けへんつもりか!?)


 今度は矢が肩口に刺さる。

 ダメージはもちろんあるはずだ。虎太郎の苦悶の表情からも、それは伺えた。

 しかし、堺にはをされた――そう感じられた。




 虎太郎は、今回は矢がギリギリまで当たるのを待ってみた。

 真っすぐ、点のように飛んでくる矢が当たる瞬間を狙って、体を捻る。

 

 完全に躱した――そう思ったが、結果は同じだった。

 この矢はなぜかはわからないが、避けても当たってしまう。


 ダメージは、ある。

 もうこれは喰らっていられない。


 そう思った瞬間にはすでに、堺に向かって疾風かぜのように走り出していた。


(成功するかはわからない、けど――!)


 堺はもう矢を番えている。

 そもそも、矢を番えるというのはそう見えるだけで、実際にはそういう行為も必要ないのかもしれなかった。


「なめるな――! 脚を止めたるっ!」


 虎太郎も早いが、矢の方が速い。

 当たる――堺がそう思った瞬間、虎太郎は自ら脚を当てにいく。


「なにやったって当たるんなら――こっちから当ててみる!!」


 虎太郎は脚に当たった瞬間、その矢を掴んで止めていた。

 タイガーアイで極限まで強化された動体視力と筋力で出来る芸当だった。

 ダメージは、もちろんある。だが、直撃を食らうのに比べれば微々たるものだった。




(なんや!? 当たるのを前提で――こいつ!!)


 今の堺のルチルクォーツの確率操作は『当てる』のに特化している。

 逆に言うと、それ以外は通常の矢と変わらない。


 こういう被弾覚悟で来られるか、矢を通さないほどの防御力を持つものは苦手とするところだった。


「堺先輩――」


 虎太郎はもう、目の前だ。

 この距離では、さすがに弓のアドバンテージもない。

 

 参った――。

 そう言いかけた堺の口より先に、


「――『参った』――降参します。ここから先は、何も考えてなかった――」


 苦笑いを浮かべる虎太郎の顔があった。

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