第7話 適合者
「奏……もしかして超能力者とか!?」
そう興奮する彼をなだめるのに、しばらくかかった。
買ったジュースはすっかりぬるくなり、空は茜色に染まっていた。
「虎ちゃん、このこと内緒にしてね。あまり話してはだめなんだよ」
私は軽く念押ししながら話を切り出す。
「CA(セル・オートマトン)技術。知ってるよね?」
「ああ。あの~電気? みたいなやつだろ?ちょうど朝見たよ」
その答えに、私は小さく頷いた。
虎ちゃんの理解は正しい。
一定の鉱物を触媒として、人間そのものをエネルギー源にすることで、既存のエネルギーのほとんどを置き換えた、世界を変えた技術。
街中のほぼすべての機械がこの技術で動き、生活の隅々にまで浸透している。
人類史に残る偉大な発明だ。
しかし――。
「うん。そうだよ。でも……」
一度言葉を切り、私は少し考える。
説明するべきかどうか、ほんの少し迷ったけれど、誤解を避けるためにも伝えることにした。
「それだけじゃ、ないんだなぁ」
「どういうこと?」
「これはね、学校で習ったことなんだけど」
私はそう前置きして話を始めた。
「CA技術には水晶が使われているんだって。ほぼ99%の人が使えるらしいよ」
「へぇ~、知らなかった」
虎ちゃんは驚きながら頷いた。
教えられる立場になり、少し気分がいい。
「でさ、誰かが考えたんだろうね。水晶がいけるなら、それ以外の鉱物はどうなんだって」
虎ちゃんの表情が少し硬くなる。
「それで……どうなったんだ?」
「結果出てきたの。水晶以外の鉱物と適合した人たちが! そして、その人たちには簡単に言えば『超能力』みたいなのがあった」
私は少し得意げに微笑む。
「それが、私みたいな人たち」
虎ちゃんは目を見開き、驚いた表情で息を呑んだ。
「適合者って呼ばれてるんだよね。私の適合石は、ローズクォーツっていうピンク色の水晶」
「おお! つまり……奏は特別……てこと?」
「そんなことないよ。そもそも、CAデバイスを使えてる時点で、人類のほとんどは
特別。
その言葉が甘く響いて、一瞬心臓が跳ねた。
でも、すぐにそんなことはないと自分に言い聞かせる。
私のローズクォーツの治癒能力は、特別珍しいわけではない。
けれど、その汎用性が高いからこそ、特進科に選ばれたのだと思う。
でも、それを虎ちゃんに伝えると、特別だという言葉を肯定してしまう気がして、言葉にはしなかった。
少し考え込むような顔をしたあと、虎ちゃんは真剣な表情で言った。
「いやでも、俺、初めて聞いた!」
「それは普通だよ」
私は笑いながら答えた。
「適合者は多いとはいえ、おおっぴらに能力を使う場面ってあまりないし。簡単に使えるものじゃないからね」
「あ~そうなんだ?」
「うん。免許を取らないと能力を使えないし、登録や使用履歴の記録が義務付けられてるんだよ。それにCAデバイスと適合石がないとね。特にCAデバイスは使い捨てだから、補充できないと。石だけあってもね」
虎ちゃんは少し驚きながらも納得したように頷いた。
しばらく考え込んでから、
「あのさ! それって、俺にも使えるのか!」
絶対そう、言うと思った。
「YESでもあり、NOでもあるな~」
「なんだよそれ、真面目に聞いてるんだけど!」
「私も真面目だよ。さっき、私のCAデバイスさわって動かしたでしょ?」
「ああ、何も起きなかったやつ……ってことは、俺はダメってことか」
「そうだね。ダメみたいだね。ローズクォーツは」
「―――ローズクォーツは?」
そう。
今では、だいたいの人が水晶以外の石にも適合することが研究でわかっている。
しかし、地球上にある膨大な種類の中から、自分の適合石を見つけるのは運要素が強く、専門機関で検査でもしないと見つけるのが難しいのが現状だ。それなりに費用もかかる。
「そっかぁ……俺も治癒能力が使えるかと……」
「まあでも、仮に虎ちゃんもローズクォーツ適合者だったとしても、私と同じ能力になるとは限らないよ?」
「え? そうなの??」
「そういうものらしいよ。その人の心の、その……なんかがさ! 能力になるんだって」
「なんかがねぇ。俺に合う石も欲しいな。誰かに相談したらわかるのかな?」
「う~ん、うちの学校はCA技術では有名だからね。興味があるんなら、特進科のぱーまん先生にでも聞いてみてあげるよ」
「マジで!? どうせなら、一番かっこいいやつがいいな! ダイヤモンドとか!」
虎ちゃんは目を輝かせて、子どものように笑った。
「きっと見つかるよ。でも、虎ちゃんが望む能力かはわからないけどね」
私もつられて笑いながら答える。
まあでも、ダイヤモンドは適合しても買える値段じゃないと思うよ、というのは言わないであげておいた。
遠くでカラスが一声、カァと鳴き、静寂が戻る。
街灯がポツリと灯り始め、ぼんやりとしたオレンジ色の光が舗道を照らす。
ふと見上げた空には、ほんのりと星が瞬き始めていた。
その瞬間、近くで轟音が響いた。
「っ……え、何だ!?」
虎ちゃんが反射的に声を上げる。
視線の先に煙が立ち上っていた。
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