第2話 漢呪と数呪
「ケケケ…ハハハ!死ね!生き残るのは俺様だ!」
炎の向こう側で気味悪い笑い声が聞こえる。ヘラヘラ笑っているのだろう。
炎と煙が収まり、向こう側が見えるようになる。やはり、気味悪い笑みを浮かべていたが、それも直ぐに収まる。
「なんでだ!なんでお前らは全員生きている!」
錯乱し、大声で叫び始める。確かに、私は【数学者】の能力で公式を書き、球を奴の周りに展開した。だが、それだけでは書いている間に他の人が多少なりとも巻き込まれるているだろう。しかし、今回はそんなことはなかった。一体誰なんだろうか。
「はぁ…服が若干燃えちゃったじゃん…止めてよ…」
目を擦りながら一人の少年が立ち上がる。髪にはボサボサの寝癖が付いていて、右手にはペンを握っている。あぁ。なるほどね。私と同じ系統の能力か。
「もう…止まってて…【漢呪】『乙』」
空中に漢字を書き、欠伸をしながらその場から離れていく。
「ふざけんじゃねぇ!死ね!」
そう言って奴がまた炎を放つが、直ぐに形が保たれず、バラバラに霧散する。更に、走って捕まえようともするが、何かしらのデバフを受けているようで、全然前に進んでいない。
それを見た他の人達が「おおっ」と歓声を上げ、彼に擦り寄っていく。彼の様子からして、自由気ままにやりたいようで、度重なる勧誘にうんざりしているようだった。
そして、気が強い男たちが放った一言があまりにも余計だった。
「おい。そこのチビ。その能力しか取り柄がないんだから大人しく仲間になっとけよ。仲間になってくれれば痛い思いはしないで済むんだが、なっ!」
そう言って彼を殴り飛ばす。武力で制圧する気だろうが、一つ大切なことを忘れている。このペンを使えば、どんなところにでも文字が書けるということが。
「じゃあ…バフを付けてあげますよ…重力にな!【漢呪】『鸞』」
僕と彼を除く全員が地面に沈む。彼の能力のせいだろう。重力が強くなっている。
「へぇ…いいじゃん…」
彼がこちらに近寄ってくる。敵対する意思があるなら今までの経験上、行動にしっかりと現れるのだが、どうやらそんなことは無いようだ。
「これ…どうやってるの…?三倍の重力に耐えられるなんて…」
私の体に指を近づけている。だが、その指は私の体に届くことなく、直前で止まる。
「君と同じ系統の能力だ。【数呪】を使い、公式などを書くことによって、様々な効果が得られる。今、自分の体に纏っているものは卵型の形をしている球だ。自分の体の重心を軸として発動している。卵型は外からの圧力に強いからな。」
「へぇ…面白いじゃん…じゃあ、仲間になってくれる…?貴方なら安心できる…」「……いい提案だ。」
そうして、笑みを彼に向ける。
天才数学者の、魔物を倒す「綺麗な」方程式 むぅ @mulu0809
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