すぐに帰ります!

みとか

第1話 王太子からのプロポーズ

 

「佳奈、どうか私の手をとって。」


 王太子ライナスが片膝をついて私に赤いバラの花束を差し出す。


「申し訳ありません、私には好きな人がいますし、ずっとここにいるつもりはないんです。元いたところに帰ります。」


「きっと私のことを好きにさせます、あなたを幸せにします!」


(聞いてないんかい!)


「いや、だから・・・、お断りします。」


 私は、毅然とした態度で、はっきり言った。

 相手が傷つかないように、なんて、彼には余計な気づかいは必要ない。


「私の何がダメなのですか?なおします!改善しますから、おっしゃってください!」


 変に期待を持たせないように、再びはっきりと口にする。


「ダメではなくて、他に好きな人がいるんです。だからあなたのことは好きになりません。それに、私はここに永住はしません!」


 もう何度目かのやりとり。今日は、王宮の正面からまっすぐ伸びた廊下で繰り広げられていた。


 こんな人通りが多いところで、仮にも一国の王太子がプロポーズをし、断られている。

 今回は目立つところなので、仕事中の文官やら騎士やらが物珍しそうに立ち止まって見ている。ちょっと遠巻きにして。


 私も最初の頃は、人目をはばからず求婚するライナスにびっくりし、焦り、周りを気にしてオロオロしながら、それでもお断りをしていた、やんわりと。

 しかし、回数を重ねるうちに、本人にも周囲に気をつかうのがアホらしくなってしまった。

 だって、話が通じないんだもの!


 私は、ライナスから視線を外し、ゆっくり周囲を見渡した。


(あー、このエリアだと、噂は聞いているけど実際に目にするのは初めての人たちが多いのね。こんな状況、日本だったら即スマホで動画をとられてSNSで拡散よ!しかも相手が相手だけに、マスコミが押しかけてきて私のことも好き放題面白おかしく書き立てるんだわ。ここが、フェルト王国でよかった!)


 それにしたってこのままでは収まらないので、私はライナスの後ろに視線を向けて言った。


「ラルフさん、この状況なんとかしてください!」


 ライナスの後ろで控えている側近ラルフに助けを求めると、彼はため息をつき、ひざまずくライナスの横に同じようにひざまずいて、何やらゴニョゴニョと耳元で囁いた。


「そうだな、わかった。」


 ラルフの言葉を受け入れたのか、そう言いなからライナスは立ち上がり、私に向かって爽やかに微笑んで言った。


「今日のところはこれで引き下がるよ。また来るね。お前たちも驚かせて済まなかった。仕事に戻ってくれ。」


 周りで立ち止まっていた人たちにも笑顔で声をかけ、ラルフと一緒に去っていった。


(ちょっとラルフさん!ライナスになんて言ったの!?今日のところは、ってことは、また同じようなことを繰り返すつもりなんじゃない!?)


 はぁあ〜〜〜、疲れる。


 最初は執務室、次は庭園、次は離宮にある私の部屋の前。図書室、東の回廊、西の回廊、騎士の鍛錬場・・・。あらゆるところで私はライナスからプロポーズされていた。

 まあ、すべて同じように断ってきたわけだけど。

 あんなにキッパリハッキリお断りしているのにまだプロポーズしてくるって、メンタル凄すぎない?

 どうすれば伝わるのかしら。


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