1日目①

2025年、1月6日。

僕は亡くなった両親の墓参りに秩父市に行きました。

元々生まれ育った秩父市。ここには両親と弟たちとの思い出が詰まっています。

墓参りを終えるた僕は、訪れる度に変わる景色と、いつまでも変わらない景色に哀愁を感じつつ、僕は両親とよく遊んでいた公園に足を運びました。


ボロボロの遊具は子供の頃の印象と変わりなく、当時の思い出が鮮明に蘇ってきました。

まさか、両親が亡くなるとは、、子供の頃の僕は思いもしなかったでしょう。


僕は公園を出たあとに古くからある池に向かいました。

「姿見の池」といい、地元では有名な池でした。


僕が池を見ながらタバコを咥えていると、ある事に気づきました。池の水が異常な程に透明なのです。

僕の記憶が間違いでなければ、姿見の池は濁った緑色で、透けて見える事はありませんでした。

しかし、底がみえそうなほど透明でした。あまりにも透明で更に注視しようとすると、池の中に引き込まれるような感覚に恐怖で背筋が寒くなりました。

ただ、尋常ではないそれに「何故だ?」という好奇心が勝り、僕は池の水面に目が離せませんでした。


ザバン!!

水飛沫の音でふっと我に返り、僕は音の方を見ました。水飛沫の音の正体は、誰かが池に飛び込んだ様で、水面が揺れ、ブクブクと泡がたっています。


夏ならともかく、冬場の水は冷たく命の危機に直結します。加えてこの異様な池の雰囲気に只事では無いと感じました。

僕は大声とともに人が飛び込んだ所まで走り、水面を見ました。

飛び込んだのは女性の様で、底の方に沈んでいきます。


「考えている暇は無い」


僕は女性をすくい上げるために意を決して池に飛び込みました。


冬場で気温が低いのに、驚くほどに池の水は温かく心地よく感じました。


そして不思議な事に、意識して潜ろうとせずとも、まるで引っ張られるように池の底に体が進んでいきました。


この時は意識していませんでしたが、今思うとおかしな事は沢山ありました。


池の水が温かい事、水の中でも息が出来たこと、見えない力で池の底に身体が進んでいる事、何故か心地よくて不安が無かったこと。


そして、いつまで経っても池の底には辿りつかずにいました。


池の底がどこまでも遠く感じました。底にすすむにつれて、気づくと自分がどこに向かっているのか?どっちが上でどっちが下か?横も縦も分からない。方向感覚が狂っていました。


引っ張られる方を見ると、薄らと明るい光が見えました。僕は躊躇うことも、もがく事もせずに、光の方へと進んでいきました。


光の正体は水面でした。

私は水面から顔を出して周りを見ました。


さっきまで居たはずの姿見の池と、まるで違う景色の森が池の周りを囲っていました。


ここがどこなのか?

分かりませんでしたし、何が起きているのか分かりませんでした。しかし不思議と気持ちは落ち着いておりました。


近くの陸地に泳いで向かい、1度池からでました。

姿見の池とは形が違う池で、別物である事に気づきました。


池の水面はとても澄んでいて、透き通っていました。池の中には、ほんのり輝くクリスタルのような結晶石が沢山生えており、池の底も見えました。


辺りを見回すと、大きなたいぼくの数々がこの池を囲っていました。

たいぼくは全て同じ種類のようで、焦げ茶色で枝は不自然な程にねじれて曲がっていました。

私は秩父市で18年ほど生きてきましたが、秩父市では見た事のない木でした。


「ここはいったい、、、」


心の声が思わず声にでました。


「木星だよ」


僕の声に答えるように、後ろから女性の透き通るような声がしました。


驚いて僕が後ろを振り向くと、大きなたいぼくの根元に座る3人組の女の子がいました。


女の子は3人とも学校の黒のセーラー服を着ていました。僕の驚く姿をみて3人ともクスクスと笑っているようでした。


「木星だよ。ここは。お兄さんは地球から来たんでしょ?」


言葉を失っている僕に、女の子は再び話しかけてきました。僕は、言葉の意味は分かるけど言ってる意味は分からないといった感じで、余計に頭の中が?でした。


女の子達は僕の放心している様子をニコニコと笑いながら見ていました。


「ここは、、日本じゃないの?」


僕は女の子達に聞き返しました。女の子達は日本という言葉に少し反応を見せましたが、直ぐにまたクスクスと笑いました。


「日本、、といえば日本だよ。とにかく!帝都に行こ!帝都に行けばお兄さんも色々分かるよ」


女の子がそう言うと、立ち上がり案内をしてくれました。


僕は言われるままに女の子達について行来ました。

不思議なことに、大きなたいぼくは女の子達が歩く道を作るように次々と幹を曲げていきました。


空を見ると木々の間から薄緑と薄青の空が広がっているようでした。しかし雲は無く、代わりに空の中に亀裂があり、その亀裂の中からも別の空が見えました。


森の中は明るく土の所々が光っており、僕が気にしてみているのに気づいた女の子が


「ヒカリゴケだよ。これのおかげで森の中も明るいの。」

と教えてくれました。


「あの、、、空に見える亀裂?あれはなに?」


僕が聞くと、女の子達も空を見上げました。

女の子達が空を見上げると、やはり不思議ですが木々の枝や葉が動き、女の子達の視界を妨げないようにしているかのようでした。


「へぇーあれが亀裂なのは分かるんだね。」


「あれはね!説明が難しいんだけど、中間の世界の空が見えてるの!」


「私達の世界ではあの亀裂のことを、空の隙間とか空の割れ目っていってるかなー。」


「私達のいるこの世界は木星なんだけど、木星は地球と違って4階層の大地でなってるの。」


「私達の今いる層は一番下の最下層だよ!あの隙間から見えてる空は中間層だねー。」


僕は女の子達の説明を聞いて、そうなんだと思うしかありませんでした。


僕は

「あのさ、僕もそんなに詳しい訳じゃないんだけど、木星ってガス惑星だよね?

結構早い自転だから物凄い風速で、、つまり、人が住める環境じゃ無いと思うんだけど。」


と質問しました。


女の子達は一瞬ポカンとしましたが、1人の女の子が察したような顔をして答えてくれました。


「あ、地球だとまだそう言う認識なんだね。聞いた事あるよ。」


「えっとね、1番上の大地、、最上層って言うんだけど、最上層は自転の影響で暴風雨が吹き荒れてるし、有害な物質で溢れてるから私たちは住めないし行けないよ。」


「その下の層を上層って呼んでるんだけど、そこも最上層の影響が強くて住むのは無理。だけど、最上層よりもだいぶ風も弱いし、毒性も減ってるから、ちゃんと装備していけば行ける。」


ここまで言い終えると、別の女の子が呟くように

「奴らに会わなければね」

と言いました。


「やつら、、、?」


すかさず僕が聞き返すと、女の子たちは先程と少し様子が変わって声のトーンを下げました。


「上層には人間とは別の生物が住み着いてて文明があるの。私達人間とは対立してるから、行くと大変な事になっちゃう。詳しくは帝都で聞いてね。」


僕はへぇーとしか言えませんでした。


「なんかね。帝都でも説明あると思うけど、木星と地球は別の次元軸で繋がってるの。だからお兄さんみたいにたまに地球から人が迷い込んでくるんだ。」


「みんな状況を飲み込むのに時間かかるんだけどね。お兄さん、これだけは約束して。とにかくダメだよって言われた事は絶対守って。」


「守らずに身勝手な事をした人はみんな死んじゃうからさあ、、、」


死ぬ、、、。僕は帰れるのかどうかの不安しか無かったのですが、死ぬ可能性もあるのかと気付かされた思いでした。


「あのさ、さっきの池?湖??に飛び込めば元の世界、、地球に戻れるんじゃないの?」


僕が女の子達に聞くと、女の子達は首を横に振り、


「最下層には沢山の水溜まりみたいなみずうみがあるんだけどね、なにかの拍子で地球と繋がる事はあるけど一時的なの。」


「簡単に言うとランダムで繋がるってこと!さっきのみずうみが繋がってたから、もう1回飛び込めば地球に戻れる訳じゃないの。」


「どの層にもみずうみは沢山あってね、各層のみずうみ同士がリンクして繋がってるのね。」


「つまりね、さっきのみずうみに飛び込んだら、もしかしたら最上層のみずうみに繋がるかもしれないってこと。」


ここまでの説明で何となくわかった気がしました。そうすると、僕はどうやって帰ればいいのか?


「てことは、僕はどうやって元の世界に帰ればいいんだろ、、、。」


女の子達には更に暗い顔で心配そうに答えてくれました。


「私達が知ってる限りで帰れた人はいないの。ね?」


「うん、、、。」


「言う事聞かないで、みずうみに飛び込んで最上層や上層に出て死ぬか殺される人が多い。」


「後はここで生活して、何とか帰ろうと色々試した人もいるけど、、、」


「僕みたいに地球から来て、今もここで生活してる人はいるの?」


「、、、。」


「居ない。正確には居たけど殺されたの。」


「え、、、」


僕はショックで心臓にドスンとなにか落ちた気がしました。


「その人については帝都で聞けば分かるよ。凄く熱心に帰る方法を探してたから、遺品の中に帰る為の手がかりもあるかもしれないよ。」


女の子達は僕の事を心配そうに見つめたため、咄嗟に僕は作った笑顔で、ありがとう、と女の子達にお礼を言いました。


森を抜けると2m程の自然の崖がそびえ立っており、更にその崖の上にも2~3mの崖が続いていました。

女の子達は元々かけられていたハシゴをよじ登り始め、僕もついて行きました。

普段使わない筋肉を使っているからか、ハシゴを登るのはとても大変でした。


幾重にもそびえ立つ崖を登っていくと、ついに平野にでました。そして数十メートル先に都市部が見えました。


「ついたよ!あの見えてる街が帝都だよ。」


帝都の外見は、日本で言う東京都内で見る、古いアパートのような建物が多くあり、その先には綺麗で高層のビル群やタワーが見えました。


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しんせかい日記 @tokumei9696

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