水泉動く

 水泉動く(すいせんうごく)


 寒い。当たり前だけれども、寒い。

 私の住んでいる地域にはめったに雪が降らないのですが、雪国の人は大変な思いをされた一週間だった様子。わー雪だ雪だ、などとはしゃぐのも申し訳ないし、なにより、もう子どもでもないのでさほど嬉しくもない。雪かきをしなければならないし。

 小寒の次候は【水泉動く】。地中で凍っていた泉が解けて動き始めるから、ということからきているそうだけれど、とてもそんな感じはしません。それとも地面のなかは案外、暖かいのでしょうか。そんなことはない気がする。

 見えないところで春が近づいてきているのだ。今は寒くてつらいが、このままずうっと寒いままでもつらいままでもないのだからね。そんなことを想像させる、というか言い聞かせているのだと思う。もしかしたらだけれども、ごまかしている、としてもいいのかもしれない。

 見ることができないということは、信じるという行為と実に相性がいい。というか、人は見えないものしか信じることができないのかもしれない。知覚を越えたなにかの存在を理屈や根拠なく受け入れること。それが信じることなのかもしれない。知らんけど。

 寒さはどうにもならない。雪国の人にとって白い物体は降ってくる理不尽そのものなのかもしれない。

 積もり、道を塞ぐ。片付けなければ、先に進めない。一方で時とぬくもりにより、自然と消えるものでもある。

 餅をあぶるトースターのオレンジ色を見ながら、缶詰の小豆が煮える匂いを嗅ぎつつ、雪の下の大地の下でなにが起きているかを想像する―

 と、ここで気付く。あほな私は気付く。

 泉とはなんぞ、と。あれでしょ、水が沸くところでしょ? あ、「沸く」だと台所か、「湧く」か。トレビの泉というのも知ってはいるけれど、あれは地下ではなかったような、はて。

 取り急ぎネットで調べる。ふむ、水が地中から自然にわき出ているところ、ですか。意外と想像していたとおりでちょいと拍子抜け。

 ネットに頼らず、こういうときこそ辞書をひく人になろう。歳時記も買おう。あと雪かき用のスコップ……はいいか、別に。後で泣きをみても知らんぞ。

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