第4話 欠落の錬金術師
私用を済ませたアルマはマリーの家へと帰ってきた。
マリーの家はアルマとマリーが暮らす場所であり、マリーの仕事場でもあり、そしてこれからはアルマの仕事場にもなるのである。
それはマリーからも了承済みであった。
「ただいま戻りました」
「おかえりアルマくん。用事は無事に済んだかい?」
「はい。今日から魔術師稼業が始められます」
アルマがそう報告するとマリーは手にしていた道具を置いて作業を中断し、手を休めた。
「稼業の内容は決めたのかい?」
「ものの修復と復元、あとはケガの治療を専門にしようかと思ってます」
「なるほど、キミらしいね」
マリーが尋ねるとアルマは自分の魔術師としての稼業の内容を伝えた。
するとマリーはやはりそうだったかと言わんばかりに薄ら笑いを浮かべる。
「ところでアルマくん。魔術師としてやっていくからには新しい衣装を用意しているのだろう?見せておくれよ」
「見せなきゃダメですか」
「当然だろう。人前に見せていいものかどうか私が確かめてあげよう」
マリーはアルマの魔術師衣装の披露を要求した。
アルマがめかし込むときは必ずと言っていいほどにマリーが関わっている。
目をつけられた以上、アルマはこれを拒むことはできなかった。
「ど、どうでしょうか?」
アルマはさっき新調したばかりの魔術師の衣装をマリーに披露した。
黒を基調とした露出の少ないややぶかぶか気味の衣装はアルマの幼い顔立ちとは対照的に大人びた雰囲気を醸し出しており、帽子にあしらわれた赤い宝石がよく目立っている。
マリーはそんなアルマの姿をじっくりと吟味した。
「ずいぶんと落ち着いた雰囲気のものを選んだじゃないか。キミならもっと可愛らしいものの方が似合うと思ったんだが」
「子供扱いしないでください。ボクだっていつまでも子供じゃありませんから」
「私にとってはキミはどれだけ歳を重ねても子供のようなものだよ」
マリーは飄々とそう言い放つ。
彼女とアルマは同じファミリーネームを持ってはいるが血の繋がりはない。
だがアルマをここまで育て上げたのは他でもないマリーである。
「アルマくん。私からの提案なんだがね、胸元を少し開いてみてスカートの丈をだね……」
「それは嫌です!ボクは絶対にやりませんよ!」
マリーの提案をアルマは全力で拒否した。
最近は女性魔術師の中にも腕や胸元、太ももなどの露出が多い衣装を纏っているものもいる。
アルマもその噂は耳にしていたが自分がそれになるのは願い下げであった。
「なんだい。面白そうだと思ったのに」
マリーはつまらなそうに呟いた。
そんな師の姿にアルマは呆れてため息をついた。
「マスターは今日は何をしてたんです?」
「今朝キミが材料を持ってきてくれただろう。それを使って新薬の研究さ」
「新薬ですか。どんな?」
「人を強制的に酩酊した状態にして嘘をつけなくする薬さ。完成した暁には高値で軍にでも売ってやろうかと思ってるよ」
マリーがしれっと語った内容にアルマの血の気が引いた。
彼女がなぜそんなものを作って軍に売ろうとしているのか、全くもってわからなかった。
「どうしてそんなものを」
「拷問で人を痛めつけて無理やり自白させるより薬でいい気分にさせてさっさと吐かせるほうがよっぽど合理的だろう。そうは思わんかね」
マリーの言い分にアルマは何も言い返せなかった。
確かに彼女の言い分にも一理あったからである。
「でも、飲ませた人はどうなるんですか?」
「そんなこと考えるわけないだろう。まだ実験すらしていないのに」
アルマの更なる問いにマリーはすっとぼけた。
彼女は被験体のことは一切考慮しておらず、ただ己の実験の結果だけを求めている。
人道や倫理道徳を完全に無視したその姿勢はまさに人の心が欠落しているといってもよかった。
「まあ新薬が完成するかどうかはまだわからないからね。それまでまた復元と再生に協力してもらうとしようか」
「お金取りますよ。ボクももう開業しましたので」
いつものように言いまわすマリーにアルマは冗談半分に言い返すのであった。
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