魔法×科学の最強マシンで、姫も異世界も俺が救う!

語部マサユキ

偽りの太陽

プロローグ

 時刻は夕暮れになろうかと言う日が傾きかけた頃、少女は一人家路を急いでいた。

 両親を早くに亡くし、病弱で寝込む事の多い妹に対してたった一人働く事の出来る彼女だけが妹を養える存在なのだと日々奮闘し、そんな境遇を慮ってくれる雇い主のお陰で生活はギリギリでも何とか貧民街で暮らしているのだった。

 ギリギリであっても、それでもただ一人妹さえいてくれれば、妹が笑顔でいてくれるなら彼女は幸せであったのだ。


「今日は奮発してお肉買ったから、あの娘も喜ぶわ」


 帰りを待つ妹をちょっとしたサプライズで喜ばそう、そんな少女のささやかな望みは突然断たれる事になってしまう。


ドゴオオ……ドオオオオオン…………ボオオオオオオン…………。

「……え!? なに?」


 どこからともなく連続して聞こえて来た何かが破壊されたような轟音。

 それがこの王都でも中心にある王城で暴れる巨大な存在のせいであるなど分かるワケも無いが、次の瞬間に貧民街上空に現れたそれを目にした全ての者たちは一様に言葉を失った。


「ド…………ドラゴン?」


 その一言を誰が口にしたのかは分からない。

 しかしその言葉で誰もが理解してしまった……巨大な翼に黒光りする鱗を全身に持つ、凶悪な爪と牙を持った魔物の中でも最も強力で凶悪な存在であると。

 その巨大な存在が気まぐれに降り立つだけで地上の人間は虫けらの如く踏みつぶされ、その気になっただけで巨大な爪や尾は全てを破壊し、大きく開かれたあぎとに燻り続ける炎が解き放たれたら、あらゆるモノが生物も物質も関係なく全てが焼き尽くされる事も……理解できてしまう。

 そして理解してしまった瞬間、貧民街の人々は一気にパニックに陥る事になった。


「「「ウ、ウワアアアアアアアアアア!?」」」


 そんな慌てふためき逃げ惑う人々をドラゴンは鬱陶しいと思ったのか、それとも優越感を覚えたのか、ドラゴンは急降下して爪を振り回すと安普請やすぶしんの建物を一気に瓦礫に変え、更に飛び上がってブレスを吐き出し燃え上がらせる。

 パニックはますます広がり、人々は我先に他者を押しのけて逃げ惑い負傷者も出始める。

 そんな中、少女は一人腰を抜かしていた。

 己に降りかかった死の恐怖ももちろんだが、今のドラゴンの気まぐれな攻撃が自宅の方角では無かった事に一瞬だが安堵してしまい……。

 だがそんな少女を上空のドラゴンは見つけてニヤリと……わらった。

 それは少女が腰を抜かして見つめるその先、そこに少女にとって絶対に失いたくない大切な何かがあるのを分かった上での、汚らしい笑い顔。

 少女の背筋は瞬時に凍り付く。


「まさか……イヤ……イヤ!? しないよね? そんな事はしないよね!?」


 それは言葉が通じるとかそんな事を考える余裕など一切ない心の底からの懇願の言葉。

 たった一つの生きがい、たった一つ残された彼女にとっての生きる意味……妹は病弱で歩く事も困難であるのに、この状況でもしも火など放たれようものなら……。

 上空から見下ろすドラゴンは、そんな恐怖し絶望し、哀れにも自分の命よりも優先し懇願する姿をあざ笑うように、少女の視線の先に向かい、その巨大なあぎとを開き魔力を集中させる。

 巨大なブレスを眼下に吐き出す為に……。


「止めて……お願い……それだけは……あの娘を奪う事だけは…………」

『ゴアアアアアアアアアアア!!』

「ヤメテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


 少女の懇願も空しく、無情にも貧民街に向けて放たれる激熱の業火。

 最も大切な、命よりも大切な存在が無慈悲にも全て焼き尽くされる……そんな絶望の叫びを少女が上げた、その時だった。

 ドラゴンが放ったブレスの前に白く巨大な、金属製の巨人が降り立ったのは。

 巨人は重量ある金属音を立てて着陸するとそのまま両手を天に掲げて、次の瞬間には上空一杯に広がる青く輝く巨大な魔法陣を展開。

 そして間髪入れずに魔法陣を発動させると上空に向けて超低温の極大で激しい嵐を解き放った。


氷獄結晶嵐コキュートス・ダイヤモンド!!』


 解き放たれた低温極大の嵐は凄まじく、ドラゴンのブレスとぶつかり合い全ての業火をかき消してしまう。

そして最後には低温によって生じたダイヤモンドダストがキラキラと舞う中、夕日に照らされ立っていた。

 その姿は神の如き神々しさで、少女はその姿と聞こえて来た魔法の名に生前の母に聞かされたおとぎ話を思い出していた。


「今の魔法って……ウソ、でしょ」


未だに腰を抜かしたまま、夕日を背に雄々しくドラゴンを睨みつける巨人の姿に……少女は思わず呟いていた。


「神様……?」


 それが神様でも何でもないなど知る由も無い少女はこの日、間違った信仰心を持つ事になってしまう。

 残念な事に、誰一人として訂正や否定をする者がいなかった為に。


挿絵①
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