ボイラー
金子よしふみ
第1話
クリスマスを一日過ぎ、年の瀬と言うこの晩にお風呂を沸かそうと思って、ボイラーのリモコン電源を押した。しかし、電源が点かない。何度も押してみたがやはり点灯しない。何年か前にも同じようなことがあって、その時はネズミにコードをかじられたのが原因だった。仕方がないので薬缶と電気ケトルでお湯を沸かして、浴室に持って行って水でぬるくして体を拭いた。そんな簡素な「入浴」を経て、インターネットでメーカーの故障を扱うページにアクセスすると、マニュアルがあるとかで、急いでボイラー本体の型番をチェックしてダウンロードした。該当する対処方法はなかった。今できる対応はしたから、もう明日になって修理会社に電話するしかなくなった。
翌午前のうちに、修理会社に電話をすると、午後一で来てくれるとのことだった。
一時を少し過ぎてスタッフの方が来て、事情を説明すると、ボイラーの本体からチェックを始め、コンセントを確認し、コードをたどり、リモコンを壁から外し引っ張ると、「ああ、やっぱり切れてますね」とコードを見せてくれた。スタッフはコンセントを抜いてから手慣れた様子で修理を始めた。「ネズミって、かじるもんですかね」。「ううん、なくはないですね」。スタッフは動かす手を止めないまま答えた。「ネズミを避ける方法とかないですかね?」と尋ねると、「電気のケーブルには忌避剤が塗られているものもあるけれど、これはなあ」。思案に暮れるのかと思ったら、「アルミホイルでも巻いてみますか」。スタッフの提案にキッチンのレンジの横に置いてあったアルミホイルを渡した。すでにコードの修理を終え、アルミホイルを出し、直したコードにアルミホイル巻いてリモコンを壁に戻してネジを締めた。コンセントを差し込み、ボイラーのリモコンの電源のボタンを押す。ライトが点いて燃焼開始の音がし始めた。ほっとした。「直りましたね」。スタッフは工具箱を片して、玄関い向かった。私は労いにペットボトルのお茶を渡すと、「ああ、これはどうもありがとうございます」。スタッフはペットボトルを軽く上げてから、靴を履いて「それでは」と玄関を出ていった。
夜、恐る恐るボイラーのリモコンの電源を押した。何事もなかったかのようにボイラーは燃焼し出した。蛇口から熱い湯が出る。今日は風呂に入れる。30分ほど待って風呂に入った。この時期、湯船に浸かればたまらない吐息が出るようなものだが、今晩のそれは一味違うものとなった。
ボイラー 金子よしふみ @fmy-knk_03_21
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