第11話 ひとこと余計

 六車線道路の青信号を渡っているとき、前方で突然ぶっ倒れた見知らぬお婆さんを介抱したことがあります。


 平日で数少ない道行く人も、素通り遠巻き。

 なんでだ?!

 私は走って駆けつけるも、彼女ふくよかな上に意識朦朧でびくともしません。

 ヤバい、信号が変わっちゃうっ!


 大声で近くの男性に手伝いを頼んだら、

「なんかあって後から言われたら嫌だモニョモニョ……」


——はああ? アホ抜かせ、今ここで轢かれたらそれこそ終いだろ!——


 実は私は男兄弟育ちで、怒ると存外クチが悪く。

 でも頼む側なので脳内だけにとどめます。


「そんときゃ全部私のせいにしていいです! 早く、信号がっ! お願いします!」


 二人で両方から担ぐようにお婆さんを支え起こすと、自分でもやっとゆっくり歩き始め、歩道に着いた頃には意識がしっかりしていました。

 倒れたときに打ったのか、額から血が出ています。

 

 私はその場に残り、警察も救急も拒否る彼女の話を、歩道脇で聴きとりました。

 ご家族に電話しても出ません。

 私は自販機でお水を買ってきて、傷口を洗ったり、冷やしたり、飲ませたり。


 もう歩けそうだと立ち上がったので、本人の希望どおり救急車ではなく、近くにある彼女のかかりつけの大きな病院まで連れて行き。

 乗り掛かった船です。

 不安がるので、診察にも付き添い。

 結局数時間、最後まで付き合いました。


 やはり家族はお留守。

 もう元気になって一人で帰れるから大丈夫、と言う彼女を、指示するバス停までお見送りすることに。


 すっかり夕暮れ別れぎわ、連絡先を聞かれましたが。

 私はちょうど仮住まいの上、諸事情で本職休職中、今日はバイトが入っていない日でした。

「気にしないで。たまたま居合わせて時間があっただけだから。そうだねえ。駅前の◯◯かどの道をうんとまっすぐ行った店で、晩秋から働く予定だよ。元気になったらいつか遊びに来てね」

と軽口を叩き、名乗らず職場も告げず。

 (職種は世間話の中で話しましたが)

 お婆さんをバスに乗せ、手を振って別れました。




 とある日。

「やっと! やっとお会いできました〜!!」

 店に入ってきた二人連れが私と目が合うなり叫びます。


 ???


 どうやらあのときのお婆さんと、たまたまお留守にしてた同居の娘さんのようです。

 一年以上経ったかな?

 私はお顔を忘れていましたが、よく私の顔を覚えていたなぁ、お婆さんすごい!


 どの角を曲がるか忘れてしまったけれど。

 娘さんが、仕事休みの気候の良い日に、元気になったお母さんを伴い。

 いろんな道をチャレンジして探し続けてくれたそうで。


 うわあ〜申し訳ないことをした〜!

 余計なひとこと言わなきゃよかった。

 

 「でも母と街を歩くのは楽しかったですから」と、贈り物をくださいました。


 軽くて持ち運びにも便利、出会える日まで賞味期限の長いもの。

 それは、フォションのリーフ紅茶缶多数、高級ギフトセットでありました。

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