第9話 それから

その後、俺たちはソファで並んで座ったまま、静かな時間を共有していた。時計の針がゆっくりと進む音だけが響いている。でも、その静けさが心地よかった。


ふと華乃が、俺に寄りかかりながら口を開いた。

「ねぇ、輝人。」

「ん?」

「昨日、私ここに来るとき、すごく迷ったんだよ。」


その言葉に、俺は少しだけ驚いて顔を彼女に向けた。華乃は目を伏せて、まるでその時の心情を思い出すように語り始めた。


「こんな夜に突然行っていいのかなって思ったし、もし迷惑だったらどうしようって何度も考えて…。でも、どうしても…輝人の顔が見たくて。」


彼女の声には少しだけ震えがあった。その言葉を聞いて、胸がぎゅっと締めつけられる思いがした。俺はそっと華乃の手を握り、優しく言った。


「迷惑だなんて、そんなこと思うわけないよ。むしろ…俺は嬉しかった。」


その言葉に、華乃は顔を上げて俺を見た。その瞳には安堵と嬉しさが混ざったような輝きがあった。


「本当に?」

「本当に。華乃が来てくれたから、俺も勇気が出たんだ。昨日の夜、俺が気持ちを伝えられたのも、全部華乃のおかげだよ。」


そう言うと、華乃は少し照れくさそうに笑いながら、俺の肩に頭を預けた。


「そっか…なら良かった。」


しばらくそのままでいると、華乃がふと顔を上げて俺を見つめた。その瞳はどこか少し真剣で、何かを決心したようだった。


「ねぇ、輝人。」

「どうした?」

「もし、また夜に突然会いたくなったら…来てもいい?」


その言葉に、俺は笑いながら頷いた。

「もちろん。いつでも来ていいよ。俺は華乃に会えるなら、いつだって嬉しいから。」


その言葉を聞いた華乃は、安心したように微笑んだ。そして、小さな声で「ありがとう」と呟くと、再び俺に寄り添った。


その穏やかな時間の中で、俺たちはこれからもずっと一緒にいられるような気がしていた。華乃がくれた勇気と、俺が伝えた気持ちが、二人の未来を照らしているように思えた。


これからも二人で、少しずつ、でも確実に歩んでいこう。

そんな想いを胸に抱きながら、俺はそっと華乃の肩に手を回した。

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勇気をくれた夜 輝人 @nog1_love

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