第3話 無法者は未開の島にたどり着く



 旅立ってから直ぐに俺は大型魚の群れに追われていた。理由は単純な話だ。

 

 ──乗っている船が小型の飛行艇だからだ。大型の魔獣からすれば狙いやすい獲物というワケだ。

 

この世界の生態系は空と海は熾烈な環境でありその中で変異した魔獣が溢れている。海の環境を捨てて宙を泳ぐ大型魚が飛行艇を襲って食べることもある。

 

 ある研究者の話では飛行艇の動力源である飛鉱石ひこうせきのエネルギーを必要としているからだと言われる。

 

 実際に浮遊島を移動する際には大型の飛行艇の他に魔獣から襲われ時のために軍事用の飛行艇が周りを警戒している。

 

 俺が目指している【竜の巣】はそういった食物連鎖の頂点に立つ竜が棲むといわれている場所だ。

 

 必要に追いかけてくるこの大型魚の群れも竜の餌に過ぎないのだ。

 

 何よりもこの魔獣達はダンジョンとは違い人間に利益をもたらす存在ではない。倒すとその場で消えてしまい体内で育った飛鉱石を海に落とす。

 

 そうして海に棲む魔獣が空を飛ぶ術を身につけて過酷な食物連鎖の争いに加わるか、そのまま地面にめり込んで新たな浮遊島を海から育てるといわれているが真実を知る者はいない。

 

 少なくともその場合浮遊島として育つまでに何百・何千年という年月が必要だと考えられている。

 

 片刃剣を鞘から抜き、魔力を剣に送り込み斬撃を飛ばして大型魚の群れにぶつけると体内の飛鉱石が光ながら海へと落ちていくのを確認する。

 

 剣を鞘に収め、地図を手に取るとコンパスを取り出す。


  コンパスは方位を知らせてくれる。

 

 そして、進むべき道を示してくれる。方位を知らせる針とは別に目的地を知らせてくれる針があるのだ。

 

 時折浮かんでいる岩があるくらいの空を進む飛行艇ボード


「青い海と空……白い雲もあるけど、それだけじゃな」


 同じ景色をずっと続き先ほどの様に大型魚や他の魔獣に襲われる日々。

 

 そして、太陽の容赦ない日照りで冷静さを失いそうになってくる。日差しから体を覆うローブをまとい、フードをがぶった。積み込んだ水や食料を手に取りコンパスと地図を見ながら大型魚の群れやそれを狙う魔獣から身を守り早一ヶ月は立っただろうか?

 

 気が狂いそうだ。


──だが、飢えたガキどもと悲しむシスターの顔がよぎり頬を叩いて気合いを入れ直す。


 そう思って再び周囲を警戒するのだが、急に風が強くなってきた。地図がパタパタと音を立てている。

 

 「なんだ?」


 立ち上がると風が強くなり、体が倒れそうになるのを耐える。近くの手すりにつかまり周囲を見るが、海は穏やかだった。


 雲の動きも普通だ。嵐など発生しているようには見えない。


 ボートが進むにつれて太陽が遮られる。


「──上か?」


 見上げると巨大な白い雲が渦を巻いていた。間違えない。

 

「──あれが竜の巣か…」

 

想像してたよりも巨大な雲の渦に呆気を取られていると飛行艇が徐々に引き寄せられていることに気づいた。

 

 舵を取るが引き寄せられる力が強く雲の中に引き込まれてしまった。

 

 目の前は真っ白で雲の他にというかなんらかの流れがあるため、それに逆らう方向へボートが動かされる。


 何も見えないが、流れとは逆方向で間違いない。


 エンジンの出力を限界まで上げて使用すると、凄い音を立てる。


 コンパスは二つの針がグルグルと回転していて役に立たず、今自分がどこにいるのかも分からない状況だ。


──ただ、流れに逆らい続けて進むしかない。

 

 そして気が付けば体が濡れていた。とにかく寒い。


 水がしたたり、服が重く感じる。

 

 どうにか操縦をして竜の巣の内部の突入を試みるが真っ直ぐに進んでいるのか、渦中を回っているのかわからない。

 

 「──頼むぜ。オレの女神様…」

 

 首にぶら下げた指輪を握り締める。すると、酷使し続けたエンジンがボンッと爆音を立てて爆発した。

 

 ──最悪だ。舵もイカれてしまったようだ。後は運に頼るしかない。木製でできていた飛行艇はエンジンから燃え広がり、プロペラが黒煙を巻き込みながら回転していた。

 

 限界を迎えた飛行艇は激しく揺れる。ここまでかと諦めかけた瞬間だった。──雲から抜け出すと、目の前に浮遊島を薄目ながらも黙認することができた。

 

イチかバチかと、魔力を流し込みエンジンを無理矢理作動させる。

 

 後方でエンジンが爆発しその勢いに吹き飛ばされたしまったようだ。無事に浮遊島にたどり着くことができたが、乗ってきた飛行艇は破損してしまった。

 

 安堵から腰を下ろして上を見上げると、随分と時間が過ぎていたらしい。空を見上げると日が落ちかけていた。

 

 未開の浮遊島にどんな魔物がいるのか、生態系がどうなっているのか情報がない。まずは自身の身の安全と情報収集が優先だ。

 

 立ち上がり使えそうな物を探し集め近くのそれなりに高さのある岩影に身を潜める。普通の獣であれば火を怖かって近付いてこない。

 

 ──だが、魔物の場合は逆だ。

 

 いつからかは知らないが火の周りには休息している人がいるのをわかって奇襲を仕掛けてくる。この浮遊島は竜の巣の中にある島だ。どんな魔物がいるのか検討もつかない。

 

(ワイバーンやギーブルなら戦闘経験がある。それ以外の竜種。それも最上位種となるとな…)

 

 傭兵冒険者になって魔物や人間相手に武器を取り戦い続けた。傭兵とは結局は金で寄せ集められた使い捨ての駒だ。戦果をあげられたら払う報酬も上乗せしなければならないためになるべく多くの傭兵が死ぬように危険区域に派遣される。

 

 その時に遭遇した魔物の一角だ。

 

 ──【竜の巣】と呼ばれる区域にある浮遊島にいる魔物がどんなヤツのか想像もつかない。

 

  だが、領地としてはかなりの価値がありそうだ。とりあえずはこの浮遊島の生態系を調査しつつこの島を移動させる手段を考えるか手に入れるしかない。

 

…船は直せないネェよなあ。いや、直せたとしてもあの小舟でこの島を引っ張ろうとすれば、またエンジンがイカれるの関の山だろう。

 

 マジで竜でも手懐けてこの浮遊島を引っ張らせないと帰れねぇぞ?

 

 どうするか…にしてもかなりデケェ浮遊島だな。こりゃダンジョンとかありそうだな。──ん、なんだ?

 

  燃え広がった飛行艇の周りにふよふよと浮いたヒト型の物体が三体ほど現れると掌から水を出して消してしまった。

 

「なんだアレ…? ゴーレムにしちゃ小柄だな。ゴーレムは水魔法使えないはず─はっ?メイド…?」 

 

 魔の大陸でみた土や岩石で造られたゴーレムとは違い鎧のような見た目で魔法を使えるゴーレムにそれを使役している白銀髪のメイド服を着た女。

 

どこかで聞いた話だ。──もしかしてここは……ァん?メイド服の女がいねぇ。

 

 「どこに消え──」

 

「動かないでください。貴方があの飛行艇の主ですか?」

 

  気が付いた時には背後に回られており、喉元にナイフを突き付けられていた。

 

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無法者は聖女様が大嫌い 左投げ右打ち @tmo09580712

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